見出し画像

音楽好きを拗らせた私と師匠の日常

──私と歌の師匠のちょっぴりへんてこな話


若干の性的表現用語を用いておりますので、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
また、気分でないという方も同様に推奨します。



私には、定期的にボイストレーニングをお願いしている方がいる。本当に優しくて、ストイックで、できないことをポジティブに包み込んでくれる。彼のことをこっそりと“師匠”と呼んでいた。
師匠は本当に音楽が好きな人だ。そして、同時に声が好きな人でもある。春から秋にかけて、道端ですれ違う人の喉仏を観察するくらいには、研究熱心だ。念のため補足しておくが、師匠は東京音楽大学を卒業されて、今は音声研究やボイストレーナーとして活躍されている偉い人である。とても研究熱心で、真面目で、真摯な方である。

そんな師匠とかなり大人数な呑み会をしていた。
賑やかな声と音に溢れ、みんなが楽しそうに笑っている。
酔いの回った師匠がひとこと。

「どの音名と結婚したい?」

?????????
音名とは、イタリア語でいえば「ドレミファソラシド」だし、日本語でいえば「ハニホヘトイロハ」のことである。
つまり、「ドレミファソラシド」のどの音(#や♭をつけた半音階を含む)と結婚したい?という問いかけである。

??????????

はっきり言って特殊すぎる。
シチュエーションもお相手も。なかなかこんな話になることはないだろう。

「ドのフラットと結婚したいです!!!!」
と意気揚々に答えたのが私。

聴くとわかるんですが、とっても不安定な音。でも、どこか神秘的で柔らかくて、空間に溶け込んでいきそうな音。
答えながら、にこにこしていた私に師匠が言う。

「俺はね、全部と結婚したいんだ。」

まさかの一夫多妻制だった。
そんなのありか。いや、ありとかなしとかそういう問題でもないのだけれど。
全部の音名と結婚したい……?

「すべての音がこんなに素晴らしいのに、選べるわけなくない!?」

酔いが回ってか、熱量そのままに高らかな声が空間に響く。本当に音楽そのものを愛する人だ。

「俺はね、和音は複数プレイだと思っているわけ。3Pね、3P。」

だ、誰かそろそろ黙らせよう。
日本酒がいい感じに効いているのかもしれない。師匠は、上機嫌のまま早口で喋り倒している。

音と音の結びつき。
それは、濃密で深く深く絡み合っているものだと思う。音が相互作用しつつ、空間に滲み出る瞬間が心地よい。
……それは理解できるのだけれど、ね。
その後も延々と語り続ける師匠を見ながら、やっぱりこの人は音楽を愛し、音楽に愛された人だなぁと思うのだった。

人の感性を侮るなかれ。
師匠を見ていると、本当に自由に物事を感じていいのだな、と考えさせられる。……この話は本当に笑い話でしかないのだけれど。
尚、たくさんの感性に触れていくうちに私が“発音フェチ”を拗らせるのはまた別の話である。

いいなと思ったら応援しよう!