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梯子の上【創作】

中学校の校舎の裏に、古びた梯子が立っていた。

誰がたてかけたのかはわからない。少なくとも、学校関係の業者が放置したわけではなさそうだ。

このあたりは普段は誰も来ない。草むしりをやらされる時期以外、なにかの行事で近づくこともない場所だった。

「のぼってみる?」

友達の声に押されるまま、僕は梯子の下に立った。

木の部分はところどころ朽ちていて、踏むたびにぎしりとした足ごたえがある。下には斜めに傾いた土が広がり、もし落ちても大怪我にはならなさそうだが、それでも心臓は速くなる。

上を見上げると、空はまだ青く、風が少し冷たい。もし先生や親に見つかったら怒られるだろうか──そんな思いが、胸の奥で小さくざわついた。

なんとなくのぼりながら、母親と言い合いになった日のことを思い出す。
決して不自由な暮らしというわけではない。だが、スマホを買ってくれないことや、門限のせいで好きに遊べないこと。日常で感じる精神的な窮屈さに、鬱憤がたまっていた。

一歩、また一歩。木の板がぎしぎしと音を立てる。踏み外さないように、慎重に足を運ぶ。途中で振り返ると、友達の顔が見えた。笑っているけれど、やはりどこか緊張している。

僕も同じだ。ここに立つ瞬間、いつもと違う自分が見えるような気がした。

頂上に着くと、校庭が遠くに小さく見えた。日常が一気に遠くなる。屋根も、花壇も...…。いつもの景色が、まるでミニチュアの模型のようだった。

ここにいるとほんの少しだけ、大人の目で世界を見ている気分になる。声を出すと、風が梯子の隙間を抜けて、耳の中へくぐもった音を運んだ。

「...…怖い?」

「んなわけ。小学生じゃねえんだから。」

笑いながらも、胸の奥がぎゅっとなる。恐怖と好奇心が混ざり合った感覚。そして、静かな緊張感。少しの間、世界の時の流れがゆっくりになったような感覚を味わっていた。

梯子を降りるときも、踏み外さないように慎重になる。握る手が少し冷たい。のぼりはじめてから大して時間は経っていないはずだが、空はすっかり茜色に染まっていた。

校庭に足を着けたあとも、あの頂上から見下ろした世界が、体の中にじんわり残っている。風の感触、空の色、友人の笑い声。すべてが、いつもより少しだけ特別だった。

こんな瞬間を、人生であと何回感じられるんだろう。
制服の泥を払いながら、僕は帰り道でそんなことを自問した。


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財布野紐ゆるみ 書いてる人も偉い。書いてないけど考えてる人も偉い。まぶしい。