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【短編】星を買ったら灯台に入れて

(1898文字)

星を買うことにした。
星を売る店を見つけてからずっと買うか悩んでいた。
だっていくら「本物の星売ってます」と書いてあったって
本当に星を売っていると信じて買いに行ったりしたら
良い大人のくせにバカみたいだと思ったのだ。
でも決めた。
もうバカみたいとか気にしないし、やりたいことを先送りする人生をやめると決めたのだ。
悩んでいるうちに星を売る店が無くなったらすごく後悔する。
人生に後悔を増やすのはもうヤメだ。

星を買ったら灯台に入れようと思う。
灯台守になるのが私の夢だったけれど、
灯台守になったら灯台に責任を負うから迷っていた。
でももう私は何にだって責任を負う。
人生には責任がつきものだ。
逃げてはダメ。
今まで逃げすぎていた。
もう決めたから迷わない。

どんな風に光るどんな色の星を買うか
もうずっと前から決めてある。
いや、私が決めたんじゃない、決まっていた。
あの灯台を作ったときに。
私が小学四年生の夏休みに作った、
木と紙粘土の白い小さな灯台。
ずっと光が入るのを待っている。

灯台を作るとき紙粘土に埋め込んだ貝殻は、
浜辺に遠足に行った日に同じクラスの男の子がくれた巻き貝。
もう顔も忘れてしまった。名前も思い出せない。
だって私はそのまま転校したから。
あの子…もう大人の男性のはずのあの人はどうしているだろう。
中学で学校に行かなくなったと聞いた。
その後のことは分からない。
もう誰にも連絡はつかない。

私は会社の帰りに星を買いに行った。
古い昭和の洋菓子店のような、少し薄暗いその店は、
木枠のガラスケースに星を並べていた。
「自分で作った小さな灯台に星を入れたいんです」
私がいうと店の女性は教師のように深くうなずいた。
「それは星を買う目的としてぴったりです」
私は恐る恐る訊ねた。
「”本物の星”って貼り紙に書いてありましたけど、
太陽みたいにすごい温度で燃えていたり、月みたいに自分では光っていなかったりするんじゃないですか?」
五十がらみで白い三角巾を頭に巻いたその女性は気を悪くすることもなくまた深くうなずいた。
「大丈夫です。本物の燃えている星ですが、うちで特殊なコーティングをしましたので、触っても火傷することもないし、ちゃんと光っています。太陽のように私たちに見える大きさではなく、砂粒や小石のように小さな見えない燃える星を拾ってきてコーティングして売っているのですよ」
女性は何一つ信じられない話を、したり顔で終えた。
私は仕方なく一緒にうなずいて見せた。
そしてぱっと見たときから(これだ)と決めていた、まろやかな光の白い星を指さし、それを買いたいと伝えた。
女性はパンを一つ売るように、私の指した星を細長い銀のトングではさみ、白い薄い紙袋を広げてコロリと入れて上のほうをきゅっと捩じって私に渡した。
「店ではプカプカ浮いていると売りにくいので、浮かばない呪文をかけてあります。浮かんでほしい時の呪文が書いてあるカードはこちら」
私は星の代金の二千円を支払い、白いカードを受け取り財布にしまった。
星の入った紙袋はバッグに入れた。

外に出て歩くと道がほの白く明るく感じる。
バッグの中で星が歌う。

 はやくはやく
 はやくはやく
 船が待ってる
 鳥が待ってる
 あの人が待ってる

 夜の海を照らして
 夜の空を照らして
 迷わないように
 夜の町を照らして
 眠れない人のために
 光の小波さざなみの子守唄

眠れない人のため?
私は首をかしげながら家へ急いだ。

夕飯を終え、風呂に入り、寝るばかりにして机の上に灯台を用意した。
財布から呪文のカードを取り出して横に置く。
部屋の明かりを、呪文が読める程度まで下げた。
念のため用意した角砂糖ばさみで紙袋から星を取り出した。
優しく白い光が部屋に満ち、何とも言えない幸せな気持ちになった。
私は星を灯台に入れた。
そして角砂糖ばさみを机に置くと、代わりに呪文カードを手にし、小さな声で呪文を読み上げた。

白い星はすっと浮かびあがった。
灯台はそれを理解したように全体が生き生きとしだした。
私はそれをカーテンを開けた窓辺に置く。
窓からは町が見え、海が見える。今夜は新月だ。
小さな灯台の星明りはくるりくるりと勝手に回り、光のさざ波は広く広く町へ海へ空へと流れて行った。

見ていたら自分もすっかり眠くなってしまった。
私は灯台守の責任など忘れてすぐに夢の中に落ちてしまう。

夢の中の灯台は海辺に立っている。
星が歌ったように、夜の波の上に小舟や海鳥が白い光に浮かび上がる。
小舟でまどろむ男性も見えた。
「ああ今夜は眠れそうだ」
男性のつぶやきが聞こえてくる。
あれは誰だろう?
まさかね…

私は夢よりも深い心地よい眠りに落ちていった。

(了)


*小牧幸助さんの企画に参加します


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