アンガーマネジメントはお互いのために
6月6日がアンガーマネジメントの日と聞いた。
それでおもいだした、かなり昔の話。
とある展覧会のために、パンフレットに載せるための文章を翻訳した。
納品してしばらくしてから先方から電話があった。
「機械翻訳みたいな文章ですね」
ここでは良くない意味で「機械翻訳」と言っていて、いまだったら「AIみたいな」といった表現になっているかもしれない。
(AIの性能が上がっているので、かならずしも悪口には聞こえないかもしれないが)
電話口の相手が、ほんとうは怒っているけれどなんとか落ち着いて話そうとしている感じが伝わってくる。
アンガーマネジメントという言葉はまだ一般的ではなかったけれど、こちらにも気をつかってか、それを実践してくれているように感じた。
(私は小心者なのでとてもありがたい)
ベストを尽くして納品したけれど、先方の期待に添えなかったのは仕方がない。
こちらが確認できていなかった、特別なこだわりがあったのかもしれない。
胃が痛いけれど、まずは申し訳ないと伝えたうえで、状況確認。
相手はなんとか冷静に声を絞りだす。
「たとえば、ひとつの文章でおなじ名前が何度も繰り返されていたり、『てにをは』が不自然で日本語の文章になっていないし……」
「あれ?」
手元の文章で確認しても、そのような箇所はないようだ。
たびたびで申し訳ないのだけれど、なるべく相手を刺激しないように気をつけつつ、あらためて確認をした。
相手のアンガーマネジメントもギリギリで、いまにも爆発しそうだ。
「だから……最初の文章でも、なんどもなんども繰り返されているでしょう。
ほら、〇〇が何回も、ダミーテキストみたいな感じで……ん……ダミーテキスト?」
……しばしの間(相手は受話器の向こうで誰かと話をしている)……
そして、この永遠の一瞬のあと
「……大変失礼しました。
こちらが間違って、レイアウト確認用に流しこんだダミーテキストのほうを見ていました」
本来の納品物をあらためて確認してもらったら、こちらに問題はなかったということで、よかった。
状況が確認できて安心して、ふたりで受話器越しに笑いあった。
安堵。
そしておそらく、アンガーマネジメントを実践していた相手は、私以上に安堵したことだと想像する。
勘違いで怒鳴っていたら、あとで恥ずかしくて仕方がなくて、笑いあったりしづらかっただろうから。
感情豊かなこととおなじく、冷静に判断してつたえることも大切だ。
それ以来、もしなにかで腹がたつようなことがあっても、自分の勘違いや見落としがないかなと慎重に確認してから腹をたてるようにしている。
アンガーマネジメントに必要とされる6秒くらいはゆうにすぎてしまっている。
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