見出し画像

十年目を迎えた森人@The Cube Project Space

台湾大学近くの、夕方になると屋台がひしめく裏通りに、立方計劃空間 The Cube Project Spaceというオルタナティブスペースがある 。キュレーターでライターのエイミー・チェン(鄭慧華)とサウンド・カルチャー研究者ジェフ・ロー(羅悅全)の夫婦がこのスペースを設立して15年。台湾の社会派アートを支えてきた彼らは、ルクセンブルクのCasinoなど、定期的に海外との交流も担ってきた。今年エイミーがシンガポール美術館 (SAM) のシニアキュレーターに就任したことで、活動の規模はますます国際的に広がっている。

このThe Cubeで今開催されているのが、「森人Tree Tree Tree Person」という名のレジデンス・リサーチ・プログラムの成果展。

森人のFacebookページには「人間と自然との新たな共存を、キュレーションによって探ることは出来ないだろうか? 私たちの活動は、そんな思考から始まりました」とある。

コロナ禍を除き、毎年数組の台湾内外のアーティストやリサーチャーが、森人のアレンジのもと、花蓮のタロコにあるスカダン(Skadang/ 大同部落)という集落に滞在して、リサーチやワークショップ、制作を行なってきた。2018年からは、台北市北投区の鳳甲美術館とも協力しつつ、キパタウ(Kipatauw、北投社)でもリサーチ・プログラムを立ち上げている。

このプロジェクトを立ち上げ、引っ張ってきた人物は、チェン・ジェンダオ(陳政道)というアーティスト兼キュレーター。彼は30代半ばでそれまで農業関係の研究をしていた中央研究院(aka アカデミア・セネカ。台湾随一の研究機関として知られる)を辞めて、国立台北芸術大学の大学院に入り直したという異色の経歴を持つ。

十年を経て、森人の問題意識には、新たな要素が加わっている。
「この激烈な変化と、急速な歴史の忘却の時代において、私たちは、どのように『土地』とのつながりを取り戻すことができるのだろうか?」

最初の問題設定であった「自然との関係」が、より具体的な「土地とのつながり」に変わってきているのが興味深い。これは世界の先住民たちが掲げる中心的な問題意識のひとつであるし、 非先住民である私たちにとっても、これからの世界を生きるヒントとなるのではないかと、私は考えている。

立方では通算5回目となる今回の展示には、映像、オーラル・ヒストリー、草木染、紙漉き、インスタレーションなど、様々なタイプの作品があった。

スカダンのあるタロコ(太魯閣)地区は、去年の春に起こった大地震で大きな被害を受け、しばらく避難命令が出ていた。今でも年長者を中心に、帰宅することができていない住民も多い。そんな日常について、台湾の離島ポンフー(澎湖)在住のフランス人サウンド・アーティストヤニック・ドウビー(澎葉生)と詩人でアーティストのツァイ・ワンシュェン(蔡宛璇)が、オーラルヒストリーなどのサウンドと映像による作品《Alang Skadang- 観察ノート part.2》を展示している。

観客はゴザが敷かれた空間にゆっくり腰を下ろして、タブレットの映像を見ながら、ヘッドフォンで、住民たちがロォノ(タロコ語で地震)の経験について話すのを聴くことが出来る。映像は話し手ではなく、この地の風景を映し出す。

オープニングの日。真ん中が私。いつの間にか撮られてた。笑
picture from the Cube FB page

住民たちの言葉によると、地震では、猪やキョン、猿など、多くの動物が落石で死んだのだそうだ。山からずっと車のエンジンのような地鳴りの音がしていたという話はとても生々しく、また彼らがいかに自然や野生動物たちと密着して生活しているのかが、よく伝わってきた。

台に置かれたタブレットに流れる映像を見ながら、ヘッドフォンで話を聴く

台湾系アメリカ人のAmi Lien & Enzo Camacho による《気候帝国主義に抵抗する》は、野草の繊維を集めての紙漉きのワークショップを行っていた。

往年のスクラップブック的な魅力がいっぱいの展示は、彼らのテーマ「植民地主義的略奪経済とは違うやりかたで『土地』について想像しなおすこと」について、上手に親しみやすく伝えていただけでなく、これらの植物からこんな紙が出来るのか!という学びの喜びもあった。(政道に確認したところ、すべての植物ではないらしいが、対応はしているそうだ)

ビャン(余曉冰、Biang/ Candice Jee)の草木染めのワークショップ(右上2番目の写真)と、Amiらによる紙漉きのワークショップ(真ん中上)をまとめた展示。後者は、台北の迪化街で野草茶カフェを開くアーティスト・ユニット Weed Day も協力していたらしい。
手漉きの紙は、全部ではないけれど、
上に置かれた野草の繊維を使って作られている

ビャン(余曉冰、Biang/ Candice Jee)による草木染めの作品《土地は覚えているだろうか?》は、地震後、集落に帰ることができない老人たちのことを思って制作された。スカダンでのホストであるYaya Huwat から伝統的な農作業を学び、草木染の実験によって、山の上の経験や記憶を下界に繋げようとしたのだという。

作品は山の記憶を平野につなげるもので、さらには
消失した台北の基隆河岸のケタガラン族のタロイモ畑に繋がっているとのこと。
機会があればもっと話を聞いてみたい
朝顔、ふし(五倍子)、鉄、硫酸塩を使って染めたと書いてある
picture from the Cube FB page
シエ・ルーアン《葉の裏に》

シエ・ルーアン(謝茹安)の、蝉のトランスフォーメーションに題材を取った映像インスタレーション《葉の裏に》は、なんだか夢みたいな作品だなぁと思っていたら本当に夢についての作品だった。実践と労働、研究を中心とする展示全体の中で、無意識の領域を担当しているような雰囲気がある。

陳姿華(Uselrepe), 黃千珮+陳非易、張瀚 《フィールド・ライティング・プロジェクト》
思考を視覚化する手段として、マインドマップ的方法を採用している

フィールド・ライティング・プロジェクトのメンバーのひとり、ヂャン・ハン(張瀚)がTaipei Times(台湾の英字新聞)で連載しているキパタウについての記事シリーズもとても面白い。

ところで、スカダンはかなり山深い場所にあって、車で行ける最寄りの場所から、歩きで辿り着くのに8時間かかるという。私はまだ行ったことがないので、政道に行きたい行きたいと伝えていると、誘ってくれそうな雰囲気(イェーイ💕)。もしかしたら、春までに一度チャンスがあるかもしれない。

今年は山に行こう行こうと思いつつ、ほぼ平地にいた(よって、トレーニングもせずにスタミナもかなり落ちている)ので、これを機会にまたスローランを再開するしかない!と思ってはいるものの…… 台北の冬の風物詩、しとしとと降り続く雨を眺めているこの頃……。

💎展覧会情報
「森人 裂け目のあいだで布を織る:スカダンとキパタウの土地の物語と記憶」
会期:2025.11.22- 2026.1.11
立方計劃空間 The Cube Project Space

♦️森人のリサーチ・レジデンス・プログラムがちょうど募集を行っている。飛行機代は出ないし、発表の義務はあるが、日本からも参加できる(リサーチ費と生活費でNT$40,000のサポートはある)ので、自然との共生、土地との繋がりに関心のある方(アーティストとは限らない。ちゃんと成果を形にできれば、ライターでも研究者でもいいはず)は応募してみてはどうだろうか。
応募〆切は1月17日。詳細はこちら↓


いいなと思ったら応援しよう!