帰り道、公園。アスファルト【創作】
ちょっとした思い出のある公園だった。別に、ここに寄る必要はなかったけれど、私はベンチに腰を下ろした。
転がしているキャリーケースには、行きの荷物の半分くらいしか入っていない。特急券が買えず、バスと在来線を乗り継いでの復路になった。
周りの植物は、暗さのせいで上方は闇に溶けている。一方足元では、昼間の熱を吸ったアスファルトが、足裏からじりりと熱を返しながら白く浮いていた。薄暗い街灯だけに照らされて、触らなければまるで雪みたいに見える。
相談したとき、母親は「帰ってくるなら迎えに行く」と言ってくれた。
戻れる場所がある。けれどそれは、居場所が他に残されていないという事実でもあった。
残りわずかの充電では、スマホで通話するのも難しいだろう。返信画面を開いて、「迎えに来て」まで打って、消す。
さっき打った文字だけが、頭の奥で漂っていた。
ここまで自分の足で来たのだから、残り数十分歩くくらい、なんでもないことのように思えた。あの日より、荷物は少ない。捨ててきたものも、きっとある。
終電の時間だって、もう気にしなくてもいい。そう思うと、もうしばらくここに座っていたい気持ちもあった。
戻りたい。戻りたくない。景色の向こうに遊具が見える。あの夜、ブランコの鎖を握ったまま、彼は「絶対うまくいくから」と笑った。
顔を伝って、汗が一粒、靴の傍にぽたりと落ちた。丸くて小さな染みができ、そのアスファルトが雪ではなかったことを思い出させる。
冷たくもない、ただ熱を溜めこんだ石だった。雪みたいに溶けたあと、汚れることもない。
足元に染みをこれ以上作りたくなくて、私は腕を使って額と頬を勢いよくぬぐった。キャリーを引いていた右腕だけが、時間の長さを訴えていた。
そのまま消えてしまうだけなら、楽でよかった。でも、私の抱えているのは、滲んでぼやけても、ずっと残る熱だった。
ごめん、って嘘でもいいから頭を下げて、平気なふりに戻りたい。
両足に力を込める。身長の分、視界の白は広がった。疲れていたはずの腰は、思いの外、軽かった。
公園の中に、あのころの音はない。遠くの方で、車の音だけが聞こえている。
拳の中に汗の粒が握り込まれ、爪が手のひらに食い込む。その跡だけが、しばらく消えなかった。
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書いてる人も偉い。書いてないけど考えてる人も偉い。まぶしい。