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台湾アートのレジェンドについて

header photo:  Hsieh Tehching’s One Year Performance (from Out of Now catalogue)

数年前、とある日本のキュレーター氏に「台湾で、草間さんとか、村上さんとか、奈良さんとか、そんな立ち位置にあるアーティストって誰ですか?」と聞かれて、返答に困ったことがあった。存命の台湾アーティストに関しては、国家文藝賞という指標もあるものの、国内外での個展歴とか、国際的な美術賞の受賞歴とか、プライマリー/ セカンダリー・マーケットの取引金額とか、作品がどこのコレクションに入っているかとか、報道の多寡や一般の認知度など、いろんな基準があるので、一概には言えず、答えに窮したのだ。

台湾の近代美術なら、陳澄波(ちんとうは/ チェン・チェンボー)や黃土水(こうどすい/ ホァン・トゥシュェイ)などは、有名を越えてほとんど神格化されているように思うけれども、現代アートの場合はどうだろう? 商業的に成功しているアーティストも、世界中を飛び回っているアーティストもいるけれど…… と、しばらく考えたあと、一般市民にはそれほど知られていないかもしれないけれど、この人だけは格が違うというアーティストは、やっぱりたぶんあの人しかいないだろうな、という結論に至った。何しろあのマリーナ・アブラモヴィッチにもマスター=大芸術家と呼ばれているのだから。

それは、パフォーマンス・アーティスト謝德慶(シエ・ドーチン aka Sam Hsieh, 1950-)。70年代から80年代にかけてのニューヨークで1年間、1時間毎にタイムカードを押してポートレート写真を撮ったり、1年間自作の檻の中で過ごしたり、1年間屋外だけで暮らしたり、1年間特に親しい訳ではない女性アーティストと2.5メートルの紐で繋がって生活したり、というような“One Year Performance”と呼ばれる作品群を発表したことで知られる。パフォーマンス・アートに興味がある人なら、誰もが一度はその作品について聞いたことがあるだろうけれども、もしかすると、あまり台湾出身というイメージはないかもしれない。

One Year Performance
《タイムカード》
photo from Out of Now catalogue
当時の作品チラシ。
この微妙な距離で1年間.....強すぎる。
photo from Out of Now catalogue

台湾のアーティストたちと話をすると、シエが世代を超えて非常に厚い尊敬を集めていることがわかる。シエは1999年の《13年プロジェクト》の完成を最後に制作活動を辞めているが、2017年のヴェネツィア・ビエンナーレに台湾館の個展作家として参加し、過去作の記録を展示している。

伝説的な人物だったシエの公的な見直しが進んだのはそれよりもちょっと前、彼が2009年にイギリスの作家でキュレーターのAdrian Heathfield とともにカタログレゾネ『現在の外ーシエ・ドーチン全作品』 (Out of Now: The Lifeworks of Tehching Hsieh)をまとめ、それがMIT Pressから発売されたことに端を発している。繁体中文版は2011年に台北市美と典蔵出版社により合同出版されて、2012年には台湾各地で出版記念トークが開催。誰もが彼の話を聞きたがり、どの会場にも溢れんばかりの観衆が集まった。

私も当時、台北芸大でお話を聴く機会に恵まれた。「レジェンド」としか言いようのない先鋭的な作品の数々について語るご本人の言葉は、非常に穏やかで温かいいっぽうで、時を過ごすこと(時間を浪費すること)と生きることについてのアーティストとしての思考には全くブレがなく。お話はいきいきして楽しく、しっかり堪能させてもらった。あのときどこにも文章を書かなかったことが悔やまれる。

そのシエの回顧展「Tehching Hsieh: Lifeworks 1978–1999」が、去年の10月4日から、ニューヨークのDia Beacon で行われている。一昨年、ご本人からDiaに、主要作品記録の寄贈があったそうで、それを受けての個展で、なんと今後2年間にわたって長期展示されるとのこと。

シエが船で密航したニューヨークで不法移民としてどんな生活をしていたのか(非常に親しかったアイ・ウェイウェイとの関わりとか)、ひとつひとつの作品にどんな背景やエピソードがあるのかについては、今年半ばに今展のスポンサーのひとつ洪建全基金会の協力のもと、台湾で行われる報告会を待って、また詳しく書ければと思っている。

華語が読める方は、典蔵Artouchのこの記事がおすすめ。まるで同窓会のようだったというオープニングの様子はじーんときます。(翻訳機能で読まれても!)

💎展覧会情報
Tehching Hsieh: Lifeworks 1978–1999
会場: Dia Beacon (米国ニューヨーク州)
会期: 2025/10/05- (2年間の予定)
助成: 台湾文化部 (黑潮プロジェクト)、洪建全基金会、ヤゲオ財団、文心基金会。

26/04/30 追記
台湾の公共テレビが制作した謝についての番組が5日前にリリースされたので、シェアします。来週C-LABでオープンする展覧会 We Are Becoming にも出ることになっていて、レクチャーも予定されているのだけど、秒殺で席が完売。私はちょうど不在なので行けずに残念🥲


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