【40代限界逃亡 #12】正解を探しているうちに何も選べなくなった
インドのヨガ学校で哲学の授業を受けていたとき、先生がこんなことを言った。
“There is freedom in choicelessness. There is bondage in choice.”
「選択肢がないことには自由があり、選択肢には束縛がある」
先生はNetflixの話をした。
昔はテレビしかなかった。
流れている番組を見るしかない。
でも、それなりに楽しめた。
今はNetflixを開けば何万本もの作品が並んでいる。
映画もドラマもドキュメンタリーもある。
何でもある。 でも私たちは作品を見る代わりに、延々と作品を探し続ける。 そして結局、 「今日は何も見なかった」 となる。 教室のみんなが笑った。 私も笑った。 そして少し考え込んだ。
私はこれまで、
選択肢が多すぎて困る人生を送ってきたわけではない。
むしろ逆だった。
選択肢が少ない人生だったと思う。
昭和生まれの私たちは、
少なくとも私の周りでは、
家庭は女性が回すものという空気がまだ強かった。
共働きでも、
子どもが熱を出したら迎えに行くのは母親。
学校から電話が来るのも母親。
習い事の送迎も母親。
仕事を続けるかどうかの判断にも、
自分以外の事情がたくさん入り込んでくる。
コロナの頃、
息子は後遺症のような症状で頻繁に発熱していた。
やっと見つけた会計事務所の仕事も辞めることになった。
続けたかった。
でも続けられなかった。
その時の私には、
在宅勤務ができる仕事を探す以外の選択肢はほとんどなかった。
だから正直、
選択肢が少ないことに自由を感じたことはない。
選択肢はあった方がいい。
それは間違いない。
でも先生の話を聞きながら、
もしかしたら
「選択肢が多いほど幸せ」
というわけでもないのかもしれないと思った。
転職活動をしていた時もそうだった。
求人サイトを開けば、
昔よりずっとたくさんの仕事が並んでいる。
選択肢は確実に増えている。
でも増えたからといって、
決断しやすくなるわけではなかった。
むしろ、
「もっと良い会社があるかもしれない」
「もっと条件が良い仕事があるかもしれない」
「この選択で本当にいいのだろうか」
そんなことばかり考えていた。
選択肢が少なすぎるのも苦しい。
でも多すぎるのもまた苦しい。
先生が言いたかったのは、
きっとそのことなのだと思う。
授業の中で先生はこんな言葉も話していた。
“We don’t choose yoga.
Yoga chooses us.”
「私たちがヨガを選ぶのではない。
ヨガが私たちを選ぶ」
初めて聞いた時は、
少しスピリチュアルすぎると思った。
でも今は少しだけ分かる気がする。
数年前の私に、
「あなたは会社を辞めてインドのヨガ学校へ行くよ」
と言ったら、
絶対に信じなかったと思う。
私はヨガの先生になりたかったわけではない。
悟りを求めていたわけでもない。
人生の目的を探していたわけでもない。
むしろ逆だった。
何も見えなくなっていた。
仕事も限界だった。
体も限界だった。
将来も見えなかった。
当時の私は、
「本当に大切なものが分かったからインドへ行った」
わけではない。
そんな格好いい話ではない。
ただ、
このままでは駄目だと思った。
それだけだった。
正直に言うと、
あの頃の私はかなり追い詰められていた。
今振り返ると、
「インドへ行けば人生が変わる」
なんて前向きな気持ちではなかった。
むしろ、
何かを見つけたくて行ったのでもない。
何も見えなくなったから行った。
先生の言葉を借りるなら、
私がヨガを選んだのではなく、
気がついたらヨガのある場所に流れ着いていた。
そんな感覚の方が近い。
授業の最後に先生はこんな言葉も紹介してくれた。
“Every saint has a dark past.
Every sinner has a bright future.”
「どんな聖人にも黒歴史があり、
どんな罪人にも明るい未来がある」
そして続けた。
“You can’t be old and wise without being young and stupid.”
「若い頃に失敗せずに、
年を取って賢くなることはできない」
私はまだ賢くなれている気はしない。
相変わらず迷うし、
不安もある。
でもインドへ来て思う。
人生は、
いつも正しい選択ができる人だけが前に進めるわけではない。
何も分からなくても。
答えが見つかっていなくても。
未来が見えていなくても。
それでも、
「今のままでは駄目だ」
という感覚だけを頼りに、
一歩動くことはできる。
少なくとも私は、
そうやってここまで来た。
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▶︎【転職活動】「頑張れば報われる」を信じて、私は20年働いた。
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会社を辞め、インドへ逃亡するまでの話はこちら。
▶︎ 第1話:ハワイでも温泉湯治でもなく、私が「インドの山奥」へ逃亡した理由
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