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「ガヤ」を探る 花蓮の現代アート展(前編)

前回から随分空いてしまった。日本は師走で大忙しの時期ですが、皆さんお元気ですか?

台湾東部の花蓮で11月に見てきた展覧会がとてもよかったので、3回に分けてレポートします。

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長年台湾の現代アートを観察してきて、ここ数年非常に嬉しく思っているのが、台湾原住民アーティストによる素晴らしい作品が次々に生まれていることだ。彫刻、テキスタイル、インスタレーション、パフォーマンス、映像……  様々なかたちを取りつつ、原住民としての自分や、自分が属するコミュニティが、過去から現在まで直面してきたさまざまな問題について探究している。そんな彼らの探究に、現代アートという形式は、とても合っていると私は思う。

この流れは世界のあちこちで進行中で、去年のヴェネツィア・ビエンナーレでも、金獅子賞を受賞したマタアホ・コレクティブやオーストラリア館をはじめ、アメリカ館や、メイン展示など、先住民のアイデンティティを持つ現代アーティストによる作品が大いに注目を集めていた。

ちなみにいつも書いているが、台湾原住民のことは先住民とは呼ばないのが正式なので、ここでもそれを尊重する。

台湾原住民による現代アートと出会う

台湾では1980年代末から1990年代にかけて、原住民アーティストによる現代的表現が登場したと言われている。特に注目が集まるようになったのは2010年代以降で、2012年に創設されたPulima芸術賞や、高雄市立美術館の大南方(South Plus) (2016~) 、屏東にある原住民族文化園区でのオーストロネシアン・アート・トリエンナーレなどの公的な展示をはじめ、様々な動きがある。

私も近年は執筆を再開したのを機に、出来るだけ原住民アーティストによる展示を見て回るようにしている。私が彼らのアートに惹かれる理由は、現代アートの既存の概念を揺さぶり、色々な議題を横断する作品が多いというのがひとつ。人間自身を含む自然との関わりについて深く考えさせる作品が多くて、インスピレーションに満ちているというのがひとつ。それから、最後はちょっとシリアスな理由になるのだけれど、私は自分のことを、台湾への移住者であると同時に、19世紀末から東アジアに版図を広げる中で、多くの人々の犠牲の上に繁栄を築いた帝国の子孫で、私の恵まれた生い立ちは誰かの涙と苦労と引き換えに得られたものだ、と考えていて、彼らの作品をとおして「真実」を知ることは、「和解」の基礎を作るための大事な作業のひとつだと思うからだ。

こういう考え方に至るには、恥ずかしながらずいぶんかかった。でも、特に立派なことを言ってるつもりもない。単にこれまで台湾で(原住民であるにせよそうでないにせよ)たくさんの素敵な友人たちや、素晴らしい作品に出会って教えられ、遅ればせながらやっと「彼らの靴を履いてみる」ことが出来たことで、ようやく客観的に見ることができるようになったのだと思う。ほんとにありがたい限りだし、長くかかって申し訳ないとも思う。

ドンドン・ホーウェンと兒路創作藝術工寮 Elug Art Corner

前振りが長くなったけれど、花蓮美術館で、10/18から11/30まで、タロコ族のアーティストドンドン・ホーウェン(東冬侯溫)キュレーションによる展覧会『ガヤ 現代転生術(Gaya 當代轉生術)Transmigrating in the Contemporary』が開催されていた。

1985年生まれのドンドンは、去年『美術手帖』4月号の「世界のアーティスト2024」にも選ばれている。彼/彼女はアーティストであると同時にシャーマンでもあり、故郷の銅門村で兒路創作藝術工寮(Elug Art Cornerを主宰するコミュニティ・リーダーでもある。

兒路は、著名アーティストのシューリー・チェン(鄭淑麗)を監督に迎え、2020年から時間をかけて、テクノロジーとタロコ族の生命観「ガヤ」 (Gaya / 詳しくは後述) を組み合わせた舞台作品《遊林驚夢:巧遇Hagay(遊林驚夢:思いがけないハガイとの出逢い)》(Hagay Dreaming)を育ててきた。この作品は今年3月にロンドンの現代美術館テートモダンでプレミア上演を迎え、台湾では来年5月に、台北パフォーミングアーツセンターでの上演が予定されている。

花蓮美術館に展示を見に行った11/15の午後は、ちょうど、シューリーがモデレーターを務める座談会があり、日本からは十和田市現代美術館館長の四方幸子さんがパネリストとして参加されていた。

ちなみに夜には会場が花蓮市内から30分ほど山の方へ入った銅門村に移り、舞台作品の上演や、ドンドンによる夢読みのワークショップ(気になる!)が夜中まであって、翌日は朝から午後までのガヤ生活体験(ワークショップや徒歩でのガイドツアーなど盛りだくさんのプログラム)、夜にはライブコンサートも予定されていたのだけど、翌々日に〆切を抱えていた私は、めちゃくちゃ後ろ髪引かれながら、とぼとぼ台北へ帰ったのだった。

ドンドンによるプロジェクトの説明
四方さんのトーク。オードリー・タンとの会話

「ガヤ」ってなんだろう?

展覧会は、前述の「ガヤ」を軸に企画されている。この「ガヤ」について、展覧会のガイドブックにはこう記述されている。

その昔、「ガヤ」は、タロコ族の人々にとって、暮らしや人生の実践の方法であった。人々は一生を通じて、ガヤの規範と運用の中で生き、ガヤは文字や近代学問システムのない古典的世界で、水のように流れ、風のように形なく作用した。これは今でもシャーマンや、織り手、狩人の儀式や精神の中に息づいている。しかし、科学や近代的知識によって組み換えられた世界で、「ガヤ」は言語や記号の中で宙吊りとなり、謎に満ちたものになってしまった。(中略)「ガヤ」は現代に生きる人々の暮らしやその世界と対話を進めることができるだろうか?できるとしたらそれはどこにあるのか?できないとしたら、一体なぜか?ここで言う「転生」は、その存在が復活することを意味しない。「ガヤ」は燃え尽きてしまったわけではないとはいえ、必ずしも、ありとあらゆる生命に応用可能な永続的な公式ではないのかもしれない。「ガヤ」はそれよりも、無限の流動に近い。

「ガヤ:現代転生術」のキュレトリアル・ステートメントより(主に中文から筆者が和訳)

兒路はこの「ガヤ」をテーマに2023年から3年計画のアートプロジェクトを段階的に始めている。今回の展示と銅門村でのイベントは、そのうちの一段階とのことで、展覧会では13人の参加作家それぞれが、「ガヤ」と深いところで繋がる作品を発表していた。

中編、後編に続く……

💎展覧会情報
Gaya 当代転生術 Transmigrating in the Contemporary
会期:2025/10/18- 11/30
会場:花蓮美術館


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