エルヴェ・ル・テリエ『異常(アノマリー)』加藤かおり訳、早川書房
この簡単かつハードな題名から何が想像できるだろう。異常な性格の人間の犯罪? それはあまり好みではないんだけどな…。しかしいつも面白いものを読んでいる知人が面白いと言っているので(ただし中身については言及なし)きっと面白いのだろう。
そう思って買ったのだが、第1章がいきなり殺人マニアの話だし、登場人物リストを見るとFBIとか国家安全保障局とか、各種研究者までずらりと並んでいるので、本格的犯罪小説なのかもしれないと不安になってきた。そういうハードなのは苦手なのだが。でもとりあえず買った本なので読み進む。むむ。やたらに登場人物が多い。おまけにそれぞれの環境が違いすぎる。きっと最終的にはこれらの人が関連づけられるのだろうが、それにしてもごちゃごちゃしている…。
みんな、飛行機に乗っている…。
というところで、これ以上内容を明かすわけにはいかない。本書を読む予定の人はここから先は読んではダメです。
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さて、こわごわ読み始めたこの本だが、恋愛要素もいくぶんあり、おまけに文学的なユーモアが随所にあって、くすっと笑えるところも多かった。たとえばトルストイの有名な文句をパロディにして「穏やかなフライトはみな似ているが、荒れたフライトはみなそれぞれに荒れている」と言ったり、ある作家が次の小説の題名を「冬の夜に百四十三人の旅人が」にしようかと思ったり(カルヴィーノのパロディ)。一番おかしいのは、登場する政治家のうち、習近平とかマカロン大統領は実名で出るのに、アメリカ大統領は名前を伏せて、「金髪のかつらを被った肥えたハタのよう」と描写したりするところ。この大統領が教養も頭脳もなくて、すごくトランプっぽいのだ。
最後まで読むと、これは犯罪小説でもないし、新規の推理小説でもなく、科学的なSFでもないし、深刻な人間ドラマでもない、なんとも形容が難しい小説だとわかる。まぁ無理して簡単に言ってしまえば、「異常な事態」についての本なんです。
全体にさりげなく漂う軽いユーモアが気に入った。解説を読むと作者はカルヴィーノやレーモン・クノーなどの「ウリポ」の作家らしい。なるほどね、と思った。恐ろしそうな題名(ハードカバーは表紙もなんだか怖い)にめげずに読んでよかった。面白かったです。
