【見習い日記㉔】 ボクの鉄人衣笠の話なんだけどの話
ボクの「鉄人衣笠」は壊れない。
「鉄人衣笠」とは何の変哲もない紺色の傘である。
8年以上使っているのに折れたり破れたりする気配を全く感じさせない。
そこで、広島東洋カープの鉄人、2215試合連続出場記録を持つ伝説の選手「衣笠祥雄」さんにあやかって そう名付けたという訳だ。
本来ならば傘の性質上「鉄人衣笠」ではなく「鉄人衣傘」と表記せねばなるまい。しかし ものすごくどうでも良い事なのでこのまま話を進めていくことにしよう。

無論、この傘に特段の思い入れはない。しかし買い替えることもない。とにかくボクの「鉄人衣笠」は壊れないのだ。
そして、何の変哲もない傘であるが故に「鉄人衣笠」は盗まれることも無かった。
サバンナで肉食動物がシマウマを認識しにくいと言われているように、傘立ての中の「鉄人衣笠」はその地味さによって捕食者(傘パクリ野郎)から完全にカモフラージュされていたに違いない。
さらに、傘立てに置くと同時に雨水に流されるかの如く その記憶がなくなっていたボクも最近は一味違う。
子供の頃から言われてきた「出発する時の身の回りチェック」がこの歳になってようやく身に付き、置き忘れることもなくなっていた。
「親の小言と冷酒はあとで効く」とはよく言ったものだなぁと自身の成長を実感している。

これは非常に良い傾向である。
すると思考や気持ちが次のステップへ進む。
「ちょっと良い傘欲しいなぁ」
ボクは単純である。まるで1+1=2となるようなド直球の思考回路である。
そういう欲求に拍車をかけたのがテレビの情報番組のワンコーナーであった。
「6月11日は「傘の日」です!」
冒頭でリポーターがそう告げた。
この「傘の日」は暦の上の「入梅」にあたり、傘の魅力や正しい使い方を啓発するために日本洋傘振興協議会が1989年に制定したものだそうだ。
ちくわかよ!とツッコミたくなる「超コンパクト折りたたみ傘」、いやぁ今日はいい天気だなぁとボケたくなる「内側に青空プリントがしてある傘」、仮にボクがウサギだったら誤食しかねない「畳んだ時に野菜になるデザイン傘」、どれもアイデアが素晴らしい。
最近の傘はデザイン性や機能性が非常に優秀だ。何よりオシャンティである。しかし重さや持ちやすさも重要ではないか等と、さも ベテランの傘評論家のような面持ちでボクはテレビ画面と対峙していた。
よし!新しい傘買っちゃおう!
次の日早速近所のホームセンターの傘コーナーに足を運んだ。
傘も季節商品なのだろう。もしかしたら旬というものもあるかもしれない。それほど売り場が充実しキラキラ眩しかった。
余談ではあるが、
あめあめ ふれふれ かあさんが
じゃのめで おむかえ うれしいな
ピッチピッチ チャップチャップ
ランランラン
この歌詞の中に出てくる「じゃのめ」とはもちろん蛇の目傘のことである。
子供の頃、「じゃのめ」はピッチピッチとエンジン音を轟かせ、チャップチャップと波をかき分け進んでいく…すなわち船のような乗り物だと勘違いをしていた。
まあこれはマジでどうでも良い。今は話を進めなければならない。ボクは忙しいのである。

最良の1本を決めきれないボクは、ネットのクチコミやレビューを見ることにした。まずは情報収集が肝要である。
様々な傘のレビューやクチコミを目にすることでますます新しい傘への想いは募っていった。
玄関先の「鉄人衣笠」はその時、目をギラつかせるボクを見てどう感じていたのだろう。
それでもなお、傘評論家と化したボクはひとつひとつにあーだこーだと長所や短所を見出しそれぞれに点数を付けていった。
中でも、厨二病のボクの心を鷲掴みにしたのは勇者の剣のような背中に装備出来る大きめの傘であった。点数は100点満点中 驚異の135点であった。

それでもこれだ!と決められない。
少し飽きてきたボクはふと思い出し、こう検索してみた。
「6月11日 傘の日 鉄人衣笠」
すると……
衣笠祥雄が「6月11日」に達成した記録は、ルー・ゲーリックの2130試合連続出場に並んだ記録です。2日後の6月13日に2131試合連続出場を達成し、当時、世界最多記録となりました。
その検索窓の文字列に特別な意味を込めわけではない。ただの遊び心だった。それなのにボクの「鉄人衣笠」と「6月11日 傘の日」との間にはこのような深い繋がりがあることが分かったのだ。
なんだか急に愛着が湧いてきた。そしてこのまま生涯使い続けてやるんだと固く心に誓った。
昨夜から雨が降り続いている。
その日も「鉄人衣笠」は玄関で自身の出番を待っていた。そしてボクは生涯の相棒を手に持ち、バッターボックスへ向かうかのように家を出るのであった。
おわり
