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馬祖ビエンナーレ 番外編 ① 米谷健+ジュリアさん、ワイルンの動く城

ちょうど1ヶ月前に取材に行った、馬祖ビエンナーレのリポートが、ハーパースバザーのオンライン版で公開されました。

馬祖ビエンナーレは、台湾本島よりも中国福建省に近い五つの島を巡りながら、閩東文化や民間信仰、軍事的最前線だった時代の残痕、島の未来などについて、アートをとおして考える、とてもユニークな展覧会。

私なりに全体を見通したく、書き終えてみたら、かなり盛り盛りになってしまった。これを読んで、今回は無理でも次回、次々回に行ってみようと思われる方が少しでもいたら、嬉しい。

まだまだ書き足りない感はあれど、キリがないので、この番外編では以下の三つのトピックについて2回に分けて補足したい。

番外編① 
1. 米谷健+ジュリアさんの作品についてもう少し。それと国際公募の件をご本人の言葉を含めて
2. 本文で書けなかったワイルンの動く城のこと

番外編②では、会場のひとつ、東引(ドンイン)について補足する。



1. 米谷健+ジュリアさんの作品について

馬祖の特殊な場所のエネルギーの中では、それに負けないくらい強い作品でないと記憶に残らないところがあるなと思っていたのだけど、その中にあって繊細さで異彩を放っていたのが、米谷健+ジュリアさんの作品だった。

真っ暗な中に、吸い込まれそうな形の、ブラックライトで光る定置網のようなもの(この形が、今回の展覧会テーマである馬祖の伝統的定置網の形と、たまたま一致していたというのがまた面白い)。非常にシンプルなだけに、単なる強さとは違う、静謐で深い感動をもたらしてくれるものだった。お会いできるのを楽しみにしていたのだが、残念ながらプレスツアーの時にはすでに帰国されてたので、後からメールでお話を伺った。

Ken+Julia YONETANI《Web of Life》Photo:Julia YONETANI,courtesy of Matsu Biennial

米谷さんたちは、もう10年以上無肥料無農薬の自然栽培でお米などを作られていて、それが作品に反映されている。たとえば、今回の作品の造形も、「微生物のミクロ(海洋微生物である夜光虫も含む)から宇宙のマクロまで絶妙なバランスで繋がるこの世界全体を同時にイメージできるように意識してデザイン」(メールインタビューより)したとのこと。

Ken+Julia YONETANI《Web of Life》Photo:Julia YONETANI, courtesy of Matsu Biennial

ちなみに夜光虫というのは、夏いっぱい、特に4-6月ごろに一番よく見えるという馬祖名物の海洋微生物で、藍眼淚とも呼ばれる。洞窟の中の水中や、波打ち際などで見えるのだけど、ネット上で出回っている青くて美しい写真は、あれは長時間露光なんですよ、実際にはあんなふうには見えません、と、PR会社の人が教えてくれた。また、何か刺激を受けないと発光しないそうで、洞窟に観にいくツアーでは、船のオールなどでバチャバチャ水を叩いて観賞するそうだ。

交通部観光署馬祖国家風景区管理処のサイトより

ところで今回、米谷さんたちの参加のルートが国際公募というところにかなり驚いたのだけど、(200点を超える応募から選ばれた3点のうちの一つということで、ご本人たちも驚かれたらしい)尋ねてみるとお二人は、公募というものに新しい芸術祭の可能性を見出しておられ、時折応募されているとのこと。ただ、毎回通るわけではなく、シンガポール・ビエンナーレのように通ったこともあれば、落ちたこともあるそうだ。

2009年にヴェネツィア・ビエンナーレのオーストラリア代表を務められたお二人が、公募というルートを積極的に使われることは、アカデミックとコマーシャルの二極化が進むアート界に、一石を投じる行為であるように感じて、そう伝えるとこんな答えが返ってきた。

「おっしゃる通り現代美術の二極化が進んでおります。アート界のアカデミックは、アイデンティティ論やアンチ差別を謳う一方で、実際の社会はというと、究極の金融政策で所得格差は広がり、自然環境も崩壊し、戦争は絶えません。疲弊した人々が、そんな社会状況一切忘れ、部屋を彩るポップな絵画、あるいはインスタ映えする煌びやかな作品を求めるのは時代の趨勢なのかもしれません」

全くその通りで、ここ数年、様々な意味で、現代アート界の矛盾や欺瞞が明らかになってきて、辛いなと思うことがよくある。

あと、こうもおっしゃっていた。

「ヴェネチア代表に選出されたことは、時として水戸黄門の印籠のような影響力を持ちますが、だからと言って順風満帆に続々と出展依頼が入り続けるほどこの業界は甘くありません。常に『初心わするべからず』で走り続けることを心がけてます」

そうなんですよね。これが現実だと私も思う。
常に新しいことにチャレンジする体力・気力は、当たり前かもしれないが、大舞台を踏んだアーティストには、より強く求められるし、周りの目も、より厳しくなる。だから若いアーティストが大舞台に選ばれると、舞台そのものの重積というよりは、その後何年も続くそういうプレッシャーが結構大変だろうと思っている。

個人的にも、(若くはないけど) ポスト・ヴェネツィアの決して平坦ではない道を歩むアーティストに併走する身として、身につまされるご意見で、うちも頑張らねばと思ったのだった。

2. 埠頭でキラキラ輝く、ワイルンの動く城

さて、馬祖ビエンナーレのテキストでは、もう一人ちゃんと触れられず残念だったのが朱威龍(チー・ワイルン)のキネティック・インスタレーション。ランドマーク的大型作品の中では、個人的には最も好みだったけれど、展覧会のコンテキストとしては、馬祖のアーティストを外すわけにはいかず。(もちろん、テキストの他の場所に滑り込ませることが出来なかったのは、ひとえに私の能力不足だけれども)

右のおじいちゃんがインタビューに答えていた 撮影筆者

ワイルンの作品のいいなと思うところは、柔らかで一見頼りないけれど、自然の力、光や風を上手に受けとって、反射や動きによって外に渡していくような、エネルギーの巡りが作品中にあるところで、そういう意味では、光の要素によってより広い世界を感じさせる米谷さんたちの上の作品にも通じるものがある。現地制作の期間中、ずっと隣で釣りしていたという地元のおじいちゃんが、瀬戸内海放送のインタビューに答えて「強い風来たらすぐ壊れるやろ」とかクールに言ってたのが笑えた。でも毎日顔を突き合わせるうちに、結構仲良くなっていたらしい。

ワイルンは、マレーシアから台湾の芸大に留学して、卒業後もこちらで活動しているアーティストだ。私が初めて彼の作品を見たのは、屏東での第一回オーストロネシアン・アート・トリエンナーレだった。正直その時は、スケールのある作品ですごいな、くらいしか思わなかったのだけど、2回目の出会いで、すっかりその魅力にハマってしまった。

それは、トリエンナーレのキュレーターでもあったナーカオ・プトゥンが主宰している花蓮港口のマクタアイ生態芸術村に展示されていた、たくさんの石が上からぶら下げられて、クリークの水から出たり入ったり、上下に動くキネティック作品。石が水にぼちゃぼちゃ入る姿が、結構ユニークな知覚を呼び起こすので、強く印象に残ったのだった。機械や人工的なものと自然環境の共存について、自然と考えさせる作品になっている。

ちなみにワイルンの馬祖作品のインスピレーションの元には『ハウルの動く城』があったそうだ。ワイルンの動く城、楽しい。

下の写真は、プレスツアーのトークの後で、文筆家の栖来ひかりさんが撮ってくれたもの。今回のツアーでは、ビエンナーレの1回目からずっと続けてご覧になってるひかりさんに、いろいろな馬祖ミニ知識を聴きながら取材して、すごく勉強になったし、楽しかった。

馬祖には美味しいものもいっぱいあって(紅麹炒飯や黄魚がお気に入り)、また行きたいものだ。そして次回は絶対に東引(ドンイン)に行くぞー!と思っている。それについては、番外編②に続く……。

右からひかりさん、私、ナーカオ、ワイルン。撮影:栖来ひかりさん

💎展覧会情報
第3回馬祖ビエンナーレ(馬祖国際芸術島):「拍楸(パーユー)— あなたの海、わたしの陸(Pha-jiu: Your Sea, My Land)」
2025年9月7日〜11月16日
連江県馬祖列島(南竿、北竿、東莒、西莒、東引の5つの島々)
入場無料(一部事前予約制。会期中には13回のパフォーミング・アーツの公演も予定) 

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