明るい人、だと思われていました。
婚活講座を開いていた。
その日の予約は、たまたま私の枠しか空いていなかっただけだった。
佐藤さんの悩みは、婚活ではなかった。
「職場の女性に、話しかけられないんです」
理由を聞くと、彼は言った。
自分には、相手の時間を使うだけの、有益な話題がない。
だから話しかけてはいけない。
「話しかけようと思った瞬間、何が頭をよぎりますか」
「嫌われたらどうしよう、です。こわいです」
2年間、対面のコミュニケーション講座に通っていた。
教室の中では、鼻歌を歌いながらでも話せる。
でも扉を一枚出ると、誰も誘えなくなる。
「話しかけるのは、飛び降りるのと同じ感覚なんです」
その言葉だけ、ノートに書き留めた。
「職場で話しかけてくる人、全員に有益な情報を期待していますか」
「そんなことないです」
「では、なぜ佐藤さんだけは、有益じゃないと話しかけてはいけないんでしょう」
彼は黙った。
その沈黙を、埋めなかった。
目標は、女性を誘うことではなく、委員会で発言し、自分の存在を知ってもらうことに変えた。
飛び降りずに済む高さから、始めることにした。
帰り際、彼から次の予約が入った。
「また報告します」とだけ、メッセージが届いた。
会議室で、誰かが黙ると、私が続きを引き取った。
話がずれていくと、いつのまにか元に戻っていた。
誰かが「これ、結局どっちなんですか」と苛立った声を出した瞬間があった。
私は、さっき別の人が言った一言を、もう一度そのまま拾って返した。
それだけで、場が止まった。次の発言が出た。
資料を作ったわけでも、数字を出したわけでもない。
ただ、聞いていた。相槌を打っていた。
それだけで、会議は動いた。
社長に呼ばれる回数が、増えていた。
「お前がいてくれて助かる」
そう言われることに、慣れ始めていた頃だった。
社長の親戚が、入社してきた。
しばらくして、社内であるミスが起きた。
私がやったことになっていた。
心当たりがなかった。
社長に説明しようとした。
「もういい」
そう言われた。目を合わせなかった。
その後も、同じことが続いた。
私の知らないところで報告が上がり、
私の知らないところで、何かが決まっていく。
「お前がいてくれて助かる」
と言っていた同じ口が、
別の日には、私を避けるようになっていた。
何が起きたのか、誰も説明してくれなかった。
説明を求めれば求めるほど、
私の方がおかしいことにされていった。
セッションを終えたあと、しばらく画面を見ていた。
私が聞いたのは、婚活の話ではなかった。
「なぜ話しかけられないのか」だった。
看板には婚活講座と書いてある。
でも私がやっていたのは、相手を探す手伝いではなく、
佐藤さんがまだ言葉にしていない何かを、一緒に掘る作業だった。
誰かの都合ひとつで、評価は簡単にひっくり返る。
私がどれだけやったかは、関係なかった。
声の大きい人の言い分が、いつも通っていった。
でも、目の前の一人と向き合っている時だけは、それがなかった。
佐藤さんの「怖い」は、誰かに歪められようがない。
本人の言葉を、そのまま受け取るだけでよかった。
婚活コンサルタントという肩書きで仕事を始めた。
でも今、名刺に書きたい言葉は少し違う。
私は、婚活を教えていたんじゃない。
自己理解を手伝っていた。
明るい人間だと、自分でも思っていた。
でも、あれは性格じゃなかった。
聞くこと。相槌を打つこと。
ずっと、技術だった。
面接という場で、何千人分もそれをやってきた。
採用の現場でも、婚活の現場でも、会議室でも。
同じことをしていただけだった。
社長の一存で、私の評価は消えた。
技術は、誰にも消せなかった。
だから、これからのキャリアも、
きっとそこから離れない。
会議室で、誰かが黙ると、私が続きを引き取った。
話がずれていくと、いつのまにか元に戻っていた。
資料を作ったわけでも、数字を出したわけでもない。
ただ、聞いていた。相槌を打っていた。
それだけで、会議は動いた。
社長に呼ばれる回数が、増えていた。
「お前がいてくれて助かる」
そう言われることに、慣れ始めていた頃だった。
社長の親戚が、入社してきた。
しばらくして、社内であるミスが起きた。
私がやったことになっていた。
心当たりがなかった。
社長に説明しようとした。
「もういい」
そう言われた。目を合わせなかった。
その後も、同じことが続いた。
私の知らないところで報告が上がり、
私の知らないところで、何かが決まっていく。
「お前がいてくれて助かる」
と言っていた同じ口が、
別の日には、私を避けるようになっていた。
何が起きたのか、誰も説明してくれなかった。
説明を求めれば求めるほど、
私の方がおかしいことにされていった。
セッションを終えたあと、しばらく画面を見ていた。
私が聞いたのは、婚活の話ではなかった。
「なぜ話しかけられないのか」だった。
看板には婚活講座と書いてある。
でも私がやっていたのは、相手を探す手伝いではなく、
佐藤さんがまだ言葉にしていない何かを、一緒に掘る作業だった。
誰かの都合ひとつで、評価は簡単にひっくり返る。
私がどれだけやったかは、関係なかった。
声の大きい人の言い分が、いつも通っていった。
でも、目の前の一人と向き合っている時だけは、それがなかった。
佐藤さんの「怖い」は、誰かに歪められようがない。
本人の言葉を、そのまま受け取るだけでよかった。
婚活コンサルタントという肩書きで仕事を始めた。
でも今、名刺に書きたい言葉は少し違う。
私は、婚活を教えていたんじゃない。
自己理解を手伝っていた。
明るい人間だと、自分でも思っていた。
でも、あれは性格じゃなかった。
聞くこと。相槌を打つこと。
ずっと、技術だった。
社長の一存で、私の評価は消えた。
技術は、誰にも消せなかった。
だから、これからのキャリアも、
きっとそこから離れない。
肩書きは、また変わるかもしれない。
それでも私は、同じことをしている。
#これからのキャリア GA technologies×note

