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ひとりになりました【創作】

私には、もう繋がっていない友達がいる。

数年前になんとなく彼女の名前を検索したときは、まだそのSNSにアカウントが残っていた。

食べ物の写真。出先の施設情報。応援している野球チームについて。ぽつぽつと、そんな近況が綴られていた。書かれている文字からは、平凡で、どこにでもある日常の景色がうかがえた。

ふと、特に意味もなく「ああ、元気にやってるのかな」とたまに覗きにいっていた。そのSNSを私はやっているわけではなかったので、話題を拾いに訪れる、ほんのついでだった。


昔はよく一緒にいた。

深夜までファミレスで話し込んだり。カラオケでオールしたり。なんでもないことで、ふたり笑い転げられるような、そんな関係性だった。

だけど、お互いに就職し、結婚して、環境は少しずつ変わっていった。
……いや、思えばもう友人の結婚のタイミングで、すでに距離ができていたのかもしれない。

先に結婚した彼女の結婚式に、私は呼ばれなかった。

当時、私が職場でごたごたしていたことを話したせいで、相手が気を遣っただけかもしれない。それまでに、ふたりの関係に溝ができるようなことは、少なくとも私としてはなかったと思っている。

その流れで、私も転職後に結婚したとき、結婚式には招待しなかった。

このころには、すでに友人のメールアドレスが分からなくなっており、つてをあたって連絡先を知ろうと動くこともなかった。


その後、彼女に何があったかはわからない。私自身の道にも様々な経験、悩み、試練があったように思う。気づけば、私と彼女の道はその後、重なることなく今までずっと静かに伸びていた。

SNSを通じて、私だけが一方的に、彼女の存在を確認できていた。私はこのテのプラットフォームのアカウントを作らないので、彼女の方は私のことを探すことはできないし、そもそも、もう忘れている可能性だってある。

そんなある日、また、ふとしたタイミングで彼女のアカウントを覗きに行った。

「色々あって、ひとりになりました」

何の写真もなく、その一言だけが数か月前に残されていた。それからは一切、更新されていなかった。

ざっと彼女の過去の投稿をさかのぼってみる。

「もう何も、信じられなくなった」
「こんなことになるとは思わなかった」
「私が一体、何をしたっていうんだろう」

わからない。わからないけど、昔悩みを打ち明けられて深夜に話し込んだときの記憶がよみがえった。

夜の公園。ぼんやりとした月明かり。時期外れの、肌寒い風のにおいを思い出す。私も彼女の顔を見て、つられて涙目になりながら。彼女は色々と抱え込むと、深みにはまるタイプだった。

彼女の投稿に対するコメントには、被害者めいたネガティブな言葉を非難するようなものもあった。

──そして、しばらくすると。彼女のアカウントは、いつの間にか見つからなくなった。

削除したのか、非公開にしたのか、あるいは別の名前で静かに暮らしているのか、理由は分からない。ただ、見つからないという事実だけがそこに残されていた。


それぞれの人生があっていい。別に、発信する必要のないことだってある。深刻な問題が彼女を襲ったのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。その場所に飽きて、去っていってしまっただけという可能性だってある。

私がどこかで彼女に手を伸ばして、声をかけることで何かが変わっただろうか。それとも、結局、何も変わらなかっただろうか。

SNSとは、そもそも何のためにあるのだろう。元々は、気軽に好きなことをシェアして、友達同士でわいわい楽しむ場所だった。

それがいつの間にか、誰かの虚栄心を育て、別の誰かの自尊心を傷つける場所になってしまった気がする。もし、そんなものなら、気持ちは手帳の余白にでも書き留めるくらいで充分なのではないか。

ノートPCの電源を落とすと、モニターは真っ暗になった。目の前の真っ黒な画面には、ぼんやりと自分の顔が映っている。

乱れた前髪、少し疲れた目元。静まり返った部屋で、自分自身だけがそこに残されているように見えた。


私には、もう繋がっていない友達がいる。

繋がっていなくても、連絡が途絶えてしまっても。
心の中で、友達と呼び続けたっていいじゃないか。

そんな、言葉にならない独り言は──そのまま私の胸の奥に、静かに深く、沈んでいった。



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財布野紐ゆるみ 書いてる人も偉い。書いてないけど考えてる人も偉い。まぶしい。