誰にも染まることのない透明を抱きしめて
透明はね、無色ではないんだよ。
何色にも染まりそうで、何色にも染まらないの。
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自分は、何色を纏っているだろうか。陽の光に輝く赤茶色の髪にベージュのマニキュア。服はシンプルなモノクロを選び、耳や胸元に青を忍ばせることもある。けれど、私を知っている人達は誰もが口を揃えて言う。「キミは透明だ」と。
何が透明なのだと問えば、それは心だと言う。こころ、ねぇ……。私には、心はみえない。多分、誰もみることができない。それが、心。その色をどうやって見分けることができるのだろうか。
“ねぇ、知ってるかい?心ってキミ以外の人にしか見えないんだよ”
そんな歌詞があるけれど、本当にその通りだよなぁ、と思う。
だって、私にはいろんな色に見えるから。飛び上がるほど嬉しいことがあった時は、まあるいオレンジ色に染まる。しょんぼりするほど悲しいことがあったら、深い藍色。ドキドキとした恋の高鳴りがあると、鮮やかなピンク色。感情に合わせてグラデーションされる。その時々によって、何色もの色に染まったり、くるくると表情を変えていくのだ。
その色たちを愛でていると、微かに音が鳴っているような気がする。穏やかでなめらかな包まれるような音。冷たさをもち、地層へと沈み込みそうな低音。ぴょんぴょんと跳ね、高揚する軽快な高音。いろんな音が鳴り、ぶつかり合わさって心が震えている。濁らない澄んだ響き。自分の心を偽らない響き。それが透明なんだ。そう思うと、“透明”というフレーズはしっくりと馴染んでくる。色や音のベースにあるものが透明。その静けさに沸き立ってクラクラしてしまう。
自分の中にある透明を大切に抱きしめていると、時折、不穏な香りがする。「こうやってしたら、もっと良くなるよ。」「一緒にいたら、幸せにしてあげるよ」優しさを纏った甘い蜜。口に含めば美味しさが広がる……最初は。その甘い毒は、少しずつ体内を侵食し、やがて透明にまで達する。じわじわと相手の色に染め上がっていく。相手と溶け合う嬉しさで満たされるけれど、心は満たされない。輝きが陰り、透明が透明ではなくなる。相手の色をした心では澄んだ音は鳴らせない。濁りきった不快な音が静かに散っていく。人から貰う期待や優しさ。好意から生まれるはずなのに、いつのまにか透明な心を汚す凶器となってしまった。それがとてつもなく苦しい。
濁った心は悲鳴をあげて自分自身に助けを求める。自分のことを責め立てたり、必要ないんだって思ったり。
「ねぇ、違うよ。」
「もっと、自分らしくいていいんだよ」
内側から外側へそっと訴えかけてくる。小さくて柔らかい内側の声。聴き逃してしまいそうなほど微かな声にそっと耳をすます。立ち止まって身体の中心に意識を向けてなだらかな時間を過ごしていくと、ちょっとずつ濁りが溶けていく。静かに透明に戻っていく。
よかった、私は私のまま存在できるんだ。
どれだけ色が混ざっても。私は私の色を奏でたい。侵食や支配には負けない強く軽やかな色を。何色にも染まりそうで、何色にも染まらない。
誰にも染ることのない透明を抱きしめて。
