貯蓄は過去最高でも安心できる人と不安が増す人がいる理由 ~ 就業状態と収入階層から読み解く2025年の家計

家計の貯蓄が過去最高といわれる一方で、増える世帯と減る世帯の差が広がっているように感じます。暮らしの実感がここまで分かれるのは、どのような背景があるのでしょうか。


1 2025年の家計貯蓄は過去最高に到達
総務省の家計調査(貯蓄・負債編)によれば、2025年の二人以上世帯の1世帯当たり貯蓄現在高は2059万円となりました。前年から3.8%増加しています。比較可能な2002年以降で初めて2,000万円を超え、7年連続の増加という力強い伸びです。
中央値も1,264万円と前年から増加しており、家計全体としては「貯蓄が増えている」という印象が強まります。しかし、平均値を下回る世帯は約3分の2にのぼり、貯蓄の分布には大きなばらつきがあります。
この「平均は増えているが、実感は人によって大きく異なる」という状況こそ、2025年の家計を読み解くうえで重要なポイントです。
※総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2025年(令和7年)平均結果-(二人以上の世帯)」

2 貯蓄の内訳は大きく変化 ~ 普通預金と有価証券が増加して定期預金は減少
家計調査の内訳をみると、2025年の貯蓄構成はつぎのとおりです。
通貨性預貯金(普通預金など) : 710万円
定期性預貯金(定期預金など) : 511万円
有価証券(株式・投資信託など) : 440万円
生命保険等 : 369万円
ここから読み取れるポイントはつぎの3つです。
①普通預金は17年連続の増加
低金利が長期化するなかで定期預金に預けるメリットが乏しくなっています。日常の資金管理や急な支出に備えるための「使える貯蓄」が重視されています。
②定期預金は減少傾向
物価上昇が続くなかで実質的な利回りが低下し、家計は資産構成を見直しつつあります。
③有価証券が増加
株式や投資信託などの有価証券は増加傾向にあり、家計が「資産形成」を意識して投資を取り入れる動きが広がっています。NISA拡充も追い風です。
家計は「定期預金中心」から「普通預金 + 投資」へと構成を変えつつあるのです。

3 就業状態による違い ~ 勤労者世帯は貯蓄増、高齢無職世帯は減少
まず、家計調査が示す「就業状態による違い」を整理します。
【勤労者世帯】貯蓄は増加基調
勤労者世帯の貯蓄現在高は1,717万円で前年から8.7%増加しました。
賃金の上昇、ボーナスの回復、投資の活用などが背景にあり、家計全体の貯蓄増加を牽引しています。
【高齢無職世帯】貯蓄は減少
一方、世帯主が65歳以上の無職世帯では、貯蓄現在高が2,494万円と前年から2.6%減少しました。
背景にはつぎの要因があります。
年金の伸び悩み(物価上昇に追いつかない構造)
食料品や光熱費といった必需支出の増加
預貯金の取り崩し(デキュムレーション)の進行
高齢無職世帯では、通貨性預貯金・定期性預貯金の双方が減少し、有価証券の増加では補いきれない状況となっています。

4 しかし本質は「収入階層」の違い ~ 貯蓄の二極化は所得で進む
就業状態の違いは家計の傾向を理解するうえで有用です。しかし、貯蓄の増減をより正確に説明するには、収入階層の違いに目を向ける必要があります。
勤労者世帯にも低収入層があり、高齢無職世帯にも企業年金や金融所得が豊富な「現役並み所得」の世帯があります。
そのため、「勤労者 = 貯蓄増」「高齢者 = 貯蓄減」という単純な構図では実態を捉えきれません。
家計調査の収入階層別データをみると、つぎのような明確な傾向が表れています。
①高収入層では貯蓄が増加しやすい
年収1,000万円以上の世帯では、有価証券の保有比率が高く、株価上昇の恩恵を受けて貯蓄が増加しています。
物価上昇の影響を収入で吸収しやすく、預貯金を取り崩す必要が生じにくい点も特徴です。
②低収入層では貯蓄が減少または横ばい
年収300万円未満の世帯では、物価上昇の影響を直接受け、必需支出の増加を収入で吸収しきれず、預貯金の取り崩しが増えています。
投資に回す余力が乏しく、有価証券の保有比率が低いため、金融市場の上昇による恩恵を受けにくい構造です。
③二極化の本質は「収入の多寡」
勤労者世帯でも低収入層は貯蓄を増やしにくく、高齢無職世帯でも高収入層は貯蓄を維持・増加させています。
つまり、貯蓄の増減を左右するのは「年齢」ではなく、収入の多寡と資産構成の違いなのです。

5 今後の家計はどうなるか ~ 収入階層と就業状態の両面から展望する
2026年以降の家計を展望すると、つぎのような動きが予想されます。
①投資比率はさらに高まる可能性
NISAの恒久化・拡充により、家計の有価証券比率は今後も上昇する可能性があります。
高収入層では投資の活用が進み、資産形成のスピードがさらに加速するでしょう。
②高齢世帯の取り崩しは加速する可能性
物価上昇が続く場合、年金の実質価値は低下しやすく、預貯金の取り崩しはさらに進む可能性があります。
低収入層では生活費の増加が直ちに家計を圧迫します。
③二極化は収入階層を軸に続く
高収入層は投資を通じて資産を増やしやすく、低収入層は生活費の増加で貯蓄を維持しにくい構造が続くとみられます。
就業状態の違いよりも、収入階層の違いが家計の行方を左右する時代になりつつあります。

6 家計が今からできること ~ ライフステージと収入階層に応じた対策
最後に、一般家庭が今後の家計管理で意識したいポイントをまとめます。
①資産構成の見直し
低金利が続くなか、定期預金だけでは資産が増えにくい状況です。
普通預金・投資・保険のバランスを見直し、収入階層とライフステージに合った構成を考えることが重要です。
②老後資金の「使い方」を計画する
高齢期は「資産を増やす」より「資産を長持ちさせる」ことが重要になります。
取り崩しのペースや生活費の見直しを含め、計画的なデキュムレーションが求められます。
③専門家の支援を活用する
家計の状況は世帯ごとに大きく異なります。ファイナンシャル・プランナーなど専門家の助言を受けることで、より適切な資産管理が可能になります。

2025年の家計貯蓄は過去最高の2,059万円となり、勤労者世帯が増加を牽引しました。一方で高齢無職世帯は物価上昇や年金の伸び悩みを背景に貯蓄を減らしており、就業状態による違いが見られます。
しかし、貯蓄の二極化の本質は年代ではなく収入階層の違いにあります。
高収入層は投資の活用で資産を増やしやすく、低収入層は生活費の増加で貯蓄を維持しにくい構造が続いています。
家計の状況は世帯ごとに異なります。
データを参考にしつつ、自分の収入階層とライフステージに合った資産管理を行う。
それが、これからの時代に求められる姿といえるでしょう。
