MI勉強会運営について
1.世界で行われているMI勉強会の特徴
公開されているMINT関連グループや実装資料を総合すると、次の形式が共通しています。
項目世界で多く見られる形名称Practice Community、Learning Circle、Coaching Circle、Skill Development Group頻度月1回、または隔週・毎週時間90分~2時間人数4~8人が理想。全体は12~20人でも、小グループに分ける内容短い知識確認、デモ、ロールプレイ、観察、フィードバックテーマ毎回一つに絞る題材参加者自身の「小さな変えたいこと」または臨床事例評価OARS、質問・聞き返しの比率、複雑な聞き返し、チェンジトークへの応答など雰囲気評価・試験ではなく、安全に失敗できる練習場所継続毎回「次回までに試す行動」を一つ決める
海外のMI Learning Circleでは、特に「4~8人」「特定の技能を実際の会話で練習する」「正確なフィードバックを返す」ことが推奨されています。組織にMIを実装するためのガイド
MINTに掲載されている国際オンライン実践グループも、月1回90分で、毎回あるMIの側面を検討したあと、相互練習とフィードバックを行っています。MINT掲載のPractice Community
重要なのは、単発研修だけでは技能が低下しやすいことです。21研究をまとめたメタ分析では、研修後にフィードバックやコーチングがない場合、6か月間で技能が低下しました。一方、6か月に3~4回のフィードバック/コーチングを受けると、技能がおおむね維持されました。MI研修の技能維持に関するメタ分析
したがって、勉強会の役割は「新しい知識をたくさん教えること」よりも、研修後の技能を維持・向上させることに置くのがよいでしょう。
2.おすすめする2時間勉強会の基本構造
「MI実践ラボ」型の120分
時間内容目的0~10分チェックイン安全な雰囲気をつくる10~20分前回の実践報告臨床への転移を促す20~35分ミニレクチャー今日の技能を一つだけ確認35~45分ファシリテーターのデモ技能を具体的に見る45~60分分解練習一つの技能を反復する60~65分休憩65~95分3人組ロールプレイ話し手・聞き手・観察者を交代95~110分全体で振り返り発見を言語化する110~118分次回までの実践目標現場につなげる118~120分1分評価次回の改善材料を得る
基本原則は、少なくとも全体の60%を実技にすることです。
3.初回に適した具体的なプログラム
初回テーマとしては、技法を網羅するよりも、
「聞き返しによって、両価性の中に入っていく」
が適しています。質問ばかりになる傾向を修正でき、初心者にも経験者にも学びがあります。
0~10分:チェックイン
一人30秒程度で答えてもらいます。
名前・職種
MIを使いたい場面
今日、持ち帰りたいこと
運営ルールも最初に確認します。
実在する患者を特定できる情報は出さない
上手下手を判定する場ではない
フィードバックは、まず本人が求めた点に限る
話し手は、話したくない内容を話さなくてよい
録音・撮影は明確な同意がある場合のみ
10~20分:「MIを使ってみた」報告
次の3問で短く共有します。
どんな場面で使ったか
何が少しうまくいったか
次に変えてみたいことは何か
成功例だけでなく、「正したい反射が出た」「質問攻めになった」といった経験も歓迎します。
20~35分:ミニレクチャー
扱う内容は次の4点だけで十分です。
単純な聞き返しと複雑な聞き返し
聞き返しは、相手の発言の「仮説」を返すこと
両価性の両側を理解しつつ、チェンジトークを聞き逃さない
正したい反射が出たときこそ、質問ではなく聞き返しを一つ置く
ここで長いMI概論や歴史には入りません。
35~45分:ファシリテーターのデモ
参加者一人に、実生活上の軽いテーマを3~5分話してもらいます。
例:
運動を増やしたい
夜更かしを減らしたい
書類を早く処理したい
スマートフォンを見る時間を減らしたい
参加者には、次の観察課題を割り振ります。
A:開かれた質問を数える
B:聞き返しを数える
C:複雑な聞き返しを記録する
D:チェンジトークを記録する
E:ファシリテーターがチェンジトークにどう応答したかを見る
デモ後、最初に話し手へ尋ねます。
「どの応答が、もう少し話してみようという気持ちにつながりましたか?」
その後で観察者に聞きます。
45~60分:聞き返しの「バスケット」
ファシリテーターが患者役の発言を一つ提示し、参加者が次々に聞き返しを作ります。
例:
「酒をやめろと言われるけど、酒ぐらいしか楽しみがないんです」
可能な応答:
「お酒は、今のあなたにとって大切な楽しみなのですね」
「やめるよう迫られるほど、納得できなくなる」
「楽しみを失わずに、この状況を何とかしたい」
「今のままでよいとも、完全には思っていない」
「飲酒そのものより、楽しみがなくなることが心配なのですね」
ルールは「質問・助言・解釈の説明をせず、聞き返しだけ」です。正解を一つに決めず、どの応答なら会話がどちらへ進みそうかを話し合います。
65~95分:3人組ロールプレイ
役割は次の3つです。
話し手
聞き手
観察者
1ラウンド9分程度で、3回交代します。
1ラウンドの構成
面接:5分
話し手からの感想:1分
聞き手の自己評価:1分
観察者のフィードバック:2分
聞き手の課題
質問を連続させない
質問一つに対して、聞き返しを二つ程度返す
少なくとも一回、複雑な聞き返しを使う
チェンジトークが出たら、聞き返すか詳しく尋ねる
最後に短い要約をする
助言や問題解決には入らない
観察シート
観察項目記録開かれた質問回閉じられた質問回単純な聞き返し回複雑な聞き返し回是認回チェンジトーク発言をそのまま記録維持トーク発言をそのまま記録MI一致的だった応答具体的な言葉を記録次に試せそうな応答一つだけ記録
これは正式なMITI評価ではなく、学習用の簡易観察です。正式なMITIでは、共感、パートナーシップ、チェンジトークの喚起などの全体評価と、質問・聞き返し等の行動カウントを行います。MITI 4.2.1
4.フィードバックの方法
勉強会が続くかどうかは、フィードバックの安全性で決まります。次の順序が適切です。
話し手
「どの言葉で話しやすくなったか」聞き手
「うまくできた点」「試し直したい点」観察者
見聞きした具体的な言葉・行動を伝える聞き手が希望した場合のみ提案
「別の聞き返しを一つ試してみますか」
フィードバック例:
「『やめたい気持ちもどこかにあるんですね』と返したあと、話し手が具体的な理由を話し始めました」
これは具体的で有用です。一方、
「もっと共感したほうがよい」
「それはMIではない」
という人格評価・正誤判定型の表現は避けます。
さらに有効なのが「巻き戻し」です。
「同じ発言に戻って、今度は質問ではなく、複雑な聞き返しで答えてみましょう」
これを一度行うだけで、単なる講評から deliberate practice(意図的練習)に変わります。
5.年間6回のテーマ案
毎回同じ120分構造を保ち、技能だけを変えると運営しやすくなります。
回テーマ中心ワーク
1 正したい反射と聞き返し説得体験+聞き返しバスケット
2 複雑な聞き返し感情・意味・両価性の仮説を返す
3 是認強み、努力、価値を見つけて言葉にする
4 フォーカシングアジェンダ・マッピングと方向の合意 (※下記に注釈)
5 チェンジトークDARN-CATの識別とEARSによる応答
6 維持トークと不協和両面の聞き返し、強調を伴う聞き返し
7 情報提供Ask–Offer–Ask/Elicit–Provide–Elicit
8 プランニング選択肢の喚起、具体化、コミットメント
9 難しい臨床場面治療を望まない人、家族、司法・強制場面
10 統合練習10分面接+簡易コーディング+再実演
題材はアルコール・薬物・ギャンブル・服薬・退院後支援などから選べます。ただし、MIの技能そのものを学ぶ段階では、参加者自身の軽い行動変容テーマのほうが、患者役を「演じすぎる」問題を避けられます。
6.運営体制の提案
全体が10~18人なら、次の体制が扱いやすいでしょう。
主ファシリテーター:代表者
共同ファシリテーター:1人
3人組または4人組を固定せず毎回組み替える
月1回、2時間
原則6回を1クール
毎回参加できなくても復帰可能
初心者向けの基礎資料は事前配布し、勉強会内では説明しすぎない
参加者が20人を超える場合は、メイン講師一人だけではフィードバックの質が下がるため、各グループに進行役を置く必要があります。
7.勉強会の評価
負担の少ない評価で十分です。毎回終了時に、次の3項目を0~10点で回答してもらいます。
今日の内容は臨床に役立ちそうか
安心して練習できたか
もう一度参加したいか
加えて自由記載を一つだけ設けます。
「次回までに、現場で試してみるMI行動を一つ書いてください」
3か月または6か月ごとに5~10分の模擬面接を録音し、質問数、聞き返し数、複雑な聞き返し、チェンジトークへの応答などを簡易的に比較すると、勉強会の成果も可視化できます。ただし、これは人事評価とは完全に切り離すべきです。
結論
次の設計がお勧め。
月1回・2時間、8~16人、講義20%・練習60%・振り返り20%。毎回一技能に絞り、3人組で実演し、観察可能な行動に基づいてフィードバックし、その場で一度やり直す。
MINTは、オンライン対応の「25のMI練習法」やTNTマニュアルの日本語版も公開していますので、各回のワークを組み立てる素材として利用できます。MINT公式リソース集
主に参考にしたサイトは、以下の3つです。
Motivational Interviewing Network of Trainers(MINT)公式サイト
MIの国際的な研修・実践共同体に関する中心的サイトです。練習教材、TNTマニュアル日本語版、オンライン用の25の練習法などが公開されています。MINT掲載のMI Practice Community
月1回・90分で、特定のMI技能を取り上げ、参加者同士の練習とフィードバックを行う実際の運営例です。Sustaining Motivational Interviewing: A Meta-analysis of Training Studies
単発研修だけではMI技能が低下しやすく、研修後6か月間に3~4回程度のフィードバック/コーチングを行うと技能が維持されることを示したメタ分析です。
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※「フォーカシング:アジェンダ・マッピングと方向の合意」とは、動機づけ面接(MI)の4つのプロセスのうち、対話で取り上げるテーマや変化の方向を、支援者が一方的に決めず、相手と相談して明確にする段階です。
1.フォーカシングとは
MIでは、対話を次の4つのプロセスとして捉えます。
関わる(Engaging)
フォーカスを定める(Focusing)
引き出す(Evoking)
計画する(Planning)
フォーカシングは、
「今日は、何について一緒に話すのか」
を明らかにするプロセスです。
単に相手の話を自由に聞き続けるのではなく、かといって支援者が「今日は飲酒の話をします」と決めつけるのでもありません。相手の希望、支援者の役割、臨床上の必要性をすり合わせて、対話の方向を共同で決めます。
2.アジェンダ・マッピングとは
相手が複数の課題を抱えているときに、話し合えるテーマをいったん「地図」のように並べ、どこから扱うかを選んでもらう方法です。
例えば、アルコール問題のある患者さんが次のことを話したとします。
眠れない
家族との関係が悪い
仕事を休みがち
飲酒量が増えている
薬を飲み忘れる
支援者は、すぐに「まず断酒です」と決めず、次のように整理します。
「今のお話には、睡眠のこと、ご家族との関係、仕事、飲酒、それから薬のことがあります。どれも関係していそうですが、今日はどこから話すのが一番役に立ちそうでしょうか」
これがアジェンダ・マッピングです。
基本的な進め方
話題の候補を挙げる
支援者から扱いたいテーマがあれば、許可を得て加える
相手に優先順位を選んでもらう
選んだテーマと方向を確認する
例えば、
「私からは、検査結果と飲酒の関係についても少しお話しできればと思っています。今日の話題に加えてもよいでしょうか」
と、支援者側の課題も透明性をもって提示できます。
3.「方向の合意」とは
話題を選ぶだけでは十分ではありません。その話題を、どのような変化の方向に向けて話すのかも確認します。
例えば「飲酒について話す」だけでは、まだ方向が曖昧です。
飲酒をやめる
飲酒量を減らす
飲酒による害を減らす
飲酒と体調の関係を検討する
今後どうするか考える
まず現状を整理する
など、さまざまな方向が考えられます。
対話例
患者:
「今すぐ酒をやめるつもりはありません。でも、このままでいいとも思っていません」
支援者:
「今すぐやめるという話ではなく、まず、このまま飲み続けることについて感じていることを整理してみるのはどうでしょう」
患者:
「それなら話してもいいです」
ここでは、支援者と患者の間に、
「飲酒をやめさせる」のではなく、「現在の飲酒について本人の両価性を整理する」
という方向の合意ができています。
4.方向の合意は「治療目標への同意」とは限らない
重要なのは、方向の合意が必ずしも「断酒に同意する」「服薬すると約束する」という意味ではないことです。
合意するのは、まず「今日、何をどのように話し合うか」です。
たとえば、
「断酒を勧められているけれど、自分では納得できない部分について話す」
という合意でも、十分なフォーカシングです。決断を急がせず、両価性を探索できる対話の土台を作ります。
5.うまくいかない例
支援者が決めつける
「今日は飲酒をやめる方法について話しましょう」
本人が断酒を検討していなければ、早すぎるフォーカスです。
相手に任せきる
「何でも好きなことを話してください」
関わりは作れても、変化に向かう焦点が定まらない可能性があります。
多くの問題を一度に扱う
睡眠、家族、仕事、飲酒、服薬をすべて解決しようとすると、対話が散漫になります。
望ましいのは、
「いくつか大切なことが出てきました。今日はどこに少し時間をかけましょうか」
と共同で絞ることです。
勉強会で使えるワーク
3人組で「話し手・支援者・観察者」に分かれます。
話し手
関連する問題を3つ以上含む状況を話します。
例:
「最近眠れず、仕事にも遅れ、酒が増え、妻とも口論になります」
支援者
5分以内に、以下を行います。
複数の話題を整理して返す
支援者側の話題は許可を得て加える
相手に優先する話題を選んでもらう
今日の対話の方向を確認する
観察者
次を確認します。
選択肢が中立的に提示されたか
支援者の課題を押しつけなかったか
相手の優先順位を尋ねたか
最後に「何について、どの方向で話すか」が明確になったか
要するに、アジェンダ・マッピングは「話題の候補を一緒に地図に描くこと」、方向の合意は「その地図のどこへ、何を目指して進むかを一緒に決めること」です。
