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創作ノート 三|受験勉強をさせてくれなかった男を書いたあとに、作品には書かなかったこと



あの話には、書かなかったことがある。

アパートのことだ。

彼は、
私の家に来やすい駅を選んだ。

私は、
自分の大学に近い駅を選んだ。

同じタイミングで部屋を借りたのに、
選んだ基準は、
最初から違っていた。

彼は、私に合わせた。

私は、自分に合わせた。

作品には、
「将来を誓い合って、行きやすい路線に借りた」
としか書いていない。

まるで二人で選んだみたいに書いたけれど、
本当は、彼が私に近づいただけだった。

そのあと、
彼がどれくらい来たかは書かなかった。

片手で数えられるくらいだった。

彼のために選ばれた場所のはずなのに、
彼はほとんど来なかった。

代わりに私が夢中になったのは、
サークルだった。

新しい友達ができて、
遊ぶのが楽しくて、
気づけばそのメンバーの一人と
いい感じになっていた。

今書きながら気づいたけれど、
あの部屋の選び方の時点で、
もう答えは出ていたのかもしれない。

彼は、私のために生活を動かした。

私は、自分のために生活を選んだ。

どちらも、悪気はなかったと思う。

でも、合わせる側と、
合わせてもらう側は、
最初から決まっていたんだと思う。

「乗り換えた」と書いたけれど、
実際は乗り換えるという意識すらなかった。

合わせてもらうことに、
慣れすぎていただけだった。






▶︎元になった作品はこちらです。
私が出会った愛すべき男たち|受験勉強をさせてくれなかった男

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