神のデス・ギフト第12話〜「東京篇終焉」 納豆になった俺を神がかき混ぜる夜〜
俺は完璧に納豆になった。
神の声は、風よりも速く、痛みよりも遅かった。
俺の奥歯がきしむたび、神が笑った。
これは、神から贈られた“死にかけるほどのギフト”の開封記録。 地獄を笑い、整えを始めた男の実話。
アパートの崩落と同時に始まった見えぬ敵”大家”との短期決戦に勝利し、久々の満足感を得た直後、彼女の中絶の告白を聞かされた。
俺「俺は頑張るほど後退する。なんの歯車が食い違っているのだ!?」
分からない事が最大の悩み。
悩みを放置して過ごせは悩みは増える。
皮肉なパラドクスだ。
だから、闘い続けなければいけない。滑稽な神々と。
俺は、疲れ切った心と体を奮い立たせて、再就職した会社の初実務の日を迎えた。
俺の脳が静かにプクプクと発酵していた。
たぶん俺のセロトニンも、泡の中で逃げ場を探していた。
初実務の朝ビルの前に1時間早く着いた。
会社の最寄りの駅は人が誰もいない。
ただ静かな都会のビル風が不規則に吹いていた。

アスモデウス:親友となり良き理解者セブンとの時間、暴発した有害発酵菌
その日は自分の部署に一番早く出社した。
以外に俺は時間に余裕を持つタイプだ。
買った缶コーヒーを飲み、風景に慣れ、デスクに慣れるためだ。
先輩たちが次々に出社し、挨拶をして、仕事が始まる。
俺「よし!今日からのスタートにやる気が満ち溢れている」
学ぶ事が山ほどあったのだが、皆丁寧に教えてくれる。
先輩「今日で全部覚えるのは無理だから、ゆっくり雰囲気に慣れてね」
俺「今までのゾンビ会社とは大違いだ!」
今までのゾンビ会社のゾンビたちは教えないくせに、仕事を終わらせろと言っていたから。
非常に難しい仕事だったが、充実して毎日ステップアップしていた。
今までの会社では頭30%体70%の仕事だったが、今は頭100%。
切り替えが徐々にうまくいっていた。
同期の9人も悩みながらでも、しっかり進んでいた。
同期の9人は年齢もバラバラ、転職組で部署が違っていたが交流は続いていて仲が良かった。
一緒にランチにいったり、たまに新宿ガード下で飲んだりして切磋琢磨していた。
ともに満足感のある半年を過ごした。
しかし、忘れていた。
俺は神に監視されているお気に入りの酵母だ。
順風満帆の発酵などさせるはずがない。
これは、神が俺を単に熟成させる期間が半年だっただけだった。
俺は、再び神に調理される。
神キッチンが慌ただしく動き出していた。
ある日、会社の大きなフロアの大規模なレイアウト変更が行われた。
その中で、数人の人事異動も行われることになった。
俺は、部署は変わらなかったけど、フロアの北端から、西端に移ることになった。
窓がなくなったくらいの変化で、さして変化はなかった。
窓がないはずなのに、俺の席にはスーッと風が流れてきた。
俺の首筋に当たり、なぜか冷たく寒気のする風だ。
俺の後ろの部署は、女性だけの部署。
完全にWEBに特化した部署が来ることになった。
明るい女性が年齢バラバラに楽しそうに、そして真剣に仕事をしていた。
その笑い声が風と一緒に俺の背中をくすぐった。神の息づかいみたいに。
その中に、俺に取って同期で同じ年の仲良しセブンも移ってきた。
座ったままでもセブンは見えたし、ちょっと動けばセブンと話せた。
もちろん連携した部署だから仕事の話も兼ねてよく話に行くことになった。
相変わらずサバサバしてて男みたいで話していて楽しい。
いつも笑顔なのも好印象。
押切もえに似てるしスレンダーだし高身長。社内人気も高い。
ボンバーヘッドがギャップがあって逆に神格化しないで話せる。
セブン「席、近くなったね!嬉しいね!」
セブンは笑っていた。
その笑顔は太陽というより、培養皿の中の微生物の光に近かった。
近づけば癒えるかもしれない。だが、同時に何かが分解される気もした。
俺は、仕事の悩みや会社の仕事のアドバイスをお互いに会社終わりに話して帰る事が増えていった。
もちろん仲良くなってプライベートも色々聞いてもらった。
今までのデス地獄、彼女の中絶・・・
彼女は親身にほぼ毎日聞いてもらえた。
俺も気持ちが楽になっていくのがわかった。
セブンは話も好きだし、聴くのも好きで、お酒好き。
毎日お互いの家の中間地点の渋谷の安居酒屋で23時頃まで飲んで帰るのが習慣になっていた。
貧乏だったので、いつも1杯〜2杯。大体1500円だった。
新しい会社でちょっと給料が上がったので、月10回程度の居酒屋は問題なかった。
いや、出費以上の精神的な安心感が元を取っていた。
しかし神は懲りずに毎晩、泡立つ音を少しだけ強くして混ぜていたのかも知れない。
まだ混ぜ足りないと思ったのだろう。
そんな生活が3ヶ月くらい続いただろうか。
まだお互い公言はしていないし、何も気持ちは伝えていなかったけど、俺たちは暗黙の了解の様に恋人になっていた。
そのまま渋谷に泊まり、一緒に会社に出社することもあった。
会社の最寄駅でタイミングを変えて出社する。
会社から帰る時も、タイミングを変えて退社し、駅で待ち合わせる。
いつの間にか、自然に流れる様に心も体もお互いを受け入れてしまっていた。
あぁ、神はこんな手の込んだ罠を仕掛けるなんて。
この時は目の前と周りが見えていなかった。
だから、気づくことなんてできるはずもなかった。
楽しすぎたからだ。
中絶した彼女が同棲中の俺を避ける様になりお互いにギクシャクしていたこのタイミングほど神は俺を地獄へ送るプレゼントが最適だと思ったのだろう。
俺は毎日浮かれて寝る前など携帯電話でセブンとメールのやり取りなどをして過ごしてきた。
この三ヶ月毎日の様に。
愛を囁き合っていた。
そんな仕事にも恋愛にも満たされていたある晩それは起こった。
夜、俺はベッドに横になりながらボーッとしていた。
ピリリリリリ、ピリリリリリ
携帯が鳴った。
発信元は「セブン」
俺はウキウキして電話に出た。
大好きなセブンからの電話なんて久しぶりだった。
俺「もしもーし」
俺は浮かれた男の声色で電話を受けた。
男「おい、お前。一体誰だ!」
俺「え?!」
男「え、じゃねーよ。何様のつもりでセブンと遊んでんだよ!」
俺は状況が理解できなかった。
交通事故に遭うと状況を理解できなくなと聞くが、こういうことか。
男「俺は、セブンの夫だよ。セブンを明日から退職させる。近づいたら会社に言うからな。」
男「この不倫男が!」
俺は何が何だかわからなかった。
ただ体は小刻みに恐怖で震えていた。
心「夫?セブンと遊んでる?不倫男?」
世界が一瞬だけ、発酵をやめた。
空気も時計も、すべての泡が止まっていた。
俺は眠れず、理解できないまま朝まで過ごした。
そして翌朝出勤し、それを知った。
先輩「セブンは家庭の事情で今日から退職する様です」
心「セブンは既婚者なのに独身と言って俺と遊んでいたんだ」
俺はセブンに電話もメールもできないままもう2度と会うことはなかった。
俺に残ったのは心の支えを失った空虚感。
いったい俺の何が悪かったのか。
心が脱臼していた。
絶望の真ん中で、セロトニンが一粒だけ光った気がした。
それは希望ではなく、“生き残るための化学反応”だった。
やっと進み出した歯車がまた外れ、逆向きに周り出す音がした。
俺の頭のかなに大量の糸が引いているのがわかった。
そう。
知らず知らずに、過剰に発酵された俺の脳は静かに泡立っていたのかも知れない。
丸の内線のホームで電車が入ってきた。
突風の様な風を巻き上げながら。
膝から崩れる俺を神が嘲笑っている様な気がした。
きっと、退屈なんだろう。人間を壊す以外の娯楽を知らないんだ。

ベルフェゴール:会社に馴染みやっと居場所が見つかった瞬間、殺菌される
俺は数ヶ月、躾けられたナットウキナーゼ菌として毎日を送っていた。
朝起きて会社に行き、言われたことをする。
会社が終わって家に帰り、会話のない同棲生活を送り、飯を食べて寝る。
感情を持ったら心が骨折する感じがした。
出口も目標も救いもない。
ただ腐らすだけ。
努力すればするほどマイナスに進む。
だからと言って努力をやめるとマイナスにはならないがプラスにはならない。
サハラ砂漠で砂粒の数を数えている様な途方も無い気持ちで過ごしていた。
俺は、その時営業職に異動になっていた。
会社にはもともと営業部はあり、営業マンが20人ほどいた。
その営業部では無い。
俺は、新規事業部と言う部署の新商品を売る部内の営業マンだった。
それも俺一人だった。
俺「営業なんてやった事がない俺が、新規事業の営業なんてどうなってるんだ?」
段々と、以前のゾンビ企業の様な空気感を感じ始めていた。
すでに俺が異動してくる前に、商品開発に1億円をかけていたらしい。
これを回収して欲しいと言う命令だ。
販路ゼロから俺は東京都内の企業を歩き回った。
半年歩き回って人脈はできたが、売り上げは上がらない。
なんせ、毎日商品が改良されていて、完成形になっていないのだから、クレームと説明だけで毎日が過ぎていく。
俺「俺の営業方法は合っているのか?ハズレているのか?商品がダメなのか?」
もうプライベートが失われた俺は毎日最終電車まで資料を作成し、リストアップをし、日々を費やした。
それでも、まだ初期費用を回収するまで9000万円以上は稼がなければならなかった。
半年間で人件費もかかったからもっと回収しなければいけないのかも知れない。
俺「きつい。本当にこの新規事業は独り立ちするのか?」
俺は、疑念を無理やり封じ込めながら毎日を過ごしていた。
無理やり封じ込めた発酵のガスは俺の頭部内圧力を徐々に増やしていった。
東京中を毎日飛び回り会社に戻ってきた時、違和感を感じた。
これはある年末の寒い日だった。
社長「新規事業部は独立して、子会社化する」
部長が社長になり、副部長が取締役になり、今のメンバー6人は新会社へ移ることになる様だった。
会社の場所も変わる。
今の会社からかなり離れた小さな事務所になるらしい。
唖然とした。
俺「会社はこの赤字部署を切り離したんだ!」
すぐわかった。うすうすそうなる気はしていた。
資本に外資が少し入っていたので、いずれ何かが起こると思っていた。
部長と副部長は肩書に浮かれている。
部員は暗くなっている。
新規事業部だけ電気がついているくらいフロアで。
恐怖感を感じた。
俺は、翌日から社名変更と住所変更の宣伝係として回っていた。
俺「営業も出来ていないのに、何だこの違和感は」
会社の規模が縮小されること、社員数も減ることなど、マイナス要因ばかりでお客さんからはクレームが増えた。
なんなら客が減った。
売り上げも減った。
本当に辛かった。
俺「何の為に毎日営業しているんだ。減らす為に歩いているのか?俺の給料はどこから出ているんだ?」
ついに答えの出ない自問自答スパイラルが始まってしまった。
気付けばもう2月。
一年で最も寒い月だ。
東京では積もらないだろうが、細かい雪が強風で吹いている。
俺の故郷はすでに50cmは積もっているらしい。
凍える様な外気の中、コートを来て手袋をしてマフラーを強く巻く。
取締役と帰宅していたある日、取締役は言った。
取締役「お前には、まず名古屋に行ってもらう。名古屋でお客を最低3件契約して欲しい」
取締役の声の中に神の声が混ざっていた。
神は最後まで企業という器の中で俺をかき混ぜていた。
俺「え?名古屋なんて地域的にも新規の新規じゃ無いですか!」
神は俺を、見知らぬ土地で発酵させる気らしい。
取締役「だから粘って行って欲しいんだよ。滞在費は節約したいから短期で、3件取ったら戻ってこい」
帰ってくるのは3件の新規契約を取った時、ただしいつまでも名古屋に滞在するな、親会社も含めて名古屋に進出したことはない。
心「なんだ、こんな条件は!」
取締役「このお前の出張に従業員の生活と会社の存続をかける」
ポキッ
俺は、もうダメだった。
心の脱臼部分が確実に折れる音がした。
帰宅途中の山手線に乗りながら楽しそうな人々、暖かいマンション光、愛し合う恋人を目にした。
何も感情が沸かなかった。
俺は脳の受け皿から酵母の泡が溢れているのを感じた。
神の声は風よりも速いくせに、理解は誰よりも遅い。
俺の痛みを実験データにしてるだけだ。
俺は、翌日布団から立ち上がる事が出来なくなっていた。

ルシファー:7年の蓄積、心が悲鳴を上げた。そんな俺に彼女は俺を抗菌室へ追いやった
俺は度重なる困難と、蓄積された苦悩の味付けがされ、ついに心が限界を超えてしまった。
動けなかった。
自分の意思は動きたいけれど、体も脳もホルモンも正常ではなかった。
俺は会社を退職した。
自分の能力の無さ、弱さを初めて自覚し、喪失感を味わい確認した。
俺は病院に週1回通いながら、家で寝て過ごす生活をすることになった。
医者「自然にやる気が満ちてくるまで、頑張らずに休んでください。休むのが今の仕事です」
言われた通り俺は毎日寝ては、日光を求め散歩するリハビリと治療を兼ねた生活をする。
大抵は朝起きられずに昼過ぎまで寝てしまい、夜眠れなくなる。
夜眠れなくなると、今までの自分の弱さが襲ってきて眠れなくなる。
夜になると、頭の中で泡が弾けた。
匂いがした。納豆でも汗でもない、“人間が限界を越えた匂い”。
その匂いの中で、神が何かを仕込んでいる気がした。
そんな毎日を過ごしていく中で、同棲している彼女の存在も悩みの種となっていた。
彼女は日によって日勤・夜勤があるのでいる人いない日がある。
休みの曜日のシフトもバラバラだ。
心「怠けて、寝てるだけの人だと思ってるよな」
居心地は正直よくなかった。
特にお互いの給料で支えるわけではなかったけど、虚しかった。
でも、無言というわけでもなく時には彼女は彼女なので楽しく話したり食事には行っていた。
笑ったり、外に出ること自体リハビリにはなっていたし、良い治療だからだ。
最近は中絶して1年以上経過し、彼女も徐々に明るさを取り戻し元気そうだった。
俺もそんな昔の彼女に戻っていっている姿をみて嬉しかった。
心「俺も少しづつ前に進む準備をしよう」
会社を辞めて1ヶ月立った時、自然に前に進む気持ちになってきた。
俺は、家の近くにあるチェーン店の喫茶店でアルバイトすることにした。
大学を卒業してアルバイトをするなんて嫌だなと思ったけど、続かなくて辞めることになったことを考えて正社員で働く勇気がなかったからだ。
週4日で時間は短めでウェイターとして働いていた。
お客さんにも覚えてもらえるし、他店の応援にもいくことも増えてきた。
少しづつ元気の源が暖かくなってきたと感じてきた。
俺「この灯火をゆっくり育てていこう」
やっと再起動が終わり、前に進める気持ちになってきた。
彼女もますます明るく元気になってきている。
俺は朝日を浴びながら喫茶店に向けて歩いていた。
静まり返った早朝のオープニングスタッフ。
入口の掃除をして窓ガラスを軽く拭く。
各テーブルに砂糖や塩の補充が無いか確認をする。
雑念が入ってこない清々しい時間だ。俺は好きだった。
ただこの日は、やけに湿った風が一日中吹いている、そんな日だった。
俺は、仕事を終え、夕方帰宅した。
彼女は当然仕事で家にはいない。
体力がまだ完璧では無い俺は軽食を食べて布団に入った。
俺の布団と彼女の布団は隣り合って敷いているが、彼女の枕の下に携帯電話が置いてあるのに気づいた。
俺「忘れていったのか」
昔の携帯電話の流行りは二つ折りの携帯だった。
液晶画面が内側に入る設計で、液晶とボタン部分が向かい合わせになり収納される。
液晶とボタン部分が守られ、液晶画面が見えないので安全な設計だ。
ところが、この日は携帯を忘れた上に、画面も見える様開いてあったのだ。
しかも、充電中でロックなどない時代、最後に開いていたメールの画面がモロ見えだった。
俺「こういうのは見ちゃいけない、見ちゃいけない、ダメな行為だ」
と思いながら目を背けようとした時、一瞬だけ一文だけ目に入ってしまった。
ものすごく卑猥なない様だった。
俺は、彼氏として、これは見るべきだと思い読んでしまった。
メール「昨日は気持ちよかったね。君の香りがすごく良くて忘れられない。また会いたい…」
俺は悟った。
セブンの夫もこんな感じだったのかな。
もう1年以上、浮気をしている様だった。
相手は彼女と同じ会社の同期。
夜勤の日も愛し合っている様だった。
俺と彼女はただの恋愛関係ではないはずだった。
付き合って7年。同棲して6年。
毎年年末には彼女の実家に泊まり彼女の親や家族と年越し飲み会をしている。
俺の実家にもきて泊まったこともある。
ほとんど内縁の妻だ。
それが、毎日会社で大瀬を重ねるなんて。
俺も人のことは言えない。
でも嫉妬はしてしまう。
今となってはわからないが、中絶は俺の子種なのだろうか?
心「あぁぁぁ。もう何もわからない」
この日、俺は天井を見ながら彼女に抗菌室に閉じ込められた気がした。
家の前には井の頭線が走っている。
踏切の音が俺の雑念を少し紛らわせてくれた。
気付けば3時間ほど俺はボーッとしていた。
カチャカチャ
玄関の鍵が開く音がいた。
扉が開いて彼女が帰ってくる。
いつも通り缶酎ハイを3本買ってきていて、早速台所で1缶開けて飲み始めていた。
俺「携帯電話忘れていってたよ。画面会いてたから見ちゃった」
彼女「それで何?」
彼女が堕天使の様に見えた。
俺「浮気してるよね?」
彼女「別に良いよね。結婚してないし、働いていないあなたより良い男がいるんだから。」
俺「そうだけど、同棲して7年付き合ってた」
彼女「同棲してたのは家賃を折半して良い場所に住むため。最初は好きで付き合ったけど、今は損得勘定だから」
彼女の声の奥に、神の舌打ちが聞こえた。
「働いていないあなたより良い男がいるんだから」
あの瞬間、俺は理解した。
神は女の声で俺を滅菌する。
俺は家を飛び出した。
真っ暗闇の中、大雨が降っていた。
足が滑りながら飛び出し駅前に向かって走った。
心「できるだけ賑やかなところに行きたい!」
俺はアスファルトの道を全力で走りながら、地面に埋まっていく感覚を感じた。
もう、呼吸が出来ない。
もう、生きる希望もない。
この日、俺は雨の凌げるガードしたで一夜を明かした。
翌朝、雨は上がっていた。
明るく朝日がさしていた。
もう俺は悩むことをやめた。
疑問も無くなった。
神は俺を弄んだ。
もう発酵したくても金も手段も希望も目標も住む場所も何もない。
抗菌室でどうやって酵母が生き残るのか?
俺は静まり返った澄んだ空気の早朝の快晴、大きく息を吸って長く吐いた。
肺の奥から清潔になった。
生まれ変わろう。全てから。
何もかも完全に無くそう。
世界が止まった。
音も、泡も、時間も、すべて神の手のひらで固まっていた。
俺は納豆の中で、最後の一粒として呼吸をやめた。
だが、その一粒の中で、まだ小さな泡が一つだけ弾けた。
そう決意して俺は埋まる様に重い体を引きずってアパートに向かった。

神:神のシナリオは俺を無思考の納豆にする事だった。俺は混ぜられ泡と糸だけの粘りの無い納豆になった
だが神は知っていた。
混ぜすぎた納豆ほど、底に残る一粒が次の世界を発酵させることを。
悟ってからの俺は事務的に早かった。
俺は翌日に喫茶店に辞める手続きをした。
その週で終わりだ。
すぐ辞められるのはアルバイトの良い点かも知れない。
家の荷物はもともと少なかった為、すぐまとまった。
そう、俺は故郷に帰ることにした。
一晩で決めた。
いや、都会の砂漠では俺は自生出来なかったのかも知れない。
冷蔵庫や洗濯機やテレビなどは彼女にあげた。
彼女がその後どうやって家賃を払うかも考えていなかった。
荷物が少なかったから引越し業者では無く宅配便で送れた為、あっという間に俺は東京から出る準備が出来た。
荷物も故郷に送り終わって、あとは俺が体一つで新幹線に乗るだけになった。
最後に一度も行っていない東京のシンボルに行きたくなった。
東京タワーだ。
夜の展望台に上り、窓際で東京都の別れをした。
夜景が綺麗だった。
こんな美しい世界で俺は悩み挫けたのか。
タバコを吸いながら、黒ビールを飲みながら哀愁に浸った。
東京は神の胃袋だった。
俺はその中で消化され、やがて一粒の菌になった。
でも、それでいい。
どんな神も、いつか腹を壊す。
東京に負けて帰る、都落ちな俺。
展望台の椅子からお尻が剥がれなかった。
名残惜しさとの葛藤。
まるで尻で納豆を踏んで張り付いているかの様に糸を引いて剥がれない。
夜景の光が、巨大な冷蔵庫の中で静かに点滅していた。
神は、俺を冷却するためにこの塔を造ったのかもしれない。
熱を出しすぎた人間は、いったん冷まされないと次の発酵が始まらない。
区切りの時間になり俺は歩き出し、東京駅に向かった。
感情を殺す様にしながら進んでいった。
新幹線の窓際で窓に映る自分が少し悲しい顔に見えた。
1時間半、俺は新幹線の振動と車内アナウンスを感じ東京から離れていくのを実感した。
そして故郷の駅に着いた。
ホームの空気は東京よりも寒く、澄んでいたが、草木の香りが俺をリセットさせる。
懐かしい駅舎内を歩き、外に出る。
笑顔で迎えにきてくれていた両親が目に映った。
心「ごめん。ありがとう」
俺は泣いていた。
悔しい気持ちと嬉しい気持ち。
もう一度、人生をやり直す。
俺は強い気持ちが湧いてきたのと同時に安心感に満たされた。
ふるさとの景色には神音はしなかった。
だが、風の中にわずかな発酵の匂いがした。
あれは、俺の中にまだ残っている最後の酵母の息だった。
第12話完〜第1章東京篇終焉〜
この物語は、まだ完全には語られていない🌙
Kindleで
「神のデス・ギフト第1章完全版」+「神のプレゼント腐敗51」出版予定
出版進捗は、神のデスギフト外伝で見下せます。
次回予告
神のデス・ギフト新章「故郷都落ち篇」
ふるさとに戻った俺は、気持ちを新たにゼロからの再発酵を始める。
仕事も人間関係も、都会で腐った菌をもう一度育て直すためだ。
ところが、田舎に棲む菌は想像以上に強かった。
湿度も、時間の流れも、価値観の温度差も、すべてが俺を再び発酵させる。
神はまだ諦めていなかった。
あの手この手で、常識を越えた「プレゼント」を次々に送りつけてくる。
受け取り拒否をしても、匂いは逃げない。
俺は問う。
――この闘いはまだ続くのか?
それとも、これこそが「生きる」という発酵なのか。
⭐️新章 故郷都落ち篇 第1話リンクまも無く公開
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