"努力しない"インプットベース学習|Steve Kaufmannさんに学ぶ おうち英語の本質
カナダ人の polyglot(多言語話者)で人気YouTuberの Steve Kaufmann(スティーブ・カウフマン)さん。
20もの言語を学んできた経験をもとに、世界中の語学学習者(language learners)に向けて、語学学習の考え方や長年の経験に裏打ちされた極意を発信されています。
Steveさんは、リスニングとリーディングによるインプット中心の学習(input-based learning)で、言語と深く関わる("engage in the language")ことを重視され、インプットで培った力をベースに スピーキング力につなげていらっしゃいます。
このSteveさんの学習法は、おうち英語のインプット(かけ流しや読書)の考え方と本質的に通じると私は感じています。
彼の発信は、日本で子どもの英語習得に取り組む保護者や指導者にも多くの示唆を与えてくれると思います。
今回は、そんなSteveさんの直近のエピソードを、おうち英語の観点から検討してみます。
Steve Kaufmannさんの最近の発信から
先日公開されたエピソードのタイトルは「Make Learning Effortless - Want to learn faster? Reduce cognitive load」でした。
Cognitive Load Theory という(認知心理学の)概念を取り上げて、Steveさんの提唱するインプットベースの学習法に当てはめながら、学習時の負荷を減らして(reduce cognitive load)、言葉を(努力ではなく)自然に身につける(effortlessにする)ために必要なことについて語られています。
(と私は解釈しました)
Steve Kaufmann - lingosteve
Make Learning Effortless - Want to learn faster? Reduce cognitive load 2025/10/31
「おうち英語のアプローチを大人として体現」するSteve Kaufmannさん
Steveさんについて、もう少し詳しくご紹介します。以下は私がSteveさんについて受けている印象です。
<インフルエンサーとしてのSteveさん>
語学の学習者としての立場から、言葉を身につけるプロセスを具体的に言語化して発信している。
学者の理論をよく引用する。実践者として、自分の経験がどのように理論と一致するかという観点で語ることが多い。
(特によく引用されるのは、スティーヴン・クラッシェンのインプット仮説(Stephen Krashen's Input Hypothesis))
<Steveさんのインプットベース学習がおうち英語と共通する点>
リスニングとリーディングによるインプットベース学習(input-based learning)を基本とする。
そのインプットで培った力を基に スピーキングの練習に取り組み、成果を上げている。
語学学習を続けている理由は、「言葉の勉強が好き」だから。
カナダ(バンクーバー)で暮らしながら、複数言語の学習を続けており、学んでいる言語の環境にいなくても、その言語にたくさん触れること(exposure)を通じて習得効果を得ている。
語学試験を目標としない。
文法は「薄い文法書」で学ぶことはあるが、始めのうちは耳からのインプットを大切にする。
「大量のインプットで自然に理解できるようになる」「文法は意識的に学ばなくてもインプットで習得できる」といった発言が多い。
どちらかというと、「話せる=使える」よりも「読める=理解できる」を重視する。
このような特徴から、Steveさんは、おうち英語に近いアプローチで、その成果を「大人として体現」している存在のように私は考えています。
認知負荷を減らすとは?
上記エピソードの中で、少しですが専門的な用語が出てくるので、簡単に整理しておきます。
「認知負荷理論(Cognitive Load Theory)」と聞くと一見難しそうですが、表面的に調べた限りでは、素人の私には、わりと当たり前のことを言っているようにも聞こえました。
認知負荷理論(Cognitive Load Theory)
学習時に人間のワーキングメモリが処理できる情報量には限りがある
ワーキングメモリに対してかかる負荷(cognitive load / 認知負荷)は3つに分類できる
1.intrinsic load(課題内在性 負荷):学習内容そのものの複雑さによる負荷
2.extraneous load(課題外在性 負荷):学習に直接関係ない要因による負荷
3.germane load(学習関連 負荷):知識の構築(既に持っている情報と新しい情報とを結びつけて、知識を理解・定着させること)に役立つ負荷学習効果を高めるには、1を適切に管理し、2を減らし、3を増やすことが重要
(理論の内容について、こちらを参照しました)
(日本語の用語について、こちらを参照しました)
要するに、認知負荷を減らすとは、知識の構築に役立たない、学習に直接関係ない要因を減らすことだというふうに私は理解しました。
言語をeffortlessに(努力ではなく自然に)身につけるには?
ここからSteveさんの動画の内容を見ていきます。
Steveさんの上記のエピソードでは、語学学習をeffortlessで自然なプロセスにするために、cognitive loadを減らす方法として、次のことが語られています。(と私は解釈しました)
認知負荷(cognitive load)を減らすには
1.既有知識(prior knowledge)を活性化する
2.自然に興味が湧くコンテンツを使う
3.個人に合ったスタイルを選ぶ
Steveさんの言葉を引用しながら、一つずつ見ていきます。
1.既有知識(prior knowledge)を活性化する
学習の負担を減らすにはprior knowledgeを活用すること。語学の場合、prior knowledgeとは自分の中にある、その言語に対する経験のこと。
…the way you make a learning task easier as it applies to languages is to activate prior knowledge. […] …one of the things that I have found is that prior knowledge, in other words, my previous exposure to a language…
Make Learning Effortless - Want to learn faster? Reduce cognitive load
そのprior knowledgeがどんなに不完全だろうと、どんなにギャップ(理解できない、聞き取れない”穴”)があろうと意義がある。
…however imperfectly I remember that however many gaps there are, it's all good…
Make Learning Effortless - Want to learn faster? Reduce cognitive load
部分的なチャンクやフレーズは拾うことができて、自然に理解もできるが、それらをつなぎあわせて全体の意味をつかむことまではできなかったとしても、exposureは得られているし、prior knowledgeもつくられる
…for example, I'm listening to a podcast in Persian and there's lots that I don't understand, I'm really only picking up certain chunks of words and phrases that I'm quite comfortable that almost naturally understand, but I can't tie them all together to really understand the whole podcast. That is still good exposure, so that creates a sort of prior knowledge…
Make Learning Effortless - Want to learn faster? Reduce cognitive load
<おうち英語の視点>
この後に例として挙げられる、lawn mowerやcross country skiingの比喩も合わせて考えると、1回目ですべてを明らかにしなくていい、一度に理解しようとせず、繰り返し聞いて自然に理解できる部分を少しずつ増やしていく、というところがポイントです。頭ではそういうものだと分かっていても、本当にそれを実践できているか。大人は心配になったり、これではやる意味がないんじゃないかと思ったりしてしまうものです。
2.自然と興味が湧くコンテンツを使う
学習者にとって本質的に面白い、自然に興味が湧くコンテンツ(content that is intrinsically interesting to me)を使っていれば、意識的に学ぼうとする努力による負荷が減らせる
…if I am dealing with content that is intrinsically interesting to me, that lessens the extraneous burden of fighting to try to learn the language deliberately, to try to learn the language from content that's of no interest…. In other words, everything that makes the task more enjoyable reduces the extraneous cognitive burden…
Make Learning Effortless - Want to learn faster? Reduce cognitive load
<おうち英語の視点>
例えば、いわゆる英語教材は、特定の目的を果たすためには便利なものですが、その内容が子どもにとって興味のない内容であればあるほど、意識的な学びとなり、負荷がかかって、自然な習得から遠ざかる、と言えるのではないでしょうか。
3)個人に合ったスタイルを選ぶ
Steveさん自身は、練習問題やフラッシュカードのような意識的なretrieval(記憶の呼び出し)の取り組みはやらない、その方法が効果がないからではなく、自分に合わないからやっていない。自分に合う人は、そのような意識的な取り組みで、負荷を減らせるだろう。
…we all have different tastes in what we like to do. I'm not a fan of deliberate retrieval exercises, drills, flashcards, you name it. That's not to say that people who like doing those things aren't gonna benefit from them. It's a matter of what people enjoy doing. If you enjoy doing it, then the extraneous cognitive burden is lessened…
Make Learning Effortless - Want to learn faster? Reduce cognitive load
リーディングはretrieval(記憶の呼び出し)の一種であること、さらには、意味のあるコンテキストの中で単語やフレーズをretrieveする(呼び出す)ことは、in isolation(単体でコンテキストの無い状況)で呼び出すよりも効果が高いという研究結果もある。
So in my own case, I like listening and reading, and there is ample evidence that reading is in fact a form of retrieval exercise. In fact, it is retrieving words and phrases, or in the case of listening sounds from a meaningful context, which according to some research, is more effective than trying to retrieve things in isolation.
Make Learning Effortless - Want to learn faster? Reduce cognitive load
<おうち英語の視点>
コンテキスト無しの状況とは、例えば、単語帳やフラッシュカードで記憶しようとすることなどをさしていると思われます。自然習得を目指すインプットベース学習と、意識的な学習(deliberate learning)(ドリル・練習問題・暗記中心の学習)を明確に区別しています。
教育者の視点ではなく、学習者の視点を重視すべき。教育者が設計したアクティビティや教材は、かえって複雑さを増し、負荷の軽減につながらない場合がある。
…the emphasis should be the perspective of the learner rather than how teachers or educators can structure activities in the classroom or design textbooks or things of that nature, which introduce a level of complexity, which may in fact not contribute to lessening the cognitive load…
Make Learning Effortless - Want to learn faster? Reduce cognitive load
<おうち英語の視点>
教育者がよかれと思って作られた教材でも、学習者にとって負担になるなら逆効果です。学習者の視点に立って、自然に理解できるようなシンプルなもの、負担にならないものを使う必要があります。おうち英語では、子どもの性質をよく見て、負担になっている部分を取り除くのが親の役目ではないでしょうか。
まとめ
私が尊敬するSteve Kaufmannさんをご紹介し、直近エピソードの内容をおうち英語の観点から検討しました。
大人としてインプットベース学習を長年実践し、成果を出しているSteveさんのメッセージは、いつも非常に説得力があります。
Steveさんは、20か国語のうちの多くを、60歳を過ぎてから身につけたそうです。
大人であるSteveさんが習得できているのだから、ましてや子どもなら、ますます効果は大きいだろう、自然に英語を習得できるだろう、と思えてきて、勇気がもらえませんか。
子どもの英語習得に伴走する保護者や指導者がそのような信念を持ち続け、手を尽くすことが、最終的には、長く続けて、効果が出ることにもつながるのだと思っています。
お読みくださりありがとうございました。
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おすすめ動画
Steveさんの動画のおすすめはたくさんあるのですが、Steveさんの考え方の全体像がつかめるエピソードとして、こちらをご紹介しておきます。
(YouTubeチャンネル登録者数が100万人に達したことを記念して、視聴者から寄せられた質問にSteveさんが一つひとつ答えていく形式の特別回)
