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【見習い日記㉛】 スマートウォッチが欲しいおっさんの話


スマートウォッチを買うべきか。


ここ数カ月迷い続けているのである。

友人や同僚に相談しても「良いんじゃない?」と肯定的な意見が多い。これに釣られて購入寸前まで気持ちは傾いたのだが、ちょっと待てよと、もう1人のボクがこう問いかけてきた。

「何に使うん?」

友人や同僚から欲しかった言葉はまさにこれなのだ。


高校生の時にPHSが流行った。母親には「何に使うと?」と一蹴された。「他に誰が持っとるとね?」と真理をえぐられる質問さえ投げかけられた。そういう時代であった。


その後、ボクはバイト代でPHSを手に入れた。世間から1人前の男として認められたようなそんな気分であった。そしてそれをクラスの誰よりも早く成し遂げたというどうでもいい優越感もあった。

しかし、ボクのPHSは鳴ることはなかった。周りの誰も持っていなかったからだ。かかってくる電話は母親からの「どこにおるとね!早く帰って来なさい!」だけであった。

手元には着信時にピカピカ光るアンテナとジャラジャラの大量ストラップを備えた無用の長物が存在感を示していた。



母さんここでお別れです。若い後輩に「ストラップはファンシーショップで買っていた」って話しても、まずファンシーショップの説明からでした。


ここでもう一度考えてみる。

「スマートウォッチって何に使うん?」

まずは時計の機能である。スマホと同期させることで正確な時間を刻み続けるらしい。今となってはこれは当たり前だし、これまでも電波時計は使用している。

次に健康管理や運動サポートだ。ランニングなどでの距離や心拍数を記録する。
……ボクには今のところランニングの予定は無い。心拍数が上がるのも、取引先のメールに「よろしくお願いいたしましゅ」とバブ味あふれるタイプミスをした時くらいである。


電子決済が利用できるのも便利であろう。
……本当に便利だろうか?スマホのタッチ決済を利用しているので必要性を感じない。

メールやLINEを確認できる。
……スマホを見れば良い。

これはまずい。今のボクにスマートウォッチは不必要なのではないか。

いやいやスマートウォッチのポテンシャルはそんなもんじゃないという声が聞こえて来そうである。しかしながら、完全に必要性を見失ってしまった。


必要性が無いと分かっていながら、なぜこんなにも欲しくてたまらないのか…。


ミーハー気質なのである。


腕をクイッと上げて通知を確認する姿。コンビニで「ピッ」と手首をかざして会計を済ませる姿。運動なんかしてもいないのに、健康意識が高そうに見える感じ…。

完全にミーハーなのである。


ある日、ディスカウントストアで買物中にワゴンセールの片隅に置かれていた「それ」を発見した。

「デジタルウォッチ 980円」

思わず二度見した。

見た目が完全にスマートウォッチだったのである。

黒い四角い画面。ラバー素材のベルト。無駄に近未来感のあるデザイン。知らない人が遠目に見たら普通にスマートウォッチである。


もちろん心拍数は測れない。電話も出来ない。電子決済も無理。睡眠の質も管理してくれないし、通知も来ない。スマホとペアリングなんてとんでもない。


機能性の無さにある種の「潔さ」すら感じた。ただ時間だけが分かる、それだけで充分だった。


ボクはその980円のデジタルウォッチを購入した。支払いはスマホのタッチ決済である。そして腕に装着してみる。


……めちゃくちゃ良いやん。

無意味に腕を持ち上げて時間を確認してみた。特に急ぎの連絡など来るはずもないのに、通知を確認するフリまでしてしまう。

未来を手に入れた気分であった。

メーカーはSKMEI?もちろんメイドインチャイナ。パッと見は完全にスマートウォッチ!


視認性はめっちゃ良い。ただし色味が昭和の目覚し時計。


結局のところボクが欲しかったのは便利な機能ではなく、スマートウォッチを使いこなしている姿そのものだったのだ。

高校時代、鳴りもしないPHSを持ち歩いていた頃から何も成長していない。ただ、あの頃より安く済んだ事だけが救いである。


次の日、

皆に見せつけるように、袖をめくり仕事をしていた。

「あ、スマートウォッチ買ったんだ!」

同僚が早速声をかけてきた。

ボクは得意満面に、時間しか分からない「機能性ゼロの潔さ」について語り始めた。

                 おわり

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