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神のデス・ギフト-F- 第4話 露骨な『鍋とハンマーと型と砂』嗚咽の作業と風呂

これは、神から贈られた“死にかけるほどのギフト”の開封記録
文化の衝撃と命の判断が交差する、地獄の旅の実話。

今までの神のデスギフトの”もくじ”はこちら

ある出勤の寒い夜と不安の重圧。
俺は暗闇の田んぼ道で「オエーッ」とカレーライスを吐きながら歩いていた。

俺の住んでいる実家は祖父が作った。

祖父は大正生まれ。
この町では国鉄職員として働いていた。
この最寄駅周辺は国鉄だった家族がほとんどで、国鉄の職員の町として栄えたことは幼い頃からも簡単にわかった。

昭和初期、太平洋側と日本海側の物資の運搬に作られた線路。
祖父は戦争にも行っていた事もあるから、軍需的な意味合いもあったと思う。

今や、栄えたその風景はなく、駅も無人化され、築80年ほどの家が立ち並ぶ寂しい町になっている。
使われていない無数の線路趾。静かすぎて、空気が古い味をしていた。

機関車の運転手だった祖父が汽笛を鳴らす音が聞こえてきそうだ。


俺が夜勤4連勤をスタートする時の食事はいつも母が作ってくれたカレーライスだ。
母は俺が仕事が不安で食欲がないので、簡単にたくさん食べられて栄養が豊富なカレーを選んだ様だ。

母「いつもゲッソリして帰ってくるんだからちゃんと食べな。命の危険ある仕事だし」

俺「ありがとう」
心「うますぎ!」

俺はこのカレーで元気を少し取り戻し、20時出社の夜勤に向けて真っ暗闇を運転して会社に向かった。

駐車場に車を止め、ロッカー室までの20分の徒歩。

両側を田んぼで埋め尽くされた街灯もない無音の闇。遠くから工場の音。
東京から帰ったばかりの俺にはあまりの変化にまるで夢の中にいる様だった。

そこに吸い込むたびに肺に刺さる鉄の粉塵。
緊張と癖のある鉄臭で、俺は毎日その通勤路で吐き気がしていた。

俺「オエッ」
心「ヤバっ!のど仏までカレーライスが上がってきた」

口の中にカレーの風味が広がるのが切なかった。

嗚咽は20分間の通勤で多い時は3回はあった。
ひどい時は、もっと大変だ。

心「あぁ、また気持ち悪くなってきた」
俺「オエッ」
心「やべえ、出ちゃったよ。母ちゃんごめん」

特に寒い日は胃の痙攣が酷かった。
この命を削る毎日、仕事の悪魔の様な恐怖、重さ、光、暑さ。
そして、全てを失ってなお、さらに何かを失いそうになる俺という白菜の漬物。
筋肉が切れたような痛みが寒さに痛めつけられる。

日々、漬物石の重量で俺の精神と肉体の重圧は塩がしっかり染み込むほど押しつぶされている。
臭い風の中で、母のカレーの風味だけが際立っていた。

会社に行く途中緊張と不安で吐き気がする俺

溶かした鉄のその後と砂の地獄

俺は毎日あたりまえの様に鉄のスクラップを100トン溶かしていた。
一回あたりの溶かす量は10トン。

2時間弱で10トンの鉄を溶かしてからも大変だ。
なぜなら鉄が液体としていられる時間なんてちょっとしかない。
外気に触れ冷えるとすぐ固体になって、大惨事になる。

この日は10トンの鉄を溶かした後の話だ。

K「よーし、炉を傾けろー」
俺「はい!スイッチオン!」

ジョイスティックの様なインターロックがかかったハンドルを押すと巨大な高温の炉が後ろに傾く。
真っ暗な工場内がこの時は閃光弾の様に明るくなり、普段埃で見えない天井までも照らされる。
俺の巨大な影が映るくらいの光量だ。

ドバーーーーーーー

真っ白の様な真っ赤の様なマグマの様な鉄が流れる。
それを受け止める物は『鍋』と言われる巨大クレーンで吊るされた物。
タンブラーの様な形のレンガでできた入れ物だ。
軽自動車なら縦にすっぽり入ってしまう。

心「いつもながら、恐ろしい光景だ」

鍋に10トン入り切るとクレーンで鍋を吊ったまま砂の型の場所へダッシュだ。
鍋を砂の型に入れて鉄を作るのだが、鍋を操る職業の人は”鍋屋”と呼ばれており、俺の溶解は鍋屋のアシスタントで一緒に向かう。

この型のエリアがまず地獄。
サッカー場くらいの場所に型が並んでいる。

心「サッカー場一面、全部“灼熱のぬか床”って誰得なんだよ。走り回るのは選手じゃなくて俺の寿命だし」

すでに鉄を流し込んだ型は自然に温度が下がるまでそこに置かれるのだか、そのまま置いてあるもんで、気温が50度くらい。
解けない砂を使っているんだけど、熱せられた砂の匂いも爆異臭。
型の上は蜃気楼の様に揺れながら不安定に存在していた。

一個一個の型に鍋屋がテコの原理で鉄の液体を入れ、次の型に行くの繰り返し。
やっとの思いで全部に入れると汗は1リットル近く出ることがある。
20個の型に10トンの鉄を入れるんだから一個500キログラムの部品を作っているのだ。

心「世の中の酵母はパンとかビールを膨らませるけど、ここの発酵は俺の疲労と虚無感だけ膨らませてくる」

主に車やトラックのハウジングと呼ばれる部分が多い。

もうこれが一回終わると、汗が服にベトベトに湿って砂がくっつき真っ黒になる。匂いももちろん密着する。当然顔も真っ黒だ。
だからこそ、防塵マスクをつけないと肺がやられる。

さっきも言ったが、これを一日10回だ。

俺「ありえねーよ」
心「生き物ならとっくに腐乱してる回数だろ。人間だけ“労働”って名前で常温放置されるのおかしくないか?」

砂の型に鉄が注がれる姿を見て汗と暑さで眩暈がする俺

ハンマーの狂気

型に鉄を入れて戻ってくると、次は職長Kが次の鉄を溶かしている。
じゅんばんこで作る流れだ。

心「俺は次まで2時間おやすみだぁ」

とはいかない。
残念ながら、今使ってきた鍋を直さなければならない。

細部の丁寧な部分は鍋屋がやる。
俺は、単純にただパワーを要する部分だけが協力できる。

しかし、たった一回鉄を運んだだけで鍋の内側はかなり抉れていて完全に”やられている”状態だ。
内側は鉄の温度の1500度以上の耐熱のレンガで作っているのにやられる。
レンガが減っているのに鉄が張り付いているから余計最悪。
ボロボロになっている為毎回修復しないと鍋が壊れる。

液体の鉄を出し入れする部分にスリーブという魚肉ソーセージの様な形の筒状の物がある。
長さは3メートル・直径は40センチくらいの長くて太い棒だ。

これを鍋から出してぶっ壊す。芯だけにする。
芯は再利用で、周りは使い捨てだかだ。
はやく芯を救出しなければいけない。
当然温度は500度くらいになっている。

このスリーブの芯の周りについているのを俺が30キロハンマーで叩き割るだ。
最初から硬い素材なのに、うっすら鉄を纏っている。
熱く赤に芯から光っている。
熱いうちに壊さないと壊れないし、芯のまがりも修復できない。

俺は50スイングで割り切る、曲がり修復するといつも決めて取り掛かっていた。
30キロのハンマーを叩きつける経験をした人はいるだろうか?
はっきり言って、命中しないし、当たっても大したダメージを与えられない。

心「合コンならまだしも、ここで“空振り多めの俺”を育てないでほしい」

職長K「なんだ、そのへっぴり越しは?」
俺「へい、なんだか難しいっす」
職長K「なんのことねえ。好きな女の子だと思ってアタックだ」

心「俺の恋愛経験の少なさ、ここで露骨にバレていく。ハンマーだけが上達していく人生ってなんだよ」

なんだか、よくわからないが、言いたいことはわかってきていた。
ハンマーを打つペースは時間がないから急がないといけない。

振りかぶって、パーン。振りかぶって、パーン。振りかぶって、パーン。

無酸素運動で50発。
割れた時は血圧がおかしくなって倒れそうになる。

心「乳酸菌より早いスピードで乳酸たまってる気がする。これもう“スポーツ”じゃなくて“筋肉の過発酵”だよな」

倒れそうになるけど、周りは高温のスリーブのかけら、触ったら死ぬ。

あとは、この芯を水に入れて落ち着かせ、鍋屋にスリーブを付け直してもらう。

まぁ、一回なら面白いかもしれないが、永遠にやるのはかなり辛い日々だった。

無限に30キロのハンマーを撃ち続ける疲れる暇もない俺

一日の唯一の楽しみは社内の銭湯だ

汗を8リットル出して、服は濡れ濡れ、顔は目と口以外真っ黒。
(梅干しを溶かした水を8リットル飲んでトイレなし)
ヘルメットしてない部分はドレットヘアーの様になっていた。

時間になれば次の班に渡すだけだから、残業はない。
20時から仕事だったから8時には終われる。

みんな「おつかれさまでしたー」
K「どーれ、みんな風呂行ってスッキリすっぺ」

職長K以外はフラフラな状態だった。
しかし、夜勤明けの工場の溶解部から出た時の朝日は最高だった。
工場は死ぬほど広く、光が一切入ってこないからだ。

心「ゲームでいったら、ずっと地下ダンジョンにいた後のセーブポイント前の光だよ、これ」

10分ほど全員ヘロヘロで、会社内にある無料の巨大な銭湯に行く。
脱衣場では別の部署の夜勤明けの工員もたくさんいる。
皆緊張を解いて、ホッと背中が丸まって眠そうになっていた。

K「脱衣場は気をつけろな。水虫菌いっぱいいるから」
俺「えー。どこ歩くんですか?」
K「なんのことねえ、人があるかなそうな所踏めばいい」
心「そんなぁ。800人が踏まない場所ある?」

俺は職長Kの隣で頭を洗って体を洗う。
それで湯船につかる。
職長はせっかちだから、頭も体も同じ石鹸で洗う。
俺が湯船に入る頃には湯船から出ていく。

心「お湯で落ちるのは砂と汗だけ。胃の鉄臭さは、明日の分まで残ってる」

そんな中、進展した俺の感情もあった。

心「職長Kは多分、無敵で、最強で、精神力が鉄の様に硬いんだ」

俺はそう思っていた。
数日がすぎ、いつの間にか俺も頭も体も同じ石鹸で洗う様になった。
湯船に入るタイミングも同じにし、風呂を出るのも同じにした。

俺は、ある日職長Kを師匠と思い出した様な気がする。

心「世の中にはスーツ着た師匠もいるけど、俺の師匠は砂と鉄と水虫リスクにまみれた男だった。」

クスッと笑って俺は風呂場を出た。

心「神は助けてくれないけど、この工場にはKがいる。それだけが、今日もここに戻ってきた理由だ。」

何もない肉体労働の中で見つけた先駆者。
”なんのことねえ”をもっと早い時に体得していたら人生は変わったかもしれない。
言うだけで、なんとかなることもあったと思う。

俺と言う白菜の漬物はこの熟練の職長Kだけが出せる旨みを受け止めなければならないのだろう。

この日も神は、多分どこかで見ていたはずだ。でも、手は出してこない。
ただ、漬物石だけ一個多めに置いていった。

心「せめて重しじゃなく、ラベルとか貼ってくれよ。『長期熟成中・開封注意』って」

第4話完

◆次回予告

俺をこの会社に入れてしまった総務部Tが俺を見にきた。
綺麗な作業着に綺麗なヘルメット。

心「なんだぁ。羨ましいな。って、住む世界違うな…」
T「頑張れよ」
俺「あ、ああ」

そんな最中、やけになって父に教えてもらったスナックへ。
闇堕ちが始まり出した。
癒しとトラブルが俺を地獄に叩きおとす。
その時、瞬間あの人が助けてくれた。

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仕事を終えて職長Kと銭湯で疲れと汚れを癒す俺


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