電話が鳴るたび、仕事が止まる会社──“取り次ぎ30分”の隠れコスト
「今日は集中して見積もりを片づけよう」。そう決めた朝に限って、電話が鳴ります。出れば営業の売り込み、取り次ごうとすれば担当は外出中、折り返しのメモを書いて、さあ続きを……と思った頃には、さっきまで何を考えていたか思い出せない。中小企業の現場で、実はいちばん静かに時間を奪っているのが、この「電話の一次対応」なんですよね。2026年4月に公表された中小企業白書も、人手不足を構造的な課題と位置づけ、省力化投資やデジタル化(仕事の一部を機械やソフトに任せて手間を減らすこと)を、これからの「稼ぐ力」を支える現実的な打ち手として挙げています(出典:経済産業省・中小企業庁)。今日は、その「稼ぐ力」のいちばん身近な入口として、電話の話をさせてください。
■ 1本は短くても、積み上がると「年15日分」
電話対応のやっかいなところは、1本あたりは短くても、回数と中断が積み上がっていく点です。数字で見ると、その重さがよく分かります。
・取り次ぎは1回あたり平均約3分。1日10回なら、それだけで30分(出典:KDDIまとめてオフィス)
・30分 × 250営業日 = 年間125時間
・8時間労働に換算すると、まるまる15日分の仕事に相当
しかも、本当の損失はこの125時間では終わりません。日本では「電話を待たせてはいけない」という意識が強く、鳴っただけで集中が切れ、対応すればもう一度ゼロから頭を組み立て直すことになる、という指摘があります(出典:KDDIまとめてオフィス)。見積もり、図面のチェック、原価の計算──頭を使う仕事ほど、この「中断のコスト」は重くのしかかります。会議のムダはよく話題になりますが、毎日コツコツ時間を削っているのは、むしろこの小さな電話の方かもしれません。
とりわけ中小企業では、この負担が一点に集中しがちです。大企業なら受ける担当が分かれていますが、小さな会社では「手が空いている人」や「いちばん優しい人」が、自分の仕事を止めて出ることになる。気づけば事務の方や社長自身が、一日中「電話番」になっている。これは怠けでも段取りの悪さでもなく、人数が少ない会社の構造的な宿命なんですよね。だからこそ、根性ではなく仕組みで解く必要があります。
■ 「電話をなくす」のではなく「分けて預ける」
では、どうするか。先に手を打った会社の例があります。金属加工のシマダ機工有限会社は、電話の一次受けを外部サービスに任せることで、「精密な作業を電話で中断されるストレスから解放された」と語っています(出典:fondesk 導入事例)。製造の現場では、手元が狂えば不良品に直結します。電話のたびに作業が止まるストレスは、品質にも直結する経営課題だったわけです。
ここで大事なのは、電話そのものをなくしたわけではない、ということです。「すぐ出るべき電話」と「あとでまとめて折り返せる電話」を切り分けて、後者だけを外に預けた。つまり、お客様との接点は守りながら、現場の集中だけを取り戻した。全部か無しか、ではないんですよね。
この「切り分け」を飛ばして、いきなりツールや外注(BPO=事務作業を外部に委託すること)を入れようとすると、たいてい失敗します。何を任せたいのかが見えていないと、外注先もAIの自動応答も設計のしようがないからです。「電話、なんとか減らせませんか」と丸ごと相談されても、誰も答えを出せない。順番が逆なんです。まず自社の電話の中身を見える化する。話はそれからです。
■ まず1週間、電話を「書き出して」3つに仕分ける
私がおすすめしたいのは、お金も道具も使わない最初の一歩です。1週間だけ、かかってきた電話を記録して、3つに仕分けてみてください。
・すぐ出るべき電話:緊急の現場連絡、既存のお客様からの相談
・あとで折り返せる電話:見積もり依頼の一次受け、配送日程の確認
・そもそも要らない電話:営業の売り込み、社内で完結する確認
この3分類ができると、「誰が出るか」「自動応答に任せていいか」「外に預けられるか」が一気に決まります。逆に、ここを飛ばして「電話当番を1人増やす」だけで対処すると、その人が休んだ日にまた現場が止まる。人を増やしても楽にならない、いつものパターンです。電話は、減らすより先に「分ける」。これは電話に限らず、事務全般に効く考え方だと思っています。
あなたの会社では、1日にかかってくる電話のうち、「本当にその場で出なければならなかったもの」は何割ありましたか。実際に書き出してみると、半分以上が「あとでよかった」「そもそも要らなかった」に入る、という会社は珍しくありません。ここに気づけるだけで、打ち手はぐっと具体的になります。
ちなみに、ここで作る「電話の一覧」は、そのまま立派な業務の棚卸し表になります。一度書き出してしまえば、来年も再来年も使い回せる。1週間の手間が、何年分もの判断材料になるんですよね。新しく人を採るときの引き継ぎ資料にもなりますし、繁忙期にどの電話が増えるのかも見えてきます。
■ まとめ:高いシステムの前に、紙とペンで1週間
電話は会社の入口で、お客様との大切な接点です。だからこそ、全部を1人で抱えるのではなく、「本当に出るべき電話」に集中できる仕組みを作ることが、結局はお客様のためにもなります。その第一歩は、高価なシステムでも増員でもなく、紙とペンで1週間、電話を書き出すこと。御社の電話、いま「誰が」「何分」「何のために」受けているか、即答できますか。即答できないなら、そこに整理の余地があります。まずはそこから、一緒に整理してみませんか。
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外注も口約束では高くつく。任せる前の「1枚」の大切さについて。
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