MVP ESSAYS | 移動し続ける構造
人格は、固定された「本体」ではなく、時間軸の中で積み重なった、無数の断面履歴なのかもしれない。
選択、記憶、関係、環境、揺らぎ。
それらは一度通過すると、完全には戻らない。
人は、その非可逆な流れの中で、少しずつ変化していく。
だから「自己」は、単一の点ではなく、
時間の中を移動し続ける構造に近い。
主体とは、変わらない核ではなく、その変化を抱えながら、
なお世界と接続し続ける境界条件なのかもしれない。
私たちはよく、「本当の自分」を探そうとする。
どこかに変わらない核があり、それが自分自身なのだと考える。
しかしもし人格が断面履歴の積み重ねなら、
その核は最初から存在していないのかもしれない。
同じ状態の川に二度入ることはできない。
それは川が変わるからだけではない。
川へ入る自分自身も変わり続けているからだ。
人は変わり続けている。
それでも私たちは、同じ自分だと感じている。
不思議なのは、変わらないから自分なのではなく、
変わり続けているのに自分だと感じていること。
おそらく主体とは、変化しない何かではない。
変化し続けるもの同士を、一つの流れとして繋ぎ続ける働きなのだろう。
人格とは完成された形ではなく、
更新され続ける履歴そのものなのかもしれない。
主体とは、その履歴が世界と接触し続けるために現れる、
一時的な境界なのかもしれない。
