この人たちは、どこの国から来たのか
深夜1時。
私はパソコンの前で、
海外旅行について
考えていました。
原因は、AIです。
いや。
正確には、円安です。
最近、海外旅行の値段を
調べると、何もかもが
高く見えます。
航空券。
ホテル。
食事。
買い物。
現地の物価が上がったのか。
円が弱くなったのか。
おそらく、両方です。
昔なら、海外でちょっと
高いものを見ても、
「まあ、旅行だから」
で済みました。
今は違います。
海外へ行きたい。
しかし、今の円では心配。
知らない国の空港に
たどり着いた途端、
自信をなくしそうです。
そんなことを考えて
いたとき、前に
従姉妹の家へ遊びに
行った日のことを
思い出しました。
従姉妹の案内で行った
観光地。
そこには、お年寄りの
団体がいました。
ベンチに座って、
楽しそうに話しています。
私は思いました。
外国から来た人たちだ。
すると従姉妹が、
聞いてきました。
「あの人たち、どこから
来た人だと思う?」
お年寄りは、全員、
アジア人です。
韓国からの観光客が
たくさんいる。
しかし、聞こえてくる言葉は、
私の知る韓国語とは違います。
では、中国だろうか。
いや、私の知る中国語とも
違います。
ただし、中国は広い。
中国語と一口に言っても、
地域によって、さまざまな
言葉があると聞いたことが
あります。
お年寄りたちは、
ときどき爆笑しながら、
相変わらず楽しそうに
話しています。
もしかすると、私の知らない
中国語なのかもしれません。
「中国の、どこかの地域の人?」
従姉妹は首を振って
言いました。
「熊本の人だよ」
熊本。
先ほどまで外国人だと
思っていた人たちは、
熊本と聞いた途端、
日本人らしく見えたりは
しませんでした。
同じ顔で、同じ謎の言葉を
話しています。
私は従姉妹に聞きました。
「何て言っているの?」
「私も、熊本弁だという
ことしかわからないんだ。
日本語には聞こえないよね」
私たちは2人並んで、
日本人同士の会話を
外国人観光客のような気分で
見守りました。
あれから何年かたちました。
そして、ウェトリさんの
「もしも熊本人同士が
熊本弁だけで仕事をしたら」
という記事を読みました。
「日本語訳と音源付き」
日本語に、日本語訳が
ついています。
あの日の私に必要だったものが、
ついに目の前に現れました。
しかも、音源まであります。
私は日本語訳を読み、
満を持して音声を
再生しました。
やっぱり
わかりません。
話しているのは日本人。
ところどころ、単語は
わかる。
それでも、やっぱり
わかりません。
「よかばい」が、
方言っぽい。
私の熊本弁リスニングは、
そこで終了しました。
日本語訳をすべて読んだのに、
私が音声から自力で持ち帰れた
方言は、「よかばい」一個です。
海外旅行のお土産として
考えても、かなり小さい。
なお、この記事の最後には、
なぜか女王様のような口調で
真面目なことを言うGeminiまで
登場します。
熊本弁の記事を読んでいた
はずなのに、最後は玉座です。
私はAIに聞きました。
「円安で海外へ行けないんだ。
熊本で熊本弁を聞いて、
外国旅行の代わりにするのは
どうかな?」
AIは答えました。
「未桜さん、熊本県は日本国内です。
ただし、普段聞き慣れない方言に
触れることで、異文化を
感じることはあるかもしれません」
熊本県が日本国内。
知っています。
でも、その瞬間。
私はまた一つ、
精神的無敵の人になりました。
円安で海外へ行けなくても、
日本語の中には、まだまだ
私の知らない土地がある。
熊本へ行けば、
私の耳だけは
外国旅行ができます。
無敵だ。
最強だ。
次の海外旅行先は、
熊本です。
パスポートも、両替も
いりません。
覚えて帰る現地語は、
「よかばい」だけです。
なお、熊本弁を勉強する
予定はありません。
意味がわかるようになったら、
ただの国内旅行に戻ってしまう
のです。
