【医療制度】 「負担者の声なき」審議会の根本的問題
— 厚生労働省が全てを握る審議構造の限界 —
▼ 誰が同意したのか
日本の医療費はブレーキが壊れている。2023年度の国民医療費は48兆915億円と過去最高を更新し、現役世代が給与から天引きされる健康保険料は上がり続けている。
しかし、誰かがこの上昇に「同意」した記憶はない。
それもそのはずだ。保険料を決める仕組みに、実際に払っている人間がいない。 これが本稿の核心である。
▼ 「責任実装」とは何か
本稿で使う「責任実装」とは、意思決定者がその結果のコストを自分でも負う構造のことを指す。
医師が診療報酬を高く設定しても、その医師は患者として保険料を払う立場でもある——ならば一定の自制が働く。
だが現実には、決める人と払う人が完全に分離されている。
これが「責任が実装されていない」状態だ。
言い換えれば、国民の負担である診療報酬の決定に、負担者である国民のチェック機能が実装されていない仕組みである。
▼ 全てを握る中医協
診療報酬(医療行為の価格)と薬価は、中央社会保険医療協議会(中医協) が2年ごとに改定する。この数字が決まると、各保険者(健保組合など)は財政に合わせて保険料率を引き上げるしかない。
つまり中医協の決定が、保険料の上昇を実質的に規定している。
中医協の構成は三者だ。

そして委員報酬は全員、厚生労働省の予算から支払われる。
事務局・開催場所・資料作成も厚労省が担う。
▼ なぜブレーキが効かないのか
構造を整理すると、保険料上昇を止められない理由は明快だ。
診療側が有利な場——医療費を「使う側」の代表が7名、「払う側」も7名だが、後者は組織代表であり現役個人の切実な負担感とは距離がある
厚労省への依存——報酬も事務局も厚労省が握るため、「現場維持」という省の論理が優先されやすい
上限規制の不在——医療費の総額にも、保険料率にも、法的な上限が存在しない
自動増加する拠出金——後期高齢者支援金など、法律で義務付けられた拠出が自動的に膨らむ
この四つが重なった結果、誰も意図していなくても保険料は上がり続ける構造が完成している。
▼ 責任を実装するために
問題の根は一点に集約される。
中医協が厚生労働省から独立していないことだ。
委員の選定と報酬を厚労省から切り離すだけで、審議の力学は変わる。
決める人が結果のコストを負う仕組み——それが責任の実装である。
国民皆保険を守るためには、まずこの審議構造そのものを問い直さなければならない。
この構造を一枚で示すと、こうなる。
国民(保険料負担)
↓
医療制度(厚生労働省)
↓
医師(サービス量を決定)
↓
国民(医療サービス受益)
※サービス量の決定権と負担が分離
※責任が戻らない構造
これが、責任が成立しない制度構造である。
