創作ノート 一|財布も携帯も失くして消えた男を書いたあとに、考えていたこと
あとがき。
酔った勢いで「付き合いたい」と言われて、
その日のうちに寝て、
次の日には財布も携帯も失くして消えた男。
書き出しは、ただの笑い話のつもりだった。
一晩の出来事。
呆れて、最初から期待もしていなかった。
そう思っていたはずだった。
でも書き終えて、驚いた。
一番残っていたのは、「付き合いたい」ではなかった。
「探してくる」と言って出て行ったまま、
帰ってこなかったこと。
それだけだった。
当時の私は、あの瞬間、
何も感じていなかった。
呆れて、笑って、忘れる準備をしていた。
彼のことも、あの夜のことも、
私にとってはただの通過点だった。
でも今読み返すと、違う。
あの夜、私は何かを学んだわけじゃない。
ただ、
そのあと何度も似たようなことを重ねて、
気づけば、人を見る場所が変わっていた。
言葉を疑うようになったわけじゃない。
でも、
言葉だけでは決めなくなった。
「付き合いたい」も、「探してくる」も、
その場で作れる。
でも、戻ってくるか。約束を守るか。
行動だけは、作れない。
数日後、友だち経由で連絡先を聞かれたとき、
私はもう答えを出していた。
理由は、財布でも携帯でもない。
「探してくる」のあとに、彼が何をしたか。
それだけだった。
これが基準の全部だったとは思わない。
たぶんこの先も、
似たような夜が何度もあって、
そのたびに少しずつ、
基準は書き換えられていった。
書きながら思い出していたのは、
彼のことじゃない。
今の自分が、
どうやって出来上がっていったのか。
その一番最初の一コマが、
あの夜だった。

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