えらぶーと、ななつの夜の夢
あらすじ
大切な友達を探しながら「どれにしよう」という悩みによりそう、
夢先案内ぶた、えらぶーの夢の旅のお話です。
各章、童話・異世界・日常・SF・学園ラブコメ・ミステリー・百合の要素を織り込み、日本の現代社会を生きる人々の悩みにも関係しています。
お子さんから大人の方まで読んでもらえると嬉しいです。
序章「真夏の昼の夢」
お空は真っ青。トンボがすいすい。
カラスが一羽、二羽。ぼくの真上の木の枝にとまった。
もうすぐ、オオカミもやってくるかな。
でも、立ちあがれない。逃げられない。
ぼくは、あんまり風が気持ちよくて、おひさまがまぶしくて、嬉しくなって。つい、はしゃぎすぎちゃった。
ママから、木の切り株には、気をつけなさいって言われていたのに。後足がひっかかって、すってんころりん。
おうちに帰りたい。でも、動けない。こうやってひっくりかえったまま。もうママにもパパにも会えないのかな。
もう一度、起き上がろうとしたけど、だめ。
痛い。力が入らない。お空を見上げる。涙で青空の色がにじむ。こんな空なんか、もう見たくない。ぼくは目を閉じる。
「どうしたのかな。」
急に影がさして、声が聞こえた。目をあけると、お顔がほとんど隠れそうな黒ぶちのメガネをかけた男の子が見える。人間の子だ。
「きみは、ぶたさんだね。」
男の子は、しゃがんで顔を近づけ、ぼくを見つめる。
「ごめん、ボクはあまり目がよくないんだ。けがをしているの?」
「うん、走ってトンボを追いかけていたら、切り株にひっかかって、転んじゃった。」
一瞬、その子の顔が消えた。でもすぐに、また現れた。
「ほんとだ。これは痛そう。歩くのは難しそうだね。これで血は止まるかな。」
けがをした足が、ぎゅっとなってちょっと痛かった。
「ハンカチを巻いてみたよ。痛いかな。」
「うん、ちょっとだけ。ありがとう。」
男の子は立ちあがって、まわりをキョロキョロ見まわす。
「おうちは近いの?」
「あっちの方に歩いて、五分くらい。」
メガネの子は、ゆっくりとぼくの背中をおこし、それからぼくに背を向け、「肩につかまって」と言った。
ぼくは精一杯力をこめて、しがみついた。
「よし、立ちあがるよ。うううううん!」
少しよろっとしたけど、男の子はぼくをおんぶして立った。
「だいじょうぶ? ぼくは、子ぶただけど、ぶただから重いでしょ?」
「だいじょうぶ。何とかなりそう。」
男の子は、ゆっくりと歩きはじめる。
「おうちまで、道案内してくれる? あとボク、目がわるいから、何かにぶつかりそうになったら教えてね。」
その子は、フンフンとふんばって、野原の道を歩く。背負ったぼくのことを気にしながら。
メガネの子は一人言みたいに話す。
「ぼくの目は、どんどん悪くなってるんだ。だから手術をしようかってお父さんとお母さんが言ってる。でも、失敗して目が見えなくなることもあるって。どうしようか迷ってるんだ。」
ぼくは、その子の首筋に汗が流れるのを見ながら、ふうんと聞いてるしかなかった。
「着いたよ。ここ、ぼくのおうち。」
ぼくたちは、木にぶつかることもなく、石につまづいて転ぶこともなく、無事に着いた。
「ふー、ここか。よかった。」
男の子は、ぼくをおぶったまま、ごめんください、とドアに向かって呼びかける。
パパとママが出てきた。ぼくたちを見て、パパがあわてて駆けよってくる。パパは、男の子の背中からぼくを受けとめ、何度も何度も、ありがとうと言った。
「じゃ、帰るね。」
「うん。本当に、ありがとう。」
男の子は大きいメガネをきちんとかけ直してボクを見つめる。
「またキミに会えるといいな。」
「うん、会えるといいね。」
メガネの子はバイバイと、手をふると、くるっと背中を向けて走りだし、あっというまに見えなくなっちゃった。
第二夜「異世界のお姫様」
宮殿のふかふかのベッドの上で、ふわふわの羽毛の枕を抱いて寝ていたはずなのに。
わたしは、いま。
寝間着のまんま、お城の庭の小道に立っている。
前を見ると、小道はふたつに別れていて、矢印のついた道しるべが立っている。で、こう書いてあるの。
「フィリップ王子はこっち」
「アダム王子はあっち」
わたしは将来、王族のお家のお嫁さんになることが決まっているの。
十二歳の誕生日を迎える明日、どちらの王子様のいいなずけになるか、決めなくてはならなくて。
フィリップ王子は、「わが王族はお金持ちなので、シャーロット姫を一番幸せにできます」と言うし。
アダム王子は、「姫の美貌と私の美形なら、きっと玉のような可愛い跡継ぎに恵まれますよ」と言うの。
遅ればせながら、シャーロットとはわたしのことですわ。
わたしには、生まれる前の記憶がうっすらとありますの。こことは別の世界にいて、そこではOLとやらをしてましたの。
超お金持ちと結婚した友だちが羨ましかったし、イケメンと結婚した別の友だちを妬んだこともありましたわ。
あら。いつの間にやら、道しるべの横に、子豚さんがいらっしゃるわ。
「ねえ子豚さん、ここはどこか、ご存じかしら? それに、あなたは何者? わたしの名前はシャーロットよ。」
「こんばんは。ここは、シャーロットの夢の中だよ。ぼくは、えらぶー。迷っている人とお話するのが、ぼくの役目。」
「あらそう・・・あなたは豚さんなのに、どうして人間の夢に出てくるのかしら?」
「ぼくは、夢の中を旅して、大切な人を探しているんだ。」
「そうでしたの。えーと、先ほど、迷っている人とお話する、とおっしゃいましたよね? どちらがいいか、えらぶーさんが決めてくださるの?」
「ううん、ぼくは決めないよ。」
「それは困りましたわ。わたし一人ではとても決められませんもの。」
「そうかな?」
「お二方ともいい方だし。」
「そう。・・・じゃあ、目をつぶってごらん。」
「えーと、こうかしら?」
「そうそう。で、頭の中に何か浮かんだ?」
わたしの頭の中に、ぽっかり白い雲が浮かびましたわ。
「じゃあ、決まったね。」
「え、いったいどういうことですの?」
「もっとワガママでもいいってこと。あ、じゅうぶんわがままそうだけど。おやすみ。」
「まあ、失礼ね! お待ちになって。こんな暗くて寂しい場所では、わたしは眠れませんわ。」
・・・あら、ここは?
白いレースのカーテンに囲われたベッドの上。わたしのお部屋ね。戻れてよかったわ。
子豚さん、どこにもいないわね。そうよね、夢だったのよね。
今までも寝ていたのですが、また眠くなってきましたわ。
・・・ここは、また夢の中?
お城のそばにある牧場。目の前にはワンピース姿の女の子。
これは・・・そう。
八歳のわたしよ。その隣には、栗色の髪と瞳の少年。この牧場の子。
二人とも楽しそうに笑っていますわ・・・ええ、楽しかったわ。
今でも、お城の外に出かけると、たまにその子にお目にかかりますの。もう、すっかり立派な羊飼いになられて。目が合うと、あの頃と変わらない笑顔で手を振ってくれますのよ。
ああ。あの笑顔をずっと見ていられたら、どんなに幸せかしら。
第三夜「ホームドラマ」
おふとんに入って、ねていたはずなのに、
ぼくはパジャマのまま、いつものさんぽ道にたっている。
まわりは、夕がたみたいにくらくて、すこしこわい。おうちにかえりたい。
ぼくの目のまえには、矢じるしのついた道しるべが立っていて、こう書いてある。
「パパはこっち」
「ママはあっち」
パパとママがが、ずっとけんかしている。
もう、いっしょにいられないんだって。
あんなになかよしだったのに。
あゆむ、いっしょにいようね、とママがいう。
あゆむ、いっしょにいこうね、とパパがいう。
あれ? いつのまにか、道しるべのよこに、ぶたさんがいる。
ぶたさんにきいた。
「ねえ、ここはどこ? きみはだれ?」
「こんばんは。ここはあゆむ君の夢の中だよ。ぼくは、えらぶー。迷っている子とお話するのが、ぼくの役目。」
「そうなんだ。じゃあ、ぼくがまよっていること、えらぶーが決めてくれるの?」
「ううん、決めないよ。」
「ええ! ぼくひとりじゃ、きめられないよ。」
「そうかな? あゆむ君はどっちがいい?」
「どっちも、やだ。」
「そう。じゃあ、目をつぶってごらん。」
「んーと、こうかな?」
「そうそう。で、頭の中に何かうかんだ?」
あかちゃんのころをおもいだした。
えーんえーんとなくと、パパもママも、しんぱいそうに、でもうれしそうに、ぼくのかおをのぞきこんで、はなしかけてくれたんだ。どうしたの? おなかがすいたの? って。
「じゃあ、決まったね。」
えらぶーがぼくのあたまをトントンしながら言った。
「え、どういうこと?」
「もっとワガママでもいいんだよ。おやすみ。」
「まって! こんなところじゃ、ねむれないよ。」
きがついたら、おふとんのなかにいる。
あれ、ぼく、ねてたの? いまのはゆめ?
えらぶーは、どこにもいない。
しかたがないから、おふとんにはいって、めをつぶった。
ゆめのなかで。
パパがいう。
「パパといっしょに行こう。」
ママがいう。
「いっしょにここにいようね。」
ぼくは、ないた。
「やだやだやだ。ぼくはパパといっしょ。ママともいっしょ。」
えーん、えーん、えーん、えーん、えーん、えーん、
「ぜったいに、はなれない。ママとパパ、はなさない!」
えーん、えーん、えーん、えーん、えーん、えーん、えーん、
いっしょうけんめい、がんばって、ないた。
パパとママは、しんぱいそうに、でもすこし、わらいながら、ぼくのかおをのぞきこんで、なにかはなしかけてくれたんだ。
第四夜「化学者のうたた寝」
おっと、こりゃいかん。実験の最中に寝てしもうた。
徹夜続きで寝不足気味じゃった。
そろそろ薬ができているころじゃな。
・・・ん、ここはどこじゃ? 目の前に道が続いておる。
そうじゃ、これは、研究所を出て街へ向かう道じゃ。
おや? 今まで気がつかんかったが、三つの矢印がついた道しるべが立っておる。
なになに?
「ベニクラゲはあっち」
「シチメンチョウはこっち」
「タツノオトシゴはこっち」
こ、これは、いずれもわしが開発した薬ではないか。
どの薬を世に出していいものか、悩んでおったところじゃ。
わしは、それぞれの動物の不思議な力を研究して、薬にしてしもうた。
ベニクラゲは、危険な目にあって死にそうなると、また生まれ変われる薬に。
シチメンチョウは、男が関わらんでも、女性だけで子どもを授かれる薬に。
タツノオトシゴは、女性に代わって、男が妊娠・出産してくれる薬に。
はてさて、どれを世に出していいものやら・・・
おや? いつの間にやら、子豚がおって、道しるべを眺めておるぞ。
「そこの子豚どの。これはいったいどういうことじゃ?」
「今晩は。ここは博士の夢の中です。ぼくは、えらぶー。迷っている人とお話するのが、ぼくの役目です。」
「ほう。・・・おお、そうじゃった、わしは三つの薬のどれを世に出そうかと迷っておるのだが、君が決めてくれるんかの?」
「いいえ、ぼくは決めません。」
「そうじゃろうな・・・でも、わし一人では、とても決められはせん。」
「そうでしょうか?」
「そりゃそうじゃろ。どれも今までの常識を変えてしまいそうじゃし、何か不都合がないとも限らん。」
「そうですか。じゃあ、目をつぶってみてください。」
「えーと、こうじゃな?」
「そうです。で、頭の中に何か浮かびましたか?」
わしが思い浮かべたのは、白衣姿の娘じゃ。
あの子は、わしと同じ研究の道に進み、寝る間も惜しんで仕事に明け暮れておる。
「じゃあ、決まりましたね。」
「おいおい、いったいどういうことじゃ?」
「じゃあ、おやすみなさい。」
「おいおい、待たんか。」
おや、ここは?
いかんいかん、本当に実験の最中に寝てしまっておった。
子豚どのは・・・そうじゃ、あれは夢じゃったな。
うーむ・・・なんだかまた眠くなってきたぞ・・・
ここは、また夢の中か?
おや、そこで実験しておるのは娘ではないか。子どもを授かったと聞いておったが、無理はしておらんかの?
ドアが開いて、若い男が入って来おった。おお、あれは婿どのではないか。
なになに? 昼の弁当を届けに来たと。できた婿じゃ。
おや、娘は弁当を受け取って、婿殿の膨らんだお腹をさすっておるぞ。
第五夜「女の子と男の子」
眠れない。毎晩、怖い夢を見る。
そんなでも、夢の中の方が、まだまし。
明日が来て欲しくない。いっそ、このままずっと・・・
気がついたら私は、迷路の中にいる。
迷路は、私の背の倍ぐらいの高さの生垣でできていて、
全体がどのくらいの大きさなのか、どんな形をしているのかも想像できない。
少し進むと、迷路なのに矢印のついた道しるべが立っている。
暗くてよくわからないけど、よく見ると、こう書いてある。
「今の学校への通学路はこっち」
「新しい学校の通学路はあっち」
私は、いじめに遭っている。
いじめられてた友だちをかばったら、私が標的になった。いじめアルアルだ。
友だちをかばったその日のうちに、SNSで一斉攻撃を受けた。無視していると「この子、既読スルーして逃げ回ってるよ」と書かれた。
次の日から学校に行けなくなった。でも、そんなで負けるのが悔しいから、時々無理して登校した。登校したら、すごく疲れてまた休む。その繰り返し。
この道しるべは、私の心の中にある二択だ。
「え?」
なぜか私と同じように、子豚が道しるべを見上げている。
「子豚さん、ここは私の夢の中だよね? あなたは、何でここにいるの?」
「こんばんは。そう、ここは君の夢の中だよ。ぼくは、えらぶー。迷っている人とお話するのが、ぼくの役目。そして、みんなの夢の中を旅しながら、大切な人を探しているんだ。」
「そう。見つかるといいね。でもね。私が迷っていることは、あなたに話しても、なんの解決にもならないと思う。」
「そう。ぼくは話を聞いてあげるくらいしかできない。」
「だよね。私だって、どうすればいいか、わからないんだもの。」
「そうかな?」
「だってそうじゃない! 私は悪くないのにこんなことになって。絶対に負けたくない。だけど・・・このままじゃ、どうにかなっちゃう。」
悔しい気持ちと悲しい気持ちが渦巻いている。でも、その渦も消えかかろうとしている。
「そうだね。試しに、目をつぶってごらん。」
「夢の中だから、もう目をつぶってると思うけど・・・こうかな?」
「そう。で、頭の中に何か浮かんだ?」
私の頭に中に現れたのは、同じクラスの男の子だ。たった一人、私に心配そうに声をかけてくれている。なのに、こないだ、「ほっといてよ!」と怒鳴ってしまった。
「じゃあ、決まったね。」
「え、どういうこと?」
「君のワガママを聞いてくれる人がいて、よかった。じゃあ、おやすみ。」
「ちょっと待って。訳わからないわ。」
子豚は、いつのまにか迷路の中に消えていた。
私は、歩きだす気力もなく、その場に座りこみ、そのまま・・・
深夜にふと目が覚めた。
さっきのは夢? せっかく眠れたのに。変な夢。
でも、それほど怖い夢じゃなかった。
部屋の中を見まわしても、もちろん子豚いない。
めずらしく、また眠くなってきた・・・
たぶん、ここも夢の中。
私は、どこかの駅で電車を降り、運河沿いの道を歩く。五分ほどして予備校みたいな建物に入る。
そうだ。私は、通信制の学校に転校したんだった。階段を上がり、前の学校とは比べものにならないくらいの小さな教室に入る。「おはよう」というと、みんなが笑顔で、おはようと返してくれる。
昨日まで空いてた席に、誰か座っている。その子が顔を上げる。見覚えがあった。前の学校で私を心配してくれていた男の子。
「え! 君? どうしてここにいるの?」
「やあ。これからよろしくね。なんだかボクもカースト上位グループの標的にされちゃって・・・めんどくさいから、ここに移ってきちゃった。アハハ。」
第六夜「探偵の葛藤」
いかんいかん、どうやら張り込みの最中に寝てしまったようだ。俺もまだまだ修行が足りないな。
えーと、ターゲットの様子は・・・
ありゃ、ここはどこだ? さっきまで車の中にいたはずなのに。
どうやらここは、どこかの住宅街のようだ。ここには一度来たような気もする。
目の前にY字路があって、真ん中に標識が立っている。矢印が、それぞれの道を指している。
「警部の恩に報いる」
「信念の道をいく」
なんか、小難しいことが書いてあるが・・・そうか。これは俺の悩みだ。
俺は、警部の依頼で、あるヤマを追っている。警部は、俺が探偵稼業を始めたころから取り立ててくれて、多くのヤマを回してくれた。おかげでこの商売で飯が食えるようになった。
だが、今回のヤマは、ちとヤバい。警部は、逮捕した被疑者をホシだと確信しているが、今いち決定的な証拠が上がらない・・・それどころか確かなアリバイも出てきちまった。
それでだ。
警部にアリバイについて報告すると、公けにするなと俺に頼む。
俺には、さんざん警部に可愛がってもらった恩義ってものがある。
どうしたもんかと・・・おや、俺の目の前に子豚がいる。標識を眺めてやがる。怪しいヤツだ。
「おい、子豚。いったいここはどこだ? それに貴様は、何者だ?」
「こんばんは。ここは探偵さんの夢の中だよ。ボクは、えらぶー。迷っている人とお話するのが、ぼくの役目。」
「どうして豚のくせに、俺の夢にしゃしゃり出てきやがるんだ?」
「ぼくは、人々夢の中を旅して大切な人を探しているんだ。」
「なんだかわからんが、迷っている俺にいった何をしてくれるんだ?」
「うん、ただお話するだけ。」
「けっ、役に立たねえなあ。・・・まあ俺の捜査の邪魔だけはしないでくれ。」
いや待てよ。まあ、ダメ元で話して見るのも悪くはあるまい。
「なあ、お前さんは俺の悩みを知っているのか?」
「うん、知っているよ。」
「参考までに聞くが、お前さんはどう思う?」
「ぼくはよくわからないけど、探偵さんは、もう答えを持っているじゃないかな。」
「いや、この難問は、頭脳明晰な俺様でも、ほとほと手を焼いている。」
「そうかな、じゃあ、目を閉じてみて。」
「なんだって? えー、こうか?」
「うん、いいね。で、頭の中に何か浮かんだ?」
俺の頭に浮かんだのは、被疑者が連行される時に泣きじゃくっていた娘さんの姿だ。
「じゃあ、決まったね。」
「おい、いったいどういうことだ?」
「マイウェイだよ。おやすみ。」
「なんで俺のカラオケの十八番を知ってやがる? だいたい今は、張り込みの最中で寝るわけにはいかねえんだよ。・・・まあ、寝てたけどよお。」
いかん、ブタのせいで、まブタが重くなってきちまった・・・
うーん、ここはどこだ? なんとなく懐かしい景色だ。
・・・そうだ、俺はあのヤマで被疑者のアリバイを公表し、スッパリと探偵稼業から足を洗ったんだったな。
今は、こうやって実家の枝豆農家を継いでいる。俺の隣では、一人の女が畑仕事を手伝ってくれている。女の顔をよく見ると、あの時泣きじゃくっていた、娘さんじゃねえか。
第七夜「女の子と女の子」
りんは、サキちゃんのおうちに、おとまりして、サキちゃんといっしょのおふとんで、ねていたはずなのに。おててつないで、ねていたはずなのに。
ここ、しってる。ようちえんのうらのおやま。えんそくで、のぼったことある。
なんでここに、りんひとりで、パジャマのままでいるの? サキちゃんはどこいったの?
やまみちのいりぐちに、やじるしがふたつあって、なにか、かいてある。
「サキちゃんのおよめさん」
「ユースケくんのおよめさん」
りんは、サキちゃんがすき。サキちゃんも、りんのことすきだって。だから、ようちえんではいつもいっしょ。
おとなになったらけっこんしようね、とサキちゃんとやくそくしてる。
でも、そのことをママにはなすと「おんなのこどうしは、けっこんできないのよ」という。パパは「まあ、ずっとおともだちでいられればいいんじゃない?」とわらう。
ときどきママは「おとこのこともあそんだら?きんじょのユースケくんとか、やさしくていいこよ。」という。
たしかにユースケくんは、いいおともだち。でも、おともだちは、おともだち。サキちゃんをすきなのと、ちょっとちがう。
りん、おかしいのかな。おんなのこをすきになっちゃ、いけないのかな。
なきそうになりながら、やじるしをみていると、いつのまにか、となりにぶたさんがいた。
「ねえ、ぶたさん、ここはどこ? あなたはなんで、ここにいるの?」
「こんばんは。ここは、りんちゃんの夢のなかだよ。ボクは、えらぶー。迷っている子供たちと、お話するのが、ぼくの仕事。」
「どうしてりんのゆめのなかにいるの?」
「大切な子を探しているんだ。」
「みつかるといいね。わたしも、すごく、たいせつなこがいるんだ・・・でも・・・」
「どうしたの?」
「うん、りんのすきなこは、おんなのこなの。へんかな?」
「そんなことないよ。りんちゃんは、どうしたいの?」
「わたしはサキちゃんのおよめさんになりたい。でも。ママはだめっていうし。どうしたらいいか、わからない。」
おめめから、なみだがポロポロこぼれて、とまらなくなっちゃった。
りんがなきやんだら、ぶたさんがいった。
「じゃあ、おめめをつぶってごらん。」
「えーと、こうかしら?」
「そうそう。なにか、みえた?」
「あ、みえた。トラックにのってる。」
「そう。じゃあ、だいじょうぶだね。」
「りん、よくわからない。」
「りんちゃんは、ワガママでいいんだよ。おやすみ。」
ママには、「ワガママはいけませんよ」とおこられるけど、いいのかな。むずかしくてわかんない。ムニャムニャ・・・
あれ、いま、ゆめをみていたのかな?
りんのめのまえでは、サキちゃんがすやすやねている。
よかった。おてて、つないじゃおう。ほんと、よかった。
ムニャムニャ・・・
ちっちゃいトラックのうしろのせきに、おとなになった、りんとサキちゃんが、ならんですわっている。トラックは、おひっこしの、にもつをいっぱいつんでいる。
「これから、りんちゃんといっしょにくらすの、すごくたのしみ。」とサキちゃんがいってくれた。
「もうすぐつくよー」
おひっこしのてつだいと、トラックのうんてんをしてくれたユースケくんが、おおきいこえで、おしえてくれた。
第一夜、そして終章「メルヒェン」
パパとママといっしょに、大好きなニンジンとジャガイモとカボチャのシチューを食べているとき、家の中にオバケオオカミがあらわれた。
オオカミはパパに向かって言った。
「おい、父ブタ。どちらかを選べ。家族三人、仲よくオレさまに食われるか、おまえだけ食われるか。」
「ど、どうか! 妻と子どもは、助けてくれ。」
それを聞いたオオカミは、パパをがぶりと食べると、笑いながら消えてしまったんだ。
それから三ヶ月。
ママとお買いものから帰る途中、またオバケオオカミがあらわれて、ママに向かって言った。
「おい、母ブタ。どちらかを選べ。親子仲よくオレさまに食われるか、お前だけ食われるか。」
「ど、どうか! この子だけは助けて。お願い。」
それを聞いたオオカミは、ママをがぶりと食べると、笑いながら消えてしまったんだ。
それから三ヶ月。
ぼくは一人。
森の中で食べられそうなキノコを探していると、またオバケオオカミがあらわれた。
「おい、子ブタ。どちらかを選べ。オレさまに食われて楽になるか、このまま一人で苦しんで生きていくか。」
ぼくは悲しくて悔しくて、泣きながらオオカミに言ったんだ。
「おまえは、ウソつきだ。パパを食べちゃったとき、ママとボクは助けるといったのに。ママを食べちゃったとき、ボクを助けるといったのに。結局、また食べにきたじゃないか!」
「オレさまは、また食べに来ないなんて約束はしとらん。ただ、すべてが不条理なだけだ。・・・そうだな。ではこうしよう。もし、オレさまに食われることを選んだら、一つだけ願いをかなえることを約束しよう。ウソは言わん。さあ、どうする?」
ぼくは、フジョウリという言葉の意味はわからなかったけど、迷わず食べられる方を選んだ。
オオカミはがぶりとボクにかみついた。
その瞬間「もういちどあのメガネの男の子に会いたい、あの子の悩みを聞いてあげたい」と願った。
そして、ぼくは、「夢先案内ぶた」になって、人間の夢の中を旅している。
ここは、ぼくの夢の中だ。
大きくてけわしい山の入口に、道しるべが立っている。
メガネをかけた男の子がその道しるべを見上げている。
ぼくは、この子を知っている。
見つけた。
メガネの子がふり返る。
「やあ。きみは、あの時のぶたさんだね。久しぶり。」
「うん、そうだよ・・・ずっと探していたんだ。」
「そうなの。ありがとう。また会えて、すごくうれしい。」
その子はにっこり笑った。
それからもう一度、道しるべを見上げる。
「ところで、あそこには何て書いてあるのかな? ボク、目が悪いからよく見えないんだ。」
ぼくは、その子の代わりに読んであげた。
「こう書いてあるよ。『目の手術をする』『目の手術をしない』。」
男の子はメガネごしに、じっとぼくの顔を見た。
ぼくは聞く。
「手術、まよってるの?」
その子は少し考えてから、きっぱりと言った。
「ううん。いま、決めた。」
「いま?」
「そう。ボクはきみの顔をもっとちゃんと見たいから、手術するよ。」
そう言って、ぼくの手をとった。
ぼくらはいっしょに、道しるべの先に進んだ。
了
