バターとはちみつ【創作】
安物のホットサンドメーカーは、いまいち正しい使い方が理解できていないままだった。
食パンを二枚でなく一枚だけ挟んで焼こうとすると、片面にうまく熱が入らない。ここのところ、完成か未完成かもわからないそれが、朝食の定番になっていた。
香ばしいパンの焼けた匂いは、偽物ではない気がする。
カットされたバターをひとつ乗せて、はちみつをかけて食べる。それもまたお決まりのパターンだった。
食卓代わりの箱の前に座る。パンの欠片をこぼさないように、皿に乗せた。
「第十二回ゆのはな文学賞 最終候補作品」
スマホの画面には、そう書かれている。何度かスクロールし、閉じる。登場人物の名前を見て、その世界に自分がいないことを確認しただけの作業だった。
腕に、しびれと冷えの感覚が一気に戻ってくる。
これが素晴らしい、ここが新しい。ここがもうひとつ。
誰かがつける批評の言葉に、好きや嫌いの文言はない。絶対的な価値がそこにあるものとして、良いか悪いかを判断される。
パチ、と電気ケトルがお湯が沸いたことを知らせる。その音を合図に、止まっていた部屋が一斉に動き始めた気がした。
ホットサンドメーカーには、きっとまだ熱が残っている。触らないと、見た目では熱いか冷たいかも判断できない。
トーストでは、バターが端で溶け、はちみつは反対側へ流れている。私はいつも、その境目を避けて食べていた。
しかし気づけば、使い捨てのプラスチックのスプーンの封を破いていた。それで、混ざっていないところを押して、伸ばす。香ばしい黄色と、甘い透明がひとつになっていった。途中、表面がひび割れて、くしゃりと空気が抜ける音がした。
片手に乗せて、口に運んだ。唇の端が少し汚れる。
味は、分けて食べたときと大差ない。バターとはちみつ。
ただ、どちらの輪郭も少しぼやける気がした。
香ばしい匂いだけは、今日も同じ。
パンをもう一口、かじる。塩気と甘みが、口の中で仲良くしてくれない。
スプーンを捨てる。混ざったバターとはちみつは、もう戻らない。
ホットサンドメーカーは、触らずにコードを抜いた。代わりに、近くにあったノートパソコンのカバーに、もう一度手をかけた。
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書いてる人も偉い。書いてないけど考えてる人も偉い。まぶしい。