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【75時間目(第18話)】双極性障害Ⅰ型

—躁の全能感が引いた引き金 天才と狂気のあいだー


「できないことは何もない」         —躁状態の頂点でー

1888年12月23日の夜、フランス・アルルで、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホはかみそりで自分の左耳の一部を切り落とした。

そして切り落とした耳を紙に包み、近くの娼館の女性に渡した。「これを大切にしてくれ」という言葉を添えて。
彼は血まみれで自室で倒れているところを発見された。

この事件の直前、ゴッホはポール・ゴーギャンとの激しい口論を経験していた。
彼の精神状態は、現代の精神医学的分析では「躁状態と抑うつ状態が混合する混合エピソード」または「急速交代型の双極性障害」と一致するとされる。

高揚した創造性と爆発的な怒り、そして極度の感情的苦しみが同時に存在した瞬間だった。
ゴッホは生涯に800点以上の油絵と1000点以上のドローイングを残した。

その多くが短期間に集中して描かれた——「ひまわり」シリーズは1888年の2週間で描かれた。
躁状態的な創造のエネルギーが燃え上がる時期と、何も描けない抑うつの時期が交互に現れた。

双極性障害Ⅰ型——躁と抑うつの両極

DSM-5の双極性障害Ⅰ型は、少なくとも1回の「躁エピソード」によって定義される。

躁エピソードの基準は厳格だ——1週間以上続く(または入院が必要なほど重篤な)、異常に高揚した・開放的な・または易怒的な気分と、著しく増加した活動・エネルギー

加えて以下のうち3つ以上(気分が易怒的のみの場合は4つ以上)が存在する:

誇大(「自分は特別な使命を持つ」「自分の能力は無限だ」という膨張した自己評価)、睡眠欲求の減少(3時間眠れば十分に感じる)、多弁(話が止まらない・次々と言葉が出る)、観念奔逸(考えが飛び回り、一つのことに集中できない)、注意散漫、目標指向性活動の増加または精神運動的焦燥、判断の困難を伴う快楽的活動への無謀な関与(性的逸脱・浪費・無謀な投資・夜通しの過活動)。

躁エピソードは「良い気分」に見えることがある——本人は快調で、エネルギーにあふれ、自信満々で、すべてがうまくいく感覚がある。

しかし周囲から見ると、判断力の低下・無謀な行動・怒りの爆発・迷惑行動として現れる。
そして躁エピソードの後には、しばしば重篤な抑うつエピソードが続く——「あれほど素晴らしかったのに、なぜこんなに空虚なのか」という落差が、自殺リスクを高める。

躁状態の脳——ドーパミンと「全能感」の神経基盤

躁状態の脳で何が起きているのか。最も重要な要素はドーパミン系の過活性だ。
ドーパミンは報酬・動機・快楽に関わる神経伝達物質だ。

通常、腹側被蓋野(VTA)から側坐核へのドーパミン放出は、「報酬を得た・達成した」という文脈で増加する。
躁状態では、この放出が慢性的に過剰になる。
「ランナーズハイ」「恋愛初期の多幸感」のような状態が、持続的に維持される——これが「すべてが素晴らしく見える」「自分は無敵だ」という主観的体験の神経基盤だ。

同時に前頭前野のリスク評価機能が抑制される。
「これは危ないかもしれない」「失敗したらどうなる」という計算が、ドーパミンの過活性によって遮断される。

衝動的な行動——無謀な投資・乱費・性的な無謀行動・睡眠なしの過活動——は、この「ブレーキの失敗」から生まれる。

また、セロトニン・ノルエピネフリンの変動も双極性障害に関与する。
躁期ではノルエピネフリンの増加が「エネルギーと活動性の亢進」を生み、抑うつ期ではセロトニン・ドーパミン・ノルエピネフリンすべての機能低下が「無力感・無気力・絶望感」を生む。気分安定薬(リチウム・バルプロ酸)はこれらの神経伝達物質のバランスを安定させることで効果を発揮する。

歴史的人物と双極性——「躁の決断」が変えたもの

歴史上、双極性障害の特性を持っていたと分析される人物は多い。

アーネスト・ヘミングウェイ(作家)は生涯に4回の電気けいれん療法(ECT)を受け、71歳で猟銃自殺した。
彼の代表作の多くは、双極性の「高揚と沈降のサイクル」の産物だったと分析される。
ロバート・シューマン(作曲家)は躁状態で膨大な量の作品を書き、抑うつ状態では何も書けない周期を繰り返し、最終的には精神科病院で46歳に亡くなった。
ウィンストン・チャーチルは自身の抑うつを「黒い犬」と呼び、双極性障害の特性を持っていたと多くの精神科医が分析している。

彼の「我々は決して降伏しない」という演説は、抑うつを経験した人間だからこそ持てた「希望の言語化」だったかもしれない。
これらの人物が残した作品は、躁状態の産物だけではない。

ゴッホの絵画、シューマンの音楽、ヘミングウェイの文体——それらは躁と鬱の両方を経験した「全人格」から生まれた。
「天才と双極性」という語りは、しばしば「躁が天才を生む」という単純化をされるが、より正確には「双極性の経験全体が、深さと強度を持つ表現を可能にした」だろう。

双極性障害と日常——本人・家族・支援者のために

双極性障害を生きることは、「波に乗る」のではなく「波と共に生きる方法を学ぶ」プロセスだ。
最も重要な管理戦略は睡眠の規則性だ。
睡眠の乱れは躁エピソードの強力なトリガーになる。

「少し眠れなくなってきた」という初期サインを本人・家族が認識し、早期に対処することが予防の鍵となる。

服薬の継続も重要だが難しい問題だ。
躁状態では「調子がいいから薬はいらない」という判断が生まれやすく、服薬を中断することで次の躁エピソードが誘発される悪循環が起きる。
「調子がいいときこそ薬を続ける」という逆説的な理解が必要だ。

家族・支援者にとっては「躁状態を喜ばない」「抑うつ期に早まった励ましをしない」という関わりが重要だ。

躁期の「素晴らしい計画」を一緒に推進することは後悔を生む。
抑うつ期の「頑張れ」は本人を追い詰める。

「波があることを共に認識し、波が来たときに一緒に対処する」——それが最も誠実な支援だ。

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