みのほどわきまえラジオはじめます
「なんかおもろいことやりたいなぁ」
「それな」
ナラくんの言葉に俺は頷いた。ナラくんとは大学で出会って、今では馬鹿げた夢を語り合う仲である。この日もそうだった。
昼休みの時間、学食を食べ終わってのんびりとしている時、ナラくんが言った。
「ラジオ好きでさ、やってみたいわ」
「めちゃくちゃええやん。有名になりたいん?」
「いや、ただおもろそうやん。ラジオ」
考えたこともなかった。でも確かに、面白そうな予感はある。
「やるとしたらどんなんなんのかなぁ」
うっすら聞いたことのあるラジオを思い出しながら俺はつぶやいた。
俺の薄い想像をナラくんが繋げる。
「俺らってさ、もちろん素人やから知名度もないし、意識が高いわけでもないし、インスタにキラキラした日常なんか載せれるもんでもないやんか」
「もちろんな」
「だからまぁ、みのほどわきまえラジオみたいな名前にしてさ、このおもろいことやりたい熱をそのまま活動に移すみたいな」
「なるほどな」
背伸びをして意識を高くするわけでも、自分たちを偽って生活をキラキラさせるわけでもなく、身の丈でおもろいことをやる。
「あっついなそれ」
このくすぶってるだけの熱が形になるという想像だけで、胸が高鳴った。
「オールナイト○ッポンとかやりたいよな」
「いやみのほどわきまえてなさすぎるな」
「それはそう。俺ら素人すぎるやん」
「じゃあ、どうしようか」
二人の間にしばしの沈黙。
その沈黙をナラくんが破る。
「俺ら本とか好きやし、記事にでもしてみる?」
「ほう。記事って何を?」
「遊びを記事にして、載せる」
ナラくんの頭には更なる発想が枝を伸ばし始めた。
「たとえばどんなやつよ」
「そやなぁ」
悩んだのも束の間で、すぐに顔を上げた。
「ーーーアームストロング的散歩」
あまりに強烈なワードに思わず吹き出してしまう。月に最初に上陸したあの、アームストロング? の散歩?
「おいおい、なによそれ」
「アームストロングみたいにな、誰も行ったことのない、踏んだことのない土地を目指して散歩する遊びよ」
俺は空を見た。
「待ってくれなんやそれ」
「だから、アームストロングみたいにな、誰も行ったことのない、踏んだことのない土地を目指して散歩する遊びやん」
「内容じゃなくて」
「とりあえずおもしろそうじゃない?」
「まぁまぁ、確かにおもしろそうだけど」
今度は足元を見た。足元にはGUで買った靴。月面を踏んだアームストロングの足元とはかけ離れていた。
「アームストロングみたいにすごいことをするってこと?」
「いや、俺らはみのほどわきまえラジオやから、日常の誰も見つけてない発見を探すねん」
「なるほど」
「この街の誰にも読まれてない石碑を読みに行ったり、幽霊も待ちくたびれる田舎道とかに行くってことよ」
俺の脳裏に寂しそうに体操座りをする幽霊の姿が浮かんだ。
「やるか、アームストロング的散歩」
「やろう」
「他にもいろんな遊び思いつくで。たとえば・・・」
ナラくんは俺には想像つかない遊びを次々に提案した。
「おもしろそうすぎる」
いざやるとなると、頭の中に夢がどんどん広がっていく。
「そういうのを記事にして、いつか本になったら激アツやな」
「あつすぎるって」
時間を忘れて語り合って、講義に遅れた。
なんとなく始動し出したみのほどわきまえラジオは、ここから少しずつ具体性を帯びていった。
あれもやりたい、これもやりたい。
こんな身近におもろいことめちゃくちゃ落ちてるやん。
広げ始めた風呂敷はどこまでも続いていく。花見の場所取りならもう、河川敷を占領するほどの風呂敷を広げていた。
「武道館の日の丸がうっすら見えてきたわ、みのほどわきまえてないけど」
ナラくんの言葉はそれを如実に表している。
俺は雲を掴むような話だと思った。
しかもそれはただの雲ではない。
ラピュタに出てくる「龍の巣」と呼ばれるどでかい雲を掴むような。現実の雲も掴めないし、ラピュタにすら出ていないし、という人間にとっては限りなく遠い話だ。
ただ、夢を語って、その夢が叶ったところを想像するのが俺らにとっての原動力であり、娯楽だった。
「人間はね、夢あった方がええのよ」
こんな言葉を言ったのはナラくんだったか。
最近その言葉を思い出して強く賛同する。エンジンを掛けようと思っても、ガソリンタンクが空じゃ仕方がない。
ともあれ、今は遠い雲をいつか手に取るべく、思いつく限りの面白い遊びの足跡を残していこうと思う。
次回「アームストロング的散歩」
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