推しの青と頬の紅【片想い文芸部】
掃除をしていると、机の奥から青いキーホルダーが出てきた。
なつかしい。もう十数年は前のことだったろうか。
私が心から好きだった「ユウマくん」の写真がプリントされた、シンプルなデザインのキーホルダー。
──今でいう「推し活」、私もしてたんだなあ。
中学二年生のあの頃。
私は、オーディション番組をきっかけに結成されたアイドルグループ「Suiz(スーツ)」に執心していた。
グループは4人組で、メンバーカラーをそれぞれ持っている。
私はその中でも特に、青色の彼、ユウマくんにぞっこんだった。
確か──「ユウマって子、顔立ちがあなたに似てるね」って誰かに言われたからだっただろうか? とにかく些細な理由で、彼を一度意識してしまうと、ちょろい私は気が付けば沼にはまっていた。
誰かを「応援する」ことが、こんなにも毎日に幸福感を与えてくれるなんて。親も学校も、いつだってそんな大事なことは教えてくれない。
ひとり、ポスターやファンクラブの会員費を大切なお小遣いでやりくりする毎日だった。家族からの、やや冷ややかな目に耐えながら。
そんな中、真咲だけは、私のSuizやユウマくんの話題をいつも楽しそうに聞いてくれた。私の当時の、数少ない親友と呼べるクラスメートだ。
私よりもずっと顔立ちが整っていて、スタイルもよくて。
私が男子だったら真咲みたいな子が近くにいたらきっと惚れてしまう...…なんて冗談を彼女に飛ばしたこともあったっけ。
そんなこんなで、彼女も、私と一緒にSuizを応援していた。
もちろん、私ほどは熱心ではなかったけれど。
あれは確か、ある日の教室での会話だったと思う。
私の何の気ない問いかけがはじまりだった。
「ねえ、メンバーの中では真咲は誰が好きなの?」
少し考えて、真咲が答える。
「うーん。私もユウマくんかな〜。」
私の胸に小さい棘が刺さる。
親友も、私と同じユウマくんが好き。それは何も、おかしなことではない。
けれど「私の方が先に好きだったのに」という身勝手な独占欲から、私は彼女に少し不満気な顔を見せていたと思う。
「えっ……被るじゃん。なんでユウマくん?」
「だーって。あんたが好きなんだもん。」
私はこのとき、ぎこちなく笑いながら「まあ、友達が応援してたら自然と目が行くかもね」なんて、必死で自分の嫌な部分をおさえつけていた。
でも、今も記憶に残っている、あのときの真咲の表情。
微かに目元に光を浮かべながら、悲しげな表情で、頬を赤らめていた。
そのきれいな顔に、一瞬どきっとする。
それは奇妙な戸惑いと、理解しきれない感情だった。
しばらくの間、その場の空気には一種の居心地の悪さが漂っていた。
──そうして、学年が上がってから、私たちはつるむことも少なくなり、時を同じくして私のSuizへの熱も少しずつ引いていった。
──でも、どうしてだろう。
私は、キーホルダーのほこりをクロスで拭きとりながら、自室であの頃に思いを馳せていた。
大好きだったユウマくんの歌声も、たくさん買ったSuizのグッズも、もうほとんど思い出せなくなっているのに。
どうして、真咲の赤い頬と「あんたが好きなんだもん」のセリフだけが今も鮮明に浮かんでくるんだろう。
キーホルダーを元の場所へしまい、そっと机の引き出しを閉めた。
胸が、きゅっと締め付けられる。
そんな思いが、私の心のすぐそばを通り過ぎて行った。
※以下「片想い文芸部」さまの企画に参加させていただきました。
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