架空男子大学生・木村霜之助の日記 ①
木村霜之助と仲間たち
木村 霜之助
架空男子大学生(三年生)。
「眼鏡をかけていそう」とよく言われるが、
裸眼。
平岩 新
木村の高校・大学の同期。
「タイムリープしてそう」と言われたことはないが、意外としていた。
*『タルトレット・ワンダーランド』参照(しなくても影響はない)。
辻 未来
木村の大学の同期。
「中華料理好きそう」と言われたことはないが、案外恋人と中華を食べまくっている。
*『町中華屋のマイコー』参照(しなくても影響はない)。
2025年6月1日~10日の木村霜之助の日記
2025年6月1日 晴れ
平岩が書いてみろと言うので、日記を始めてみる。
平岩の進言に従う道理はないが、大学受験期に小論文指導を受けた恩がある。かつ、それを今更引き合いに出し「木村の小論文はブログのようだった」「お前ブログは才能あるんじゃね」等の軽口を叩かれた。
平岩よ、今時の若人はブログなど書かない。時代は日記だ。日記本だ。この、誰に見せるでもない(というていの)日記をいずれ製本し、俺は第二の小原晩になる。
それにしても、小原晩はきっと弁当殻を放置などしなかっただろうに、唐揚げ弁当くらい食べさせてやってもいいじゃないか。ただ単に「ここで唐揚げ弁当を食べている奴がいる」という事実だけが気に食わないのだとしたら、そいつは人間社会に向いていないのだ。
悲しい気持ちになってきたので、やめる。
昼飯、てんやの天丼
2025年6月2日 曇り
ゼミ。他のゼミ生の研究計画を皆で聞く。うっかり口を出しそうになるが、俺は人のことを言えるほど偉いのか? と己に問うて、堪える。隣に座ってた辻が普通に口出ししていて、しかも割と芯喰ったことを言っていて悔しかった……「口出し」ではなく、「指摘」と書くべきだった。書き直すか。いや、それは俺の劣等感を帳消しせんとする行為だ。俺は、俺の至らなさを受け入れる。どうぞ原文ママでお読みください。
そのまま辻と学食に行く。辻に
「辻は他者への指摘が上手い」
と言うと辻がドヤ顔で
「俺は常に改善や伸び代を考えて物事を見ている。この学食だってそうだ。先日『タルタルソースの出る蛇口を設置して欲しい』と要望を出したから…」
「設置されるのか」
「されたらいいなと思ってる」
数秒無駄にしたな、と思っていたら、隣のテーブルの男子大学生がガタッと立ち上がり、スマホで電話を掛け大声で
「おい、学食にタルタルソースの出る蛇口設置されるらしいぞ」
と言いながら去っていった。
テーブルが重い沈黙に包まれる。俺は、「女子高生の根拠のないたった一言が拡散され、信金の取付騒動が起きた」という事件について話したところ、辻が真っ青になり、
「待って!!」
と駆け出した。
辻とあの学生しか信じないだろうから安心して欲しい。蛇口から出るタルタルソース、風味が落ちる。
昼食、チキンカレー
2025年6月3日 雨
人狼ゲームがやりたくなった。平岩・辻(以後、平&辻)に提案したところ、もう少し人数がいないとつまらないだろう、と指摘された。人狼大会の実現のため、誰を招集できるかを話し合う。平岩が、高校時代から仲の良い阿波田さんを挙げると、辻がスッと右手を挙げ、自分には平岩・木村(以後、平&木)と阿波田さんしか友達がいないので、阿波田さんは俺の紹介要員ということにしてくれ、と言う。俺が
「辻、友達はスポーツクラブの新規会員じゃない」
と言うと顔を赤くして俯き、でも本当に居ない、と言った。可哀想になったので
「辻、俺が辻の紹介会員になろう」
と言うと、辻は近年稀に見る朗かな表情を見せた。しかし、平岩に
「いや、木村の発案なんだから木村はスポーツクラブで言ったらオーナーだぞ」
と諫められた。結局、辻が割と親しくしている同期を挙げていく山手線ゲームをした。結構続いた。しかも辻が突然に記憶力を発揮して無双し、上機嫌になっていた。
夕飯、カップヌードルラクサ二つ
2025年6月4日 曇り
バイト。珍しく室長が皆に昼飯を奢ってくれるという。リーダーと沢森さんも伴って、四人でファミレスに行った。何と、室長以外終始無言だった。室長が前職の芸能マネージャー時代の話をしてくれるが、全員が「ほう」「それは結構な」等の相槌しか発話しない。辻との沈黙の食卓とは、気まずさが段違いだ。
室長、本当は俺は興味深く聞いていたんです。ただ、「ほう」以外の感想を抱くのが下手なだけなんです。そう教室のブログにコメントしたい。面と向かって伝えることなどできないから。
この日記本がベストセラーになった暁には、この声が室長の元まで届くだろうか。室長、尊敬しています。教室の給茶機の茶葉のランクを上げてください。藻の臭いがします。
昼飯、チーズインハンバーグ定食
2025年6月5日 晴れ
四限のプログラミングの授業が辛すぎる。受講すればプログラミングができるようになるとばかり思っていたが、教授の言っていることが全く分からない。こういう時に「ちょっと何言ってるかわかんない」「日本語でおk」といった表現をしたくなるが、残念ながらプログラミング言語は日本語ではありません。
教授が、学生の暗い表情を察し「いいですか、一五三ページの問一~三をテストに出しますよ、ここですよ」と都度教えてくれるようになった。しかも、授業の最後におさらいをしてくれる。講義内容ではない、テストに出すページのおさらいだ。優しすぎる。冒頭、辛すぎると書いたが、何だかんだ受講して良かった。これで実際のテストで全く違う問題を出されたら、デスゲームのようだ。教授、どっちですか。優しさか、フリか。
昼飯、ミックスフライ定食
2025年6月6日 曇り
晩酌がしたくなったので、家でカルアミルクを飲む。平&辻の前でカルアミルクを飲むと毎度馬鹿にされる。「あたりめを肴に飲むカルアミルクは旨いか」等。甘味・乳脂肪のコク・イカのうま味・コーヒーの香ばしさ。まずい要素が一つもない。
辻もカシオレばかり飲む。平岩が「カルアミルカー木村と、カシオラー辻」とほざいたことがある。辻&木で「ハイボウラー平岩が一番ダサい」とやり返した。
今になってムカついて来たので、平&辻とのグループラインで「結局一番ダサいのは誰かはっきりさせよう」と送った。まだ返事はない。
夕飯、ふかし芋 with イカの塩辛、あん肝ポン酢、酢だこ
2025年6月7日 曇り
結局、平&辻からは「知らねー!」「ちょっと何言ってるかわかんない」というスタンプだけが届いた。昨夜は俺も酔っていたので、多少反省はした。
バイトの昼休み、なんと室長がまたしても全員に昼食を奢ってくれた。妙に羽振りがいいが、ちゃんと納税しているのだろうか。俺が大学を卒業するまでは持ち堪えてほしい。
今回も沈黙の食卓になりかけたが、
「友人たちと誰の二つ名が一番ダサいのかを議論している」
という話題を提供したところ、意外と盛り上がった。沢森さんが、
「音部門とそもそものドリンクが野暮ったい部門で考えたらどうか」
と提案。結果、音部門では「カシオラー辻」、そもドリ部門では「カルアミルカー木村」が受賞した。不服ではあるが、最終的に受賞者という肩書を得たのは悪い気はしなかった。
帰宅後平&辻に選考結果を通知したところ、案の定平岩が
「なんだろう、俺なんでちょっと悔しくなってんだろう」
と言っていた。辻は
「皆さんによろしく」
と言っていた。
昼飯、和風おろしステーキ定食
2025年6月8日 雨
平岩が「そろそろドンジャラをやろう」と言い出したので、辻宅に集合。したかったが、辻が夜から予定があるというので無しになった。絶対に、彼女だ。辻が学校とバイト以外でわざわざ予定を入れるなんて、彼女以外ない。俺が
「彼女だろ」
と送ると、「それってあなたの感想ですよね」スタンプが届いた。
「これって感想じゃなくて推測ですよね」と送ると、「だる」「そうだよ」と返ってきた。
結局俺の部屋に平岩が泊まりに来たが、「辻が彼女の存在を公に認めた」という話題でしみじみとしてしまった。というか、平岩がやたらしみじみ「ここまで長かった」とか言っていた。
水を差すようで申し訳ないが「そうだよ」は「これって感想じゃなくて推測ですよね」という指摘に対して己の非を認める発言だった可能性もあると思う。
昼飯、醬油とバターをかけたパスタ
2025年6月9日 晴れ(急に暑い)
辻が予定がなく、かつ平岩もバイト後なら空いているということなので、ドンジャラ会を開催中だ。そう、今俺は辻宅で、ドンジャラの合間の休憩タイムにこの日記を密かに書いている。せっかくなのでこのライブ感を活かしたい。
まず平岩、足が臭い。一日頑張った証、お疲れ様ですと言いたいが、いかんせんここは辻宅。どうにかスムーズに平岩に足を洗わせたい。
あ、平岩が今、「平岩このタイミングに風呂行っといたらどうだ」を頂きました~。ありがとうございます。辻の「風呂行っといたらどうだ」なんてなんぼあってもええですからね。
あなたは今、こいついつになくご機嫌だな、と思っているだろうか。その通りです、俺は今カルーアをキメたあとドンジャラで圧倒的勝利もキメたので、最高の気分なのです。
辻も酒飲んでるので饒舌だ。昼間クレーンゲームで取ったのだというぬいぐるみをひとつひとつ紹介してくる。名前も付けたらしい。メンダコのメメ、シマエナガの島江、アンパンマンのパン太郎。
「アンパンマンには『アンパンマン』という名前があるだろう」
と言うと、メンダコもシマエナガもアンパンマンも同じぬいぐるみなんだから、一人だけ俺たちが名付けないのは可哀そうだろう、と言った趣旨のことを言っている。「俺たち」。ゲーセンデートか、平和だな。
そうこうしているうちに平岩が戻ってきたが、おい、若干まだ足が臭いぞ。あ、辻が「足臭くね」と言った。
2025年6月10日 晴れ
昨日の昼飯、コロッケそば大盛り
昨日の日記を読み返すと辛い。恥ずかしい。ミルクボーイの真似をしているが、文章でも下手くそなのが伝わる。しかしあのテンションを日記の中だけに留めたことは評価したい。ちなみに平岩は、足が臭いと言われても「え、マジ? 辻のボディーソープ軟弱だな」と言い風呂場に戻っていった。二人、案外気を使うところのない関係性だ。俺も次平岩の足が臭かったときは、躊躇なく言おう。
ここまで書いて思ったが、俺は自分の足が臭いという可能性を全く考慮に入れてなかった。これから嗅ぐので、よろしくお願いします。
聞いてください。無臭でした。すごい、俺はものすごい可能性を秘めているのかもしれない。なんといっても今、二十一時。一日中、パソコン教室のバイトに勤しんで、それでも尚、無臭。もし将来俺に娘ができて、父親の下着と自分の下着を一緒に洗わないで欲しい旨を申告してきたら、
「安心なさい、父は無臭だ」
と伝えてあげよう。今、若干安村っぽくなったが、語尾が「ですます調」ではないのでNo安村。
夕飯、肉野菜炒め丼
