1-7 テレビ体操は睡眠の友
年齢とともに寝つきが悪くなり、睡眠不足の日が多くなった。運動不足なのだろう。
足腰の衰えもあって、日課にしていた朝の散歩も、近ごろは歯抜けになっている。
ならば室内で運動を、と、これまで何度か運動器具を買った。ところが、どれも長続きしない。いつの間にか部屋の隅に追いやられ、最後は親戚の若者たちへの、ありがた迷惑な贈り物になる。
そんなとき、体育教師の経験がある知人から、NHKのテレビ体操を勧められた。
「よく考えて作られた体操ですよ」
という。
毎朝6時25分から10分間。「みんなの体操」「ラジオ体操第一」「ラジオ体操第二」などを組み合わせた番組である。
やってみると、なるほど気持ちがいい。
すぐにはまった。
毎朝、男女の担当講師の明るい挨拶で始まる。
続いてピアニスト。ちょこんと首をかしげて挨拶すると、鍵盤に向かう。時には指だけでなく腕まで大きく動かして弾く。その姿を見ていると、体操の伴奏というより、小さな演奏会を見ているような気分になる。
演技者たちを見るのも楽しい。
同じ体操をしているのに、よく見ていると、それぞれに個性がある。若さのはじけるような人もいれば、いつ見ても安定した動きで全体を支えている人もいる。
最近、特に目を引く女性がいる。
色白で、すっとした立ち姿。手足の運びが美しい。体操をしているのだが、時折、日本画の女性を見ているような気がしてくる。
彼女が出ていない日は、なんとなく朝が寂しい。

そんなある日、新聞の折り込み広告を眺めていて、上村松園の絵が目に留まった。
「あれ?」
テレビ体操のあの女性に、どこか似ている。
そう思い始めると、気になって仕方がない。
とうとう上村松園の「しぐれ」か「萩の露」のどちらかを買いたくなってしまった。現在、思案中である。
考えてみれば、睡眠不足をなんとかしようと始めたテレビ体操だった。
それが今では、体を動かすだけではない。講師の挨拶を聞き、ピアノを聴き、演技者たちを眺める。毎朝10分間の、小さな楽しみになった。
知人の勧めどおり、テレビ体操は優れものだった。
なぜもっと早く気づかなかったのかと思うほどである。体を動かすようになったおかげか、睡眠も以前よりずいぶんよくなった。
九十四歳の私にとって、当分、かけがえのない朝の友である。
(了)
