超短編【合わせ鏡の奥の奥】あちらに通じる道ができる。ただの怪談話にしたくない🌟ショートショート⭐不思議な物語🌟もっと近くで、話をしよ。
【合わせ鏡の奥の奥】
わたしの小学校には、トイレがある。
そりゃそうか。
合わせ鏡もある。
それくらいのものも、たぶんあちこちの学校にあるんだろう。
その合わせ鏡というのは、個室トイレを出たところにすぐある、長方形の大きな鏡だ。
片面で3人。もう片面で3人、合計6人が一度に手が洗える場所になっている。
わたしは、手を洗った後、奥の奥へとつらなる鏡のなかの自分を、しばらく見つめている。別の世界へとさそいこまれているような気になったりして、ぼんやりしてしまう。
鏡は少しずつゆがんで、黄色みがかった世界・・・。
ここじゃないほかのどこかに通じているようにぐにゃりと曲がった道が見える。この間、図画工作の時間に習った、遠近法というやつみたいに、向こうに行くほど、小さくなっているんだ。
一年生の頃から、手を洗うたびに、ぼんやりとこの風景を見つめるのが習慣だった。
あ、いま、奥の奥から何番目かのわたしが、ウィンクしたような気がする。
わたしの目がひくついたのかもしれない。
うーん、・・・してないかも。
目の錯覚というやつかな。
もしこれが本物のウィンクじゃなかったとしても、いいんだけど。
錯覚だって、別にいい。
だけど、鏡にうつる一人だけが、何かしら違う動きをした?・・・と思えてならない。
でも、そんなことってある?
わたしは、その奥のほうの子をじっと見つめた。
何もなかったように同じ向きを崩さず、私が右手を挙げたら同時に左手を挙げ、右の頬だけニッと上げたら、左の頬だけ上げている。
今日もそれで安心する。
ただ、ちょっと不思議だなと思える鏡の世界を、わたしはむやみに怖がらずにいたいだけなんだ。
みんなが、合わせ鏡にちなんだ変な怪談話をするときも、わたしだけは怖がったり、笑ったりもしない。
何も反応しないことで、わたしはずっと向こうの世界を大事にできるみたいな気がしていたの。
春休み明けの新学期、組替えされて新しいクラスになった。
今日から6年生。
教室も、靴箱も新しい場所。
そこで靴を脱いで、新しい上靴に履き替えた。足のサイズが少し大きくなったから、前の上靴は春休みの間に、捨てたんだ。
教室に入ったらすぐ、ふつうはどんな友達といっしょになったか見回すところだ。そうなんだけど、・・・胸が高鳴ってきて、それどころじゃないみたいな気分だった。
ひとりの女の子に目がうばわれたんだ。
・・・あ、あれ、こんな子、いたっけ?
見たことない・・・あ、転校生?
その子は、わたしの視線に気づいて、そっと寄ってきた。
「えっ? えっ? だ、だれ?」
わたしと同じくらいの肩までの髪を揺らして笑っている。
「て、転校生?」
その女の子は、首を振った。
「え、この学校にいた・・・?」
だれかにすがるように、クラス中の人をキョロキョロ見まわした。
でも、みんなは、見慣れない子がいるのに、そんなことどうでもいいみたいに、こっちを見ない。
だれも取り合ってくれないから、ふうぅっとひと息ついて、この女の子に向かい合う。
「わたしのこと、知ってる?」
そう、思い切ってたずねてみた。
女の子は、ふふっと笑い、目を細めた。
ごまかされているみたいで、少しイラっとした。
「・・・っていうかわたしたち、どこかで会ってたっけ?」
うん、会ってたよ。トイレの合わせ鏡で。・・・まるでそう言うみたいに、目尻だけちょこっと揺らす、小さいウィンクをした。
おしまい
