【短編小説】愛しい恋人
穏やかな春の風が君の長い髪を揺らす。
桜が舞う。心地良い日差し。
君はいつもの調子で、子猫に対話を試みる。
「猫ちゃーん。こっちだよー…!」
君が差し出した右手に、子猫はそっと頬を差し出した。
君は困ったことに、恐ろしく方向音痴である。
なのに何故か道を聞かれやすい。
道を聞かれて、聞いてきた人と一緒に道に迷って困っている君をよく見かけたものだ。

大きな音とともに夜空には色鮮やかに花が咲き乱れる。
「きれいだねぇ…」
隣でそう呟く君は、世界で一番綺麗な花だと思った。
君は困ったことに、一度言い出したら聞かない。
でも、そんな君の一生懸命で夢中な姿がたまらなく眩しかったんだ。

真っ赤な紅葉が急に僕の目の前に現れる。
心地良い秋の風が頬を撫でる。
「えへへっ!びっくりしたー?いっぱい集めたんだよー!」
君はいたずらっ子のような笑顔で声を弾ませて、嬉しそうに紅葉を集めていた。
君は困ったことに、ラーメンを上手に啜ることができない。
ラーメンを食べに行くと、食べるのに苦戦している可愛らしい君を必ず見ることができた。

ふわふわとした雪が舞い、君の肩に乗る。
「できたー!!」
君は嬉しそうにこちらを振り返り、無邪気な笑顔と可愛らしい雪だるまを見せてきた。
君は困ったことに、口より先に体が動く人だ。
困っている人を見つけたら、何も言わず体が勝手に人を助ける。
そんな優しくて強い君が大好きだった。

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道路も凍るような冬の帰り道。
大型トラックがスリップした。
トラックが大きな音とともに1人の小さな少女に迫る。
少女を助けようと、飛び込んで行った若いロングヘアの女性がいた。
君は少女を守り、自らは君らしい最期を迎えた。
僕を残して。
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穏やかな春の風が僕の伸びきった前髪を揺らす。
もう隣に君はいないけれど、
僕は何度目かのこの季節を、記憶の中の君とともに過ごす。
こんなんじゃ、
「しっかり前を向いて!いつまでクヨクヨしてんのー!」
って、君に怒られちゃうかな。
不器用だけど、真っ直ぐで、可愛らしい。
愛してるよ。愛しい恋人。
