オリジナルソース【創作】
初詣に出かけたときに見かけた屋台だったと思う。今風の出店が並ぶ中で、昔ながらの「焼きそば」の文字は、存在感があった。
僕はお父さんと一緒に、狭い道で身体をうねらせて列を作った。ほぼ朝イチのこの時間帯でも人は多く、両脇に店が出ている関係で、参拝客と混ざって人はごった返していた。
その屋台では、頭に手ぬぐいを巻いたお兄さんが、熱気の舞う鉄板の前で、へらを二刀流でさばいている。そばには「当店オリジナルソース」と書かれた手書きの札が掲示されていた。
お父さんが、ふたり分の焼きそばを注文する。お兄さんは元気に返事をすると、へらを早回しのように動かした。
僕は、そのお兄さんの腰の高さくらい、奥にメモのようなものが貼ってあるのを見ていた。
「イカリ6、オタフク3、ケチャップ1」
あれはたぶん、ソースのレシピだ。
お兄さんの隣にいた、少しやんちゃそうな後輩っぽい人が、こっそり尋ねるのを聞いた。
「これってオリジナルって言っていいんすかね?」
お兄さんは笑いながら、パックした焼きそばに鰹節をまぶしていた。
「うちでしか食えないんだから、オリジナルでい。……まいどあり!」
焼きそばが詰まったパックがふたつ入った、その袋はずっしりと重かった。
受け取りながら、そういうもんか、と僕は思った。
* * *
二十年くらい経った世界でも、「オリジナル」という言葉は、依然として腑に落ちない使われ方をしていた。
俺は寝転がりながら、SNSを巡回する。ネット上では情報やコンテンツが溢れ、楽しむためのものを消費するのに、消耗する日々だった。
「オリジナル曲です! AIと作りました。」
スマホをスクロールする手が止まる。
そう言って、楽曲を発表している人がいる。作詞を担当したのか、音符の配列を調整したのか。どこまでが生成されたもので、どこまでを人の力で生み出したのか。その境界は描かれていなかった。
コード進行すらもすべて任せて「なんでもいいから曲を作って」といって、生成したもの。
これは、オリジナルだろうか。
プロンプトを書く。ボタンを押す。生成内容を確認する。プロンプトを練って再度生成する。微調整を繰り返す。そうして、出来上がる。
これは、オリジナルだろうか。共同制作、ではあるような気はする。
どこからが共同制作で、どこからがオリジナルなんだろう。その定義は、きっと誰も定めてくれない。
* * *
腹が鳴った。
冷凍庫にあった、買い置きの冷凍チャーハンを皿に移す。ラップをかけて、レンジで五分。
ぶうんと光る庫内。回る皿を見ながら、ふと思った。
……これ、俺は今、料理人なのかな。
無論、イチからは生み出していない。だけど、食品メーカーと、家電メーカーと、自分の力で「料理」を生み出している。
チン、と音が響く。レンジの扉を開けると、ぱんぱんに膨れた皿のラップから、油とにんにくの香りがあふれだしていた。
ひと手間加えるのは、俺も好きだ。
さっと刻んで、ネギを散らした。胡椒を振って、ラー油もひとさじ加える。
じゃあ、このくらい手を加えたら料理人なんだろうか。
たまたまだったが、冷凍チャーハンを移した皿は、ちょっとは中華っぽい雰囲気のあるものだった。
それを眺めていると、少しだけ自分が作った気になった。
「いただきます。」
レンゲを用意して、口に運ぶ。あつあつの湯気と、加えた辛味が、美味いという感情の中で好き勝手に暴れている。
チャーハンは熱く、上手に仕上がっていた。
けれど俺の中で、料理人になれたかどうかだけが、まだ温まりきっていないようだった。
一度、レンゲを置いた。まだ立ち上っている湯気を見て、ふと初詣の屋台を思い出す。あの屋台のお兄さんも、こんな気持ちだったのかもな。
少し口角をあげて、ぽそりとつぶやいた。
「うちでしか食えないんだから、オリジナルでい。」
あの一言を、今なら少しだけ理解できる気がした。
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書いてる人も偉い。書いてないけど考えてる人も偉い。まぶしい。