宇宙のスケッチ:豪華朗機工(ラグジュアリー・ロジコ)結成15周年展
新年あけましておめでとうございます。2026年最初のnoteは、台北で現在開催中の展覧会についてです。
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40代男子4人(→3人)のアート・グループ、豪華朗機工(ラグジュアリー・ロジコ)の展覧会が、台北当代芸術館で行われている。
デビューから15年を迎える彼らは、台湾各地の芸術祭や、ユニバーシアード開会式の聖火台装置、パブリックアート、領域横断的な様々な活動で知られている。日本でも越後妻有や奥能登芸術祭で展示したことがあって、今年万博に合わせて大阪で開催されたWe Taiwanのキュレーションも統括していたから、ご存知の方もいるだろう。つい先日お会いした日本の方も、大ファン、まじ天才!とおっしゃっていた(👍✨✨)。
豪華朗機工のメンバーとこれまで
メンバー4人の内訳はリン・クンイン(林昆穎)と、チェン・イー(陳乂)(旧名チェン・ヅージェン(陳志建))、双子の兄弟のヂャン・ゲンハオ(張耿豪)とゲンホァ(耿華)。個人的なことになるけれど、そのうち3人が夫の教えている台北芸大ニューメディアアート修士課程の卒業生だったり、仕事場が近い時期もあったりで、ずっと親しみを感じてきた。
クンインは、2020年の台北ニュイ・ブランシュやクリエイティブ・エキスポ(2021年)の企画などキュレーターとしても知られている。また、元々音楽を学んでいたので、台湾出身のアーティストとして初めてドクメンタに参加したゼン・ユーチン(曾御欽)による2003年のビデオ作品《聞こえた人いるかな?(有誰聽見了?)》の穏やかで気持ちよいサウンドを担当したのも、多才な彼だった。
音楽といえば、2000年代半ばに、「腦天氣」っていう実験音楽と映像のイヴェントでライブをしていたうっすらとした記憶もある。確かその頃は、クンインとチェン・イーがもう一人別のメンバーと一緒に「朗機工」として活動してて、ゲンハオ(豪)とゲンホァ(華)が入って、もう一人の彼が脱退して、初めて「豪華朗機工」になったのだ。なんかロックバンドみたいだな。
「宇宙の写生」というテーマのもと集められた過去作の数々
さて、この結成15周年展のタイトルは「宇宙の写生 Cosmic Sketches」。私は彼らの作品は、「人間と自然と文化とテクノロジーの交差点」を探ってきたと思っていて、そんな彼らにぴったりのよきタイトルだと思う。過去作品を再制作したものを中心に構成されていて、それぞれのソロ作品もまた再制作して組み入れられていたりした。
ソロ作品の再制作では、例えば、クンインが2013年に ITパークでの個展で発表した、絵画の中で光や陰が動くように見えるビデオ作品(わかるかな?キャンバスに描かれた絵に見えるけど、実はプロジェクションされた映像ということ)が展覧会のはじめの方に出ていて、やっぱりとても好きだった。あの静謐さ、スタイリッシュさ、どこか飄々としたデタッチメント(だけど愛がないわけではない)は、彼らの作品の方向性を基礎づけている気がする。

また、《風場 II》(2021-2025)は、チェン・イーが2年前に台北市の忠泰美術館(JUT Art Museum)のグループ展に出していたバージョンを見たことがあって、当時非常に感動した。天井から吊られた長細いライトが、強風にあおられて揺れているように見えるのだが、実際の展示室内にはもちろん風など吹いておらず、硬い構造体で支えられたライトの動きは全部コンピューターで細かくコントロールされていたからだ。しかしそんな人工感は全くなく、非常に気持ちの良い、自然な風の動きがそこにはあった。あの動きの調整だけでかなり時間がかかったと言っていたと思う。今回は吊るのではなく下から生えていて、展示室が明るくなる時にはカラクリが見えすぎるほど見えるので、正直そこまで暴露しなくてもいいかも?とも思ったが、自然な動きは相変わらず徹底していた。

音で伝えるメッセージ
私がこの展覧会で個人的に一番好きだったのは、一階に展示されている《雨霾II (Rain Haze II)》という、海洋ゴミが上から吊られた作品。ゲンハオとゲンホァが2006年に台北当代芸術館で発表した《啄木鳥》という作品に遡ることができるらしい。

展示室の外から見たところ。中にも通路があって歩ける
以前、ある台湾人アーティストの友達が「台湾の雨は、トタン屋根に当たる音がうるさいから嫌い」と言っていたが、確かに台湾の都市部で雨が降ると、雨が人工物に当たる音がずっと聞こえている。この作品は、海の表面という全きの自然であるはずの場所に、浮かんでゆらゆら動く海洋ゴミに雨が当たる音がずっとしていて、この海洋ゴミという現象が私たちの都市の日常と深く結びついていることが、直感的にわかるような作品になっている。
ちなみにガイドブックには、今回のバージョンは、金瓜石での黄金盛典芸術祭で発表していた《再訪の再現(重返再現)》と2017年に中国の銀川当代美術館で発表した作品を融合させたものとあった。銀川の作品写真はガイドブックに載っているけれど未見なので、ここでは金瓜石の作品について触れたい。

岩棚に置かれたたくさんのメタリックな装置、見えますか?
金瓜石(私の過去noteの奈良さんの展覧会が行われていたエリア)は日本時代に遡る鉱山と銅の精錬場だったとても特殊な場所。彼らの作品《再訪の再現》は、鉱山の労働者が当時聴いていた音を再現していて、とても良かった。
この場所が鉱山の発掘場として使われていた当時は、現場監督の怒号や、鉱夫たちの荒い息遣いなども響いていたかもしれないと想像しつつ、太陽光でランダムに動くこのキネティック・サウンド・インスタレーションは、あくまで優しく爽やかに、幻想的な音を響かせていた。
音を聴いてもらいたいので、彼らのインスタから、動画を貼っておく↓
展示は今も見ることができる。場所は、本山鉱場というところで、黄金博物館から30分ほどで歩いていける。ただし、登山道ではあるので、それなりの体力は必要かもしれない。ちなみにこのインスタの動画では作品を間近で撮しているが、実際の観賞時には下の野外劇場的な谷間(台湾の太鼓パフォーマンスグループ優人神鼓が以前舞台として使っていたことがあり、石を並べた客席がある)でサウンドを聴くことができるのみなので、登らないようにご注意。危ないらしい。
晴れていたら音が聴けるはずなので、行ける方は、ぜひ行ってみて欲しい。
いくつかの代表作〜大型新作

彼らの代表作、中古の街灯や家庭用のランプなどを集めて円形にしたインスタレーション「日光域」シリーズは、これまで台湾各地で展示してきているけれど、今回とうとう素材が、中古タブレットに様変わりしていた。そうだよね、そうなるよね、とは思いつつ、ちょっと寂しい。(それでも素敵は素敵だったです、念のため)
それから、ミュージシャンの魏如萱(akaワーワー/娃娃 )らと共同制作した、音楽や言葉に合わせて動くワイヤーで吊るされたあかりが、展示室の中央に置かれたミニチュア建築的オブジェの局所局所を照らす、《難しい、難しい(很難很難 Hard, Hard)》というイマーシヴ・インスタレーション。

下には4辺にそれぞれ住居、伝統的な竈門の付いた台所、バスの待合室などがある

もとは、2019年にこの美術館のグループ展の一部として、同じ展示室で発表された作品なのだけど、久しぶりに見てやっぱりとても良かった。ポップミュージックのインパクトが強いし(私はワーワーのリスナーではないのだけど、台湾の人たちにとっては、馴染みのある声であるはずだ)、台湾の日常風景への愛と、人生の記憶とが、とてもロマンチックに、そしてセンチメンタルに表現されている。横に置かれた、台湾の公立の学校で使われる木の椅子には、「中洲旅社」と書かれた木賃宿の看板が取り付けられていて、人生って束の間の旅だよね感が押し寄せてくる。
2階の一番大きな展示室では、三つの新作インスタレーションが区切りなしに展示されていて、併せてひとつの作品にも見えるような不思議な空間を作り出していた。

右手の浅いトレイには水が入っている
流木が森のように立てられていて、奥の方には大きなロボットの手があって動いており、他にもところどころ動くものがある。観客は展示室のあちこちで、思い思いに運動座りやあぐらをかいて座っていて、この空間で起きていることをじっくり眺めたり、セルフィーを撮ったりしていた。アート作品を見ているというよりは、ハイキングに来て山の景色を見ているような雰囲気があった。
確かにあれは正しい観賞方法なのかもしれない。頭を使うというよりは、どちらかというと、感覚をできるだけ解き放って、いろんな出来事を受け止めつつ、全体の風景を堪能するような。テクノロジーもあるし、自然もあって、細やかさと過剰さが同居しており、私たちがいま生きている世界がそのまんま、不思議な方法で再現されていた。
「ケア」について+亡きメンバーへの思い
ところで、展覧会中盤では、「ケア」に関する作品(「ケア・プロジェクト(照顧計畫)」)も登場するし、メンバーが「ケア」について語るビデオもあって、彼らの活動の中心にあるものとして「ケア」が掲げられているようで、どうしてかなぁと考えていた。(「宇宙のスケッチ」的コンセプトとは少しズレるように思うので)
やはり思い当たるのは、2018年にメンバーの一人で双子のひとり、ゲンハオが若くして亡くなったことだ。私自身とてもショックだったが、実は葬儀の日は用事があって、出られなかった。今回の展示では、「ケア」を掲げることで、遺された3人が改めてゲンハオの死について向き合っていることが伝わってきて、私にとっても良い区切りになった。例えば、上記のイマーシヴ・インスタレーション《很難很難 Hard, Hard》はちょうどゲンハオが亡くなった翌年に作られたもので、その数年前にゲンホァの、同年にワーワーの子どもが生まれたとのこと。ワーワーは、ほとんど同じ時期に父親や友人、犬を続けて失っている。新しい生命を迎え、そして去り行く近しい人を見送るというテーマが、あの作品の特別な雰囲気を作り出していたのだなとわかる。
これもまた個人的なことになるけれど、この作品を見ているうちに、私は、夫ユェン・グァンミンの《消えゆく風景−通過II》がちょうど、義父の逝去と私たちの娘の誕生という同じような状況のもとで制作した作品だったことを思い出した。あの作品の、私たちの何気ない日常の一コマを、目に見えない何者かが訪れるようなカメラワークと、この《很難很難》の中で動く小さなあかりは、とてもよく似ている。それは祝福でもあり、愛でもあるような気がする。
展覧会の最後、一階に降りる踊り場の壁にスライドで投影されていたのは、ゲンハオによるスケッチの数々。とても味があって、じーんとしてしまった。

とても魅力的な絵だと思う


そういえば、MoCAが、Facebookで、それぞれのメンバーに、この展覧会で好きな作品を二択で選ばせるという企画動画を出していて、彼ら(特にゲンホァ)が結構何度も《在屾》を選んでいるのが興味深かった。《在屾》は、もともと2018年の台東での芸術祭で、台風通過後の廃材を使って海岸で作ったインスタレーションなのだけど、いくらでも高度なテクノロジーを使えてしまう彼らが選ぶのが、こんなシンプルな作品というところが面白い。ゲンホァなんて最も機械的なところを担当しているようなメンバーなのにね。あの作品が一番、自分たちの核となる精神を表しているということなのだろう。
あと10日ほどで終わってしまうけれど、年末年始に台湾に遊びに来られるアート好きの方は、台北ビエンナーレだけでなく、こちらもぜひ見ていってください。このnoteが観賞のお手伝いになっていれば嬉しい。スキの数でアクセス数が増えるようなので、よかったらポチッとお願いします🙏
💎展覧会情報
豪華朗機工(ラグジュアリー・ロジコ): 宇宙のスケッチ
2025/10/04- 2026/01/11
台北当代芸術館(MoCA, Taipei)
♦️2026年4月に台中のオペラハウスで予定されている彼らの劇場版「機械詩」《最後の質問》も気になる。詳細はこちら↓
