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“片親阻害”と、娘を抱き締めた人

ある小論文の選考に通り、
娘のたえこが研修旅行に出発した。
諸般の事情で、期日が冬休みに延期になり
ようやく実現したもの。

幼馴染の友達宅に泊まることはよくあるが、
全く知らない子達とのホームステイ。
共同でレポート作成、発表もある。

事前研修や空港で、同じグループの子のお母さんが話しかけてくださって
親も緊張しますねと言い合った。

一人帰宅してから、元夫のことが浮かんだ。

娘が所属するクラブチームの練習に、彼はちょくちょく足を運ぶ。
娘はチーム練、大事な試合を休んでのホームステイ。
不在を何と説明するか。

彼は、“父子の時間を奪われる”“片親阻害”とかいう理由で、
娘の習い事には強固に反対して来た。
スポーツのワークショップへの参加すら反対だった。
小学校低学年時には、ワークショップに参加するなら
私や主催者を訴えます、と
私は彼に恫喝されたことがある。
まだ離婚は成立していなかった。
共同親権者である自分を阻害することは容認できない、との主張。
不満をぶつける先が見当違いも甚だしいが、
もし巻き込まれたら、
主催者も何のことかと驚いただろう。

幼かった娘もこれに懲り、クラブチーム加入については私と娘は数年間、彼に伏せていた。
その中
友達のお父さんが子どもの上達を喜び、
グータッチで讃える姿は、娘には堪えたようだ。

本当は、他所のお父さんみたいに応援して欲しい。
でも訴えるとか言うから、やっぱり来て欲しくない

娘はそう呟き、父親を悪様に言うしかなかった。

離婚が成立、私が親権者として確定してから、
娘はようやく、父親に、習い事について話したのだった。

その後、彼はクラブの運営に口を出し始め
(お金は、出さずに)
要求が通らないと訴訟をちらつかせた。
娘も私もチームに居づらくなり、
OBに退団を勧められた事もあった。
お父さんのせいで私の居場所がなくなるんだけど!?
娘はそう抗議したこともある。

今ではすっかり父親の応援など要らないと言う。
また来てる、何の用?
小さくそう吐き捨てる娘の心情を、
彼は理解しようとしない。

ただ変な誤魔化しは嫌だ。
研修旅行について、いずれはお父さんに話したい、娘は言っていた。
なんかタイミング見て、と。
彼の生まれ故郷に近い場所だから。
驚かせたかったらしい。
まだそんな暖かな気持ち、期待を持っている。

娘には、打ち明けるのが私になり悪いと思いながら、
私は彼にLINEで説明をした。
習い事を休む事、娘の行き先、研修旅行について記載されているサイトのリンクも送った。

案の定、彼は私を責めた。
研修内容を見ると、自然体験は自分が娘にしてやれる事だが、なぜわざわざ行かせるのか、
なぜ秘匿していたのか、と。
また、法的に抗議するぞと脅しながら。

拘るところは、そこなのか。

娘は
よく選ばれたね!
すごいな。
たくさん見ておいで。
たくさん話聞かせてね。
父親に、そう言って欲しいのじゃないか。
違うかな。

選考に出した小論文を、ぜひ見せてと言い
娘を“私達の誇り”と喜んでくれたのは、
父親ではなく、保育園の恩師だった。

娘の父親の斜め上の抗議に、私は返信しなかった。
またか。ばーか、そう思った。
まだ無邪気な時代の娘を散々苦しめた自身の行動は棚上げで、
主語はまた、彼自身だけ。

これ以上の説明も反論も、するつもりはない。
ある種の相手には、
言葉を尽くしても時間の無駄なのだ。
それを何度も味わった。
娘が希望した、だから挑戦を応援した。
それだけ。


文字通り、あっという間に研修は終わった。
飛行機は雪で遅延したが、欠航にならず安堵し、
私は到着ゲートで娘を待った。
娘のブーツを手に持って。

そう言えばと周りを見たが、彼は来ていない。
良かった。
また、片親阻害だとか、彼以外にはよく分からない事を主催者相手に騒がれては
娘にはさらに気の毒だから。

長い移動で寝起きそのもの。
娘は不機嫌そうに現れ、ちらっと私を見て
ほんの少し口元が緩んだ。
男子達の方が、素直にニコニコしている。

たえちゃんお帰り!
ゲートを出て来た娘に声を掛けると
小さく頷いた。
緊張しただろうか、
何を見て来ただろうか。
リュックが重たそう。

その横で、同じグループの女の子をご両親が迎えた。
お父さんが、娘さんをぎゅっと抱きしめた。
愛おしそうに。
私はハッとなった。

娘は、先程のようにムッツリとした顔で
(抱きしめられた子も、照れたのかムッツリしていたが)、解散式の列に並んだ。

ああ、残酷だ。
幼い頃に何度か娘は言った。
普通のお父さんがよかった。
精神疾患じゃないお父さん。
◯(幼馴染)んちみたいなお父さんがよかった。

娘はもう言わないだろう。
甘えたくても、甘えられない。
言ったって、叶わなかった。

仲良くなったらしい友達とはあっさり別れ、
ね、お腹空いた!空港でご飯食べたい!
娘は大声で言った。

二人きりになると、
次から次へと短い旅の話は止まらなかった。

キャリーケースに入れたお土産を、今すぐ見せたいとはしゃぐ。
毎晩夜更かしして、ホームステイの家が近い同士で行き来したこと、
(雪国では考えられない、楽しそう!)
でも娘達は注意を受けるような事はギリギリなかったこと。
(ほんとかな…)
ステイ先の方とすっかり仲良くなったこと。
伝統芸能について。

外は吹雪いて、キャリーを開けたら雪で濡れちゃうよ、と止めると、
手荷物からあれこれ出して私に見せ始めた。

野草に包まれた懐かしいお餅、
現地のめちゃめちゃイケメンの方が描いてくださった似顔絵、
仲良くなった子がくれたボンドロシール、
ジップロックには、様々な種類の野草。
研修で、皆で採取してきたそう。

運転してるから、お食事しながら見せて、
吹雪いてるから、道ツルツルだから、ちょっと集中させて!
言いながら嬉しかった。

スープカレーの店で、帰り道、帰宅後も
娘の話は終わらず、
私はただ嬉しかった。
これだけでいい。




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