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猫とお姫様

エミリはシルビア王国のお姫様です。

エミリの自慢は長い金髪の美しい髪です。

生まれたてからまだ一度も髪を切ったことはありません。

王様と王女からも、美しい髪だと褒められていました。

エミリは毎朝起きると、鏡の前に座って髪をクシでとかします。

髪が長いので、お手伝いさんにとかすのを手伝ってもらっています。

なんせ自慢の髪は、エミリの身長よりも長いのです。

一人ではとうてい上手くとかせません。

髪をとかしていると、一匹の白い、目の青い猫が2階の窓からこちらを覗き込むのが見えました。

とても美しい猫です。

「あら。またこの猫が来たわ。いつもこの時間になると、ここへやってきて、まるで私が髪をとかすのを見ているようだわ。」

「お姫様のことが大好きなんですわ。きっと。」

「だって、お姫様様の髪は世界で一番美しいのですもの。」

「そうかしら。そんなに美しいのかしら。」

エミリは鏡に映る自分の姿を見ました。

金髪で艶のあるウェーブのかかった、まるで金色のシルクのような美しい髪です。

エミリは鏡の中の自分にうっとりとしました。

ある日の夜、エミリが眠りにつこうとベッドに横になると、トントントンと音がしました。

「なんの音かしら。風の音かしら。あるいは、雨でも降っているのかしら。」

気のせいね。早く寝ましょ。エミリは気にせず目を閉じます。

すると、またトントンと音がしました。

どうやら、音は窓の外から聞こえているようです。

いやだわ。なんだか怖い。お手伝いさんを起こそうかしら。

エミリはそう思いましたが、怖いものみたさで、忍び足で窓にそっと近づきました。

そして、カーテンを覗くと。

そこには、青い目をした素敵な王子様が立っていました。

エミリはびっくりしました。

どうして王子様がこんなところにいるのだろう。

どうやってここまで来たのだろう。

カーテンを開けると王子様がにっこりと優しく微笑みました。

エミリは胸がドキッとしました。

王子様の笑顔が、青い目がとても素敵だったからです。

エミリが窓を開けると、王子様はさっと滑り込むように部屋の中に入ってきました。

そしてエミリの美しい髪をみつめました。

「なんて美しい髪なんだ。世界で一番美しい髪だ。」

王子様はそう言って、エミリの髪を何度も触りました。

まるで、大事な宝石に触れるかのように優しくそっと触りました。


次の日も、またその次の日の夜も、王子様はエミリの部屋にやってきました。

そして、エミリの髪を何度も何度も触りました。

まるで、エミリではなくエミリの髪にしか興味がないようでした。

ある時、エミリは王子様に言いました。

「あなたはまるで私の髪を愛しているようだわ。」

「そりゃあもちろん。この髪を愛しているよ。だって、とっても美しいのだもの。」

「もし私が、この髪の毛を切ったらどうするの?もうここへは来ないつもり?」

「そんなこと言わないでくれよ。悲しくなってしまう。まさか、本当に髪の毛を切るつもりじゃないよね?」

「さあ、どうかしら。」

エミリはそっぽを向きました。

何だか泣きたい気持ちになりました。

王子様はエミリの髪にしか興味がないようです。

この髪がなくなったら、王子様はもうエミリのところへはこないのではないかと不安になりました。

しだいに、エミリは大好きで自慢だった髪がうっとおしく感じるようになりました。

この髪がなくなったら、どんなに気持ちが楽だろう。

短い髪の自分の姿を想像したら、気分がスウッとしました。


ある日の晩、エミリは鏡の前に座りました。

手には、銀色のハサミを持っています。

エミリはすうっと息を吸い、口から息を吐きました。

背筋を伸ばして鏡の中の自分にあいさつをしました。

そして、エイヤッと、美しい長い髪を切ってしまいました。

目を開けると、鏡に映るエミリの髪は肩よりも短くなっていました。

エミリは絨毯の上に落ちた金色のシルクのようにキラリと光る髪を見つめました。

不思議と寂しさはなく心が軽やかになっていました。


トントントン。

窓をたたく音がしました。

カーテンを開けると王子様が立っていました。

王子様はエミリを見てにっこりと笑いましたが、エミリの髪がもう長くないことを知ると哀しみの表情を浮かべました。

王子様の青いサファイアのような目は、悲しみに満ちていました。

「とうとう本当に切ってしまったんだね。」

王子様はそういうと、エミリから目をそらしました。

「あの美しい長い髪はどこにあるの?」

「あの髪は、お手伝いさんにあげたの。彼女、私のあの長い髪を自分の髪に結ぶんですって。ずっと私の髪に憧れていたようだったから。」

王子様の顔がぱあっと明るくなりました。

「そう。そうなんだ。じゃあ、今じゃ彼女の髪はあの長い髪なんだね。」

王子さまはホッとしたようでした。


次の日、お手伝いさんはエミリの部屋には来ませんでした。

その次の日も、またその次の日もお手伝いさんは現れませんでした。

青い目をした白猫も姿を見せなくなりました。

エミリは窓を開けて外を眺めました。

すると青い目をした白猫が歩いているのが見えました。

その白猫の隣には、金色の毛をした猫が歩いていました。

金色の毛はとてもなめらかで、まるでシルクのようでした。


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