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【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第九話

「先ほどから申し上げているでしょう。彼女は『特別』なの。どんなことをしても、大抵のことは教師にさえ許されるのよ」
「私たちは、そんなやわじゃない。先生に怒られても構わないよ!」
 美憂はさくらの言葉に反論する。
「そういう問題ではないの。あなたたちは知らないでしょうけれど……、この学院では毎年、誰かがいなくなっている」
「……え?」
「ある年は教師が、ある年は生徒が。誰かが突然姿を消しても、誰も何も言わない。いいえ、言えないの。誰かが不自然に姿を消したとしても、事件にもならず、ニュースにも新聞記事にもならない。誰にもどうしようもできないことが、この学院にはあるの」
「それは……、あの子が裏で何かしてるってこと?」
 友梨が真剣な顔をして、さくらの目を覗き込む。
「いいえ、それは分からない。クララ様が入学してくるずっと昔からあったことだから、彼女のせいとは言い切れないけれど……、令嬢ばかりのこの学院でも、そんなことができるのは限られた人だけよ」
「そんな……。じゃあ、私たちに何もするなって言うの? 白雪の近くにいられる時はできることがあるかもしれないけど、昨日みたいに自分からどこか行かれたら、ちゃんと守れない」
 さくらを責めたくなったが、彼女の桃花色をした唇が色褪せていくのを目の当たりにすると、美憂はそれ以上言えなかった。友梨は何か深く考えているようで、顎に左手を添えたままテーブルの一点を見つめている。
 そんなふたりの姿を見かねてか、さくらは口元を隠すように手のひらを添えてから、こんなことを囁いた。
「これはお勧めできるものではないけれど、ひとつだけ可能性のある方法があるわ。今の時期にちょうど、学院のどこかに『赤い意見箱』が現れる。その意見箱は、生徒のどんな願いも聞いてくれるらしいの。私は見たこともないし、単なる噂話だけれど、この学院に昔からある伝説なのよ。もし、誰かを救いたかったら、意見箱を探して一度お願いしてみるといいわ」
 さくらはそう言うと、食べかけのミネストローネの皿が乗ったトレーを手に取り、すっと椅子から立ち上がる。
「それでは、ごきげんよう。これで例のお礼は果たせたはずよ。私たちはただのクラスメイト。お友達だなんて思わないでくださいね」
 うふふ、と令嬢特有の空気を含んだ笑みを残して、彼女は去っていった。
「ねえ、友梨……。クラスの子たちに感じた違和感の理由が、少しだけ分かった気がする。お嬢様同士で一見うまくやっているのに、仲良しグループを作らない理由。それに、私たちのことも、ずっと避けている理由。私と友梨のことを外部生だから毛嫌いしてるのかと思ってたけど、きっと違うの。あの子たちは、誰のことも信用できないんだ。毎年、誰かが何者かに狙われたとしても、巻き込まれたくないんだ」
「うん……、そうだね。『毎年誰かが』って、尋常じゃないよ。なんで学校は何も動かないんだろう」
 友梨の顔から血の気が引いていた。想像力豊かな友梨は、さくらの話がよほど恐ろしかったのかもしれない。
「……友梨は『毎年誰かがいなくなる』って、どういうことだと思う? 転校とか、そういうことじゃなくて、本当に突然消えるのかな。それに、『赤い意見箱』なんてよく分からないものが本当にあって、白雪のことが解決できると思う? やっぱり、あのクララって子に直接文句を言いに行った方がいいんじゃ……」
 立て続けに話している途中で、友梨が手のひらを美憂に向けた。
「美憂、ちょっと待って。これ、簡単に動いたらだめだ。加納さんが言っていた話は、きっと本当のことなんだよ。こんなことが今も続いているなんて、思ってもみなかった」
「『今も』って……、どういうこと?」
「美憂、私がこの学院に入れたのはね。叔母さんがこの学校の生徒だったから。親族だからなんだよ。叔母さんといっても、会ったことがあるわけじゃない。父さんから昔話を聞いただけ。叔母さんは、十七年前、高校二年の時に行方不明になった。こんな閉鎖された学校でいなくなるはずがないって父さん達は訴えたけど、『遺書』が残されていたから自らどこかへ行ったと言い張られて、結局、学校以外のどこを探しても見つからなかった」
「友梨、冗談でしょ……?」
「私、叔母さんがいなくなった真相を知りたくて、この学院に来たの」
 いつもは明るくいたずらっ子のように笑う少女の瞳に、初めて見る鋭い光が差している。
 友梨の告白を聞いていたのは、目の前にいる美憂だけだ。昼食時をお洒落な食堂でゆったりと過ごす生徒たちは、外の世界からやって来たふたりの少女のことなど全く気に掛けてはいなかった。ただ、いつものように、誰にも関心を持たず、虚空に向かって微笑みを浮かべていた。


(つづく)


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