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【連載小説】水晶球の中の光 11話

 優希は目を覚ますと、霧がかった河原にいた。
 (死んだのかな……)
 妙に冷静になる。あれだけ首を絞められたら、死んでもおかしくなかっただろう。
 起き上がって周囲を見回すと石だらけだがポツポツと草花も咲いている。川は穏やかで向こう岸にもすぐ行けそうだった。
 (賽の河原かな……あれ?)
 向こう岸に目を凝らすと、誰かが立っていた。
 よく見ると優希と同じ背丈の女性だ。巫女の服を纏っており向こうもこちら側を見ている。
 優希は川のギリギリまで近づいた。
 女性は優希と同じぐらいで髪は長めだ。顔立ちは優希そっくりだった。
「……母さん?」
 女性は悲しい顔をして頷く。
「母さん!母さん!」
 優希は幼い子供のように叫んで川に入ろうとしたが、いつの間にか足に草が絡みついて前に進めなかった。
「それ以上は来てはダメよ!」
 実母・優香はピシャリと言い放った。
「まだ貴女は生と死の間にいるの」
「でも……」
「里江ちゃんは、呪い過ぎたの」優香は悲しそうに言った。
「理由は母さんも詳しくは知らないの。でも、自分の意に沿わない相手を呪詛で陥れていた。母さんが大人になってまた会った時も、それをやめてなかった……」
「私のことも、そうしてたって……」
「えぇ。母さんもそれに気づいたけど、もう遅かった。きっと優希にも呪詛をかけると思って、死ぬ直前に私の霊視能力を優希に渡したの」
 優希は優香を見つめる。自分の霊視は、母から託されたものだった。
「私の後ろに何があるか、視えるでしょう?」
 優希は目を凝らして優香の後ろにあるものを視る。
 黒く禍々しい塊が白い布でぐるぐる巻きにされている。逃げようともがいているが優香が布を握っているのもあり逃げられないらしい。
「里江ちゃんに憑いていた怨霊であり、優希の知り合いの男性の家に長い間呪いをかけていたもの……恨みの塊と言うべきかしら」
 優香は悲しそうにそれを見つめた。
「きちんと成仏していれば良かったのだけど、憎しみがそれ以上に優って誰にも止められなかったのね」
「それ……どうするの?」優希が恐る恐る聞く。
 優香は懐から何かを出した。銀色の守刀だった。
「これはお祖母さんから受け継いだ守刀。優希がお嫁へ行く前に渡したかったけど……」
 優香は鞘から刀身を出しながら言った。
「水晶球、母さんが出してくれたの?」
 優希はずっと疑問に思っていたことを聞いたが、優香は静かに微笑んだだけだった。
「……素敵な大人の女性になったわね、優希」
「母さん……」優希はまた涙を流した。
 ずっと優香の愛情に護られていた。それが分かっただけで、これまでが救われた気がした。
「守刀の代わりに、水晶球を託すわね。優希を死ぬまで護ってくれるから」
「うん……」優希は泣きながら頷いた。
「お父さんと里奈ちゃんにもよろしくね」
 優香は守刀に何か呟くと、間髪入れずに塊めがけて差し込んだ。
「母さん!」
 近づけられないと分かっていたが、優希は手を伸ばした。
 塊は暴れて爆散しそうになるが、布と優香の守刀でもがくだけだった。
 優香は守刀を握るのを止めない。塊は布の隙間から肥大化して優香ごと飲み込もうとした。
「やめて!」
 泣き叫ぶ優希だが、母親が塊に飲み込まれるのを見るしかできなかった。
 だが塊が優香を完全に飲み込んだ瞬間、どす黒い色から光を放って爆発音と同時に散ってしまった。
 優希は爆風で向こう岸に飛ばされてしまいまた気を失った。

「お姉ちゃん!」
 里奈の呼びかける声で目が覚めた。見知らぬ天井が目に入り、横を見ると少しやつれている里奈が優希を心配そうに見ていた。
「里奈……」
 優希はやっとの思いで声を出した。首を絞められたのもあって喉が潰れて声を出せるのがやっとだった。
「無理して喋らないで。ここ病院だよ。お父さんが連絡してくれたの」
「優希!」
 どこかに行ってたらしい将暉が慌ててベッドに近づいた。
「おと……さん」
「すまないな……俺のせいで2人に迷惑かけた……」
 将暉が項垂れて謝った。
「お父さんだって、全身強く打ったじゃない。でも間に合って良かった……」
 里奈が涙を流しながら将暉を見た。
 優希は声が出しづらいので、里奈のスマホを借りて「お母さんは?」と聞いた。
 里奈が話しても良いのかと将暉を見た。将暉が頷いたので、里奈は静かに説明した。

 将暉から連絡を受けて実家に来た里奈。
 大きな音がしたので家に入ると、音のした押入れへ駆け寄った。廊下には倒れた将暉、押入れの中にはぐったりした優希に馬乗りになって首を絞めている里江がいた。
「お母さん!」
「……里奈!」里江ははっとして振り向いた。
「どいて!」
 里江を突き飛ばし優希の脈を取る。気を失ってはいるが脈があるのを確認し救急車を呼んだ。
「違う、違うの」里江は狼狽えながら首を横に振る。
「それ以上動かないで!もしもし、救急お願いします」
 里奈はスマホをスピーカーにしながら救急へ連絡する。同時に優希と将暉の様子を伝える。
「私は悪くないのよ!悪くないの!」
 里江は発狂しながら玄関を出た。玄関前には家の騒ぎを聞きつけた近所の人が呼んだのか、パトカーが止まっており警察官と近所の人が話し込んでいた。
「林原さんですか?」
 警察官が声を掛けると、里江は警察官や近所の人を突き飛ばしながら裸足で家を飛び出していった。
「待て!」
 警察官の1人が母を追いかける。里奈は残った警察官に優希と将暉が倒れているのを伝えると、自分も里江を追っていった。
 すると途中で大きな音がして、大通りへ出ると大型トラックが止まっていた。
 道路には里江が目を見開いたまま倒れていた。

「お巡りさんが間に合わなくてごめんなさいって……ほぼ即死だったって……」
 里奈が泣きじゃくりながら言った。優希はもういいよと里奈の手を撫でた。
「優希も今は自分の体を治すのに専念してくれ。里奈とお父さんでやれることはやるから」
 将暉が幼い子の頭を撫でるように優希の頭を撫でた。優希は思わず涙が溢れた。
「……あたしもお姉ちゃんに甘えてばっかりだったもの。任せて」
 里奈もまだ涙の残った目で優希を見つめた。
 優希も気を張っていた身体から、力が抜けて安心感を得ていた。

#創作大賞2026 #ホラー小説部門

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