純文学|たったひとつが、欲しかった。
一 魔法
彼女は着飾るのが好きだった。
洋服も、アクセサリーも、
外側を整えることに貪欲だった。
リボ払いは便利を通り越して、
魔法みたいだった。
欲しいものが全部手に入った。
望み通り、着飾って舞踏会に行けた。
でもある日、魔法は解けた。
二 扉を開けた
自分にできることは多くない。
すでにバーでバイトをしていた。
簡単に、短時間で稼ぎたかった。
彼女自身をお金に変えるしかない。
複数の人との関係には、慣れていた。
彼女ならできると思った。
三 小さな愛
もっと酷いところだと思っていた。
でも実際は違った。
終電を気にしてくれる人もいた。
話をする時間をくれた人もいた。
大切に扱ってくれる人もいた。
彼女は少しずつ、その感覚に慣れていった。
彼女を包んでくれる人たちは、
小さな愛を分けてくれた。
彼女の器を満たすほどではない。
でも小さな愛が集まると、
空っぽの器は徐々に満たされていった。
四 勘違い
彼らが彼女を本当に愛しているわけではない。みんな彼女を一人の風俗嬢としか見ていない。
でも彼女は愛をもらっていると
勘違いしていた。
そう思いたかった。
風俗嬢じゃなくて、
一人の女として見て欲しい。
愛して欲しい。
歪んだ愛を求めるようになった。
五 たったひとつ
周りの人には内緒にしていた。
複数の男性とは、変わらず付き合っていた。
みんな少しずつ、小さな愛はくれる。
でも、大勢の一人じゃなくて、
もっと大切に扱われたかった。
愛してるという言葉を言われてみたかった。
実際に愛されたかった。
たったひとつの深い愛が
欲しいと思うようになった。
六 平民に戻る
風俗が彼女に愛を教えてくれた。
空っぽの器は、一つの愛で埋まることを。
彼女の愛の前提は、
風俗嬢の彼女が教えてくれた。
目的を果たし、彼女は平民に戻った。
今思うと、着飾った自分も、風俗嬢の自分も、どちらも魔法にかかっていたみたいだった。
もう舞踏会には行けない。
でも今は、ありのままの自分でいたい。
誰でもよかったわけじゃない。
誰かの、たったひとつになりたかった。
▶︎あの頃の私は、
何を欲しがっていたんだろう。
