【アート巡り記】所蔵作品展MOMATコレクション 美術館の春まつり@東京国立近代美術館 2026.3.13訪問
東京国立近代美術館の所蔵作品展MOMATコレクション、企画展のチケットにセットされているので、いつも企画展だけでお腹いっぱいでぐったりなのを押してついでに観てしまうのだが、ついでに観るような内容ではないくらい充実している。一度MOMATコレクションだけを観に行こうと思っていたので、まだ企画展が始まっていない期間の金曜日の夜間開館を狙って行ってみた。MOMATコレクションだけの料金は500円と思っていたら、窓口で言われた金額が「500円」には聞こえず、このご時世でとうとう値上げか?と思って聞き返したら「300円」だった。後で調べたら17:00以降は300円らしい。あの充実の内容で500円でもありがたいのに、ますますありがたい。素敵なサービスである。
とはいえ職場からいちばん近い東京国立近代美術館でも、終業後に行くと20:00までは1時間強しかない。たぶん全部はちゃんと観られないんだろうなあ、、、と思いながら4階に上がる。折しもこの日から「美術館の春まつり」になっていた。オリジナルARコンテンツを使って展示室を撮影できるとのこと、最初はあまり興味がなかったのにまあ記念だからやってみるかとQRコードを読み込んでオリジナルフレームとともに撮影を始めたら、意外とハマってしまう。こんなことをしていたらますます時間はなくなるのだが、フレーム内に展示作品を入れるとそれなりの画像になるのが面白くて、試行錯誤しながらいろいろ撮ってしまった。
これは最初にARカメラで撮ったのであまりうまく収まっていない松林桂月《春宵花影図》(4月12日までの前期展示)。

奈良美智《Harmless Kitty》がこんな感じ。この横には村上隆《そして、そしてそしてそしてそして3ーB》《そして、そしてそしてそしてそして3ーA》が並んでいたが、そちらは残念ながら撮影不可。

カメラとフレームの縦横がうまく使えず、舟越桂の《森へ行く日》はこんなことになってしまった。。。

初代宮川香山《鳩桜花図高浮彫花瓶》、この辺りまで行くとちょっとポスターっぽくなってくる?

横山大観先生の《迷児》までフレームをつけてしまったが、これはちょっとやりすぎか? 新収蔵作品らしい。

香川勝廣《銀製置物 蓑亀之彫刻》と高村光太郎《兎》、一見ポスターにできそうだが、展示ケースへの写り込みは避けられない。


…と、「美術館の春まつり」のマークがついていない作品までフレームに収めて遊びすぎたので、真面目な鑑賞に切り替えることにする。
1室は「ハイライト」で、日本画のコーナーには先に記載した松林桂月《春宵花影図》はじめ、目玉としては重要文化財である川合玉堂の《行く春》(4月12日までの前期展示)があった。私のなかでは川合玉堂より松林桂月のモノクロの桜花図に心惹かれた。墨の濃淡だけで桜花の淡い色や霞がかった春の匂い立つ気配まで感じさせる。ケース外ではこの部屋だけで約100年のアートツアーができるようにしたという。いちばん新しい年代のものが村上隆だそうで1990年代、いちばん古い年代のものがポール・セザンヌで制作年が1892−95年となっていた。私はこの絵を観て、セザンヌっぽいけど誰だろう?と思ったら、やはりセザンヌだった。私がセザンヌだと思い込んでいるよりも明るくて繊細な絵だったので、それっぽいけど違う誰かが描いたと思ったのだ。セザンヌを真似て描いた画家は数知れないということもあり、当たったのか当たらなかったのか微妙な気持ちになる。いずれにしても華やかで目を惹く良い絵である。

2室は「迷い、挑む。明治も表現」となっていて、初代宮川香山《鳩桜花図高浮彫花瓶》、横山大観《迷児》、香川勝廣《銀製置物 蓑亀之彫刻》、高村光太郎《兎》などはこの部屋に展示されていた。以前も観たが、鈴木長吉《十二の鷹》より四、五、六の3点もあった。この部屋の工芸作品は国立工芸館所蔵のものである。前に観たときは《十二の鷹》 の12点全部来ていて壮観だったが、1点1点もそれぞれに個性があり、生きているかのように細部まで表現されていて見事である。

3室は「花ひらく大正」。高村光太郎の《手》や萬鉄五郎の《裸体美人》があったが、毎度展示されているのでスルーする。4室の「能楽と歌舞伎」も今回はささっと通り過ぎた。
5室は「戦間期のコントルポアン」。「コントルポアン」は音楽用語で、複数の独立した旋律を重ねて響き合わせる「対位法」を意味するそうだ。1920ー30年代の「シュルレアリスム」と「抽象美術」というふたつの潮流、そしてどちらにも属さない表現を模索した岡本太郎の作品を紹介していた。岡本太郎《コントルポアン》、ロベール・ドローネー《リズム 螺旋》、ワシリー・カンディンスキー《全体》を並べて展示していたのが、この部屋の説明なのだろう。

ロベール・ドローネー《リズム 螺旋》1935年、
ワシリー・カンディンスキー《全体》1940年
この部屋は気になる作品が多く、まずは吉原治良《海辺の静物》1931年。今回はこの後にも吉原治良の作品がいくつか展示されていたのだが、戦後の具体美術協会の活動しか知らなかった者としては、意外な感じを受ける。画家をひとつの作品、ある時代だけで判断してはいけないのだと改めて思う。この絵はちょっとマグリット的なものを感じるので、シュルレアリスムの潮流に乗ったものなのだろう。もうひとつこの部屋にあった吉原治良《作品2》1934年になると抽象の方向に行っているように見える。吉原は「シュルレアリスム」と「抽象美術」、どちらにも乗ったということなのか。それは吉原が美術潮流を常に意識して自分の表現に取り込もうとしていたということだろう。


他に気になったのは北脇昇《空の訣別》1937年。前回の所蔵作品展では北脇の《空港》が出ていたが、この人はよほど楓の種子が好きなのだろう。ただ、楓の種子を飛行機になぞらえていたということなので、この絵はそれが煙や炎を上げて墜落して行く様を描いているようだ。ちょっと悲しい「空の訣別」である。

6室は「1941−1945 戦争と美術」。ここは必ず戦争画が展示されている。昨年は藤田嗣治の作戦記録画に注目して観ていたが、今回はこの部屋にも吉原治良《火山》があったことに吸い寄せられた。吉原の絵画も戦争と美術の文脈で語られることがあるのだ。直接的に戦争を描くのではなく、抽象絵画として間接的に描いたこの時期の絵としてこの部屋に展示されていた。

この部屋でもう1点目を惹いたのは国吉康雄《誰かが私のポスターを破った》という作品。戦時下に描かれた国吉の代表作として展示されていたのだが、アンニュイな女性の見返り姿が気になる。キャプションには「壁に貼られたポスターは、国吉の友人である画家、ベン・シャーンが反ナチスを訴えるために描いたもの」とあったが、いったいどこからどこまでがポスターなのかよくわからない不思議な絵である。国吉は戦時中もアメリカで活動し続けた画家なので、この時期に描かれた絵画の意味も他の日本人画家とは違うのだろう。

7室は「今井壽惠と岡上淑子」。同時代に活躍したふたりの女性写真家の作品を主体に展示されていた。写真作品には興味はあるのだが、このふたりの作家についてほとんど知識がなく、機会があったらもう少し調べてみようと心にメモをして先へ進む。
8室は「ツヤツヤピカピカ」。タイトルどおりのわかりやすいツヤツヤピカピカ表現が並んでいたので、素材などは気になったが、ここもスルー。
9室は写真の部屋で、今回は「植田正治 砂丘劇場」だった。東京都写真美術館の表の壁面に引き伸ばされている《妻のいる砂丘風景(Ⅲ)》などがシリーズで展示されていた。一見ふつうの家族のスナップ写真に見えるが、一人一人の配置や向きを細かく指示しているらしい。実在の人物と実在の風景であるにもかかわらずシュールな作品である。

10室が例年どおりの「春まつり」(前期:3月13日〜4月12日)。船田玉樹《花の夕》1938年は毎年春まつりに出展している気がする。確かにわかりやすい華やかなピンクづかいである。

逆にモノクロでも春の開花や芽吹きの生命力を感じさせるこの絵に目を奪われた。浅見貴子《梅に楓図》2009年。1室で観た松林桂月のモノクロの儚い桜とも違うが、色彩を排したモノクロ表現の奥深さを感じる。色はないが船田玉樹《花の夕》に似ていると思うのは私だけか。どちらも絵のなかから強い生命力が溢れてくるようだ。

そしてこの部屋に立っていた巨大な像のお顔を見て、この方は岡倉天心先生では?と思う。もちろん写真でしか見たことがないが、個性的なお顔立ちなのですぐにわかった。勝手に親しみを感じて写真を撮ってみたが、ライティングと私の見上げるようなポジションのせいかどうしても実物の雰囲気にはならなかった。ちょっとがっかりである。

このあたりで時間切れ。11室は「描くことと見えるものの間(あわい) 1990年以降の絵画表現」、12室は「万物は流転する」というタイトルで、現代アートがキュレーションされていた。新収蔵&特別公開メダルド・ロッソもチラ見しかできなかった。これはMOMATコレクションの後期展示期間(4月14日〜5月10日)になったらもう少し時間をとって行かなくては。
参考:
東京国立近代美術館ホームページ https://www.momat.go.jp/exhibitions/r7-3
美術館の春まつりサイト https://www.momat.go.jp/extra/2026/springfest/
会期 所蔵作品展MOMATコレクション 2026年3月3日(火)〜5月10日(日)
美術館の春まつり 2026年3月13日(金)〜4月12日(日)
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