数値が下がるたびに、私は私に戻っていった
健康のことなんて、
自分とはまだ関係ないと思っていた。
若いし、体力もあるし、
多少無理しても大丈夫。
ずっとそう思い込んでいた。
20代後半。
会社の定期検診の結果表に、
ひとつだけ高い数字があった。
「コレステロール値」だ。
医師に深刻な表情で、
何かを言われたわけじゃない。
けれど、印刷された数字の横の「H」という一文字が、じわりと胸に刺さった。
思い当たる原因はすぐ浮かんだ。
仕事がうまくいかなくて、
焦って、苛立って、
ストレスの行き場を食べ物に求めていた。
暴飲暴食。特に間食。
満腹になると、一瞬だけ安心できた。
今思えば、あれは心の穴を埋めるためだった。
「このままじゃまずい」
そう思ったのは、
健康のためだけじゃなかった気がする。
何かを立て直したかった。
体のことも、生活も、仕事も、自分自身も。
その日から、自宅の筋トレと、
1日1万歩を自分に課した。
劇的な変化なんて、当然なかった。
でも翌年の検診で、
数字が少しだけ下がっていた。
その小さな変化が、やけに嬉しかった。
ようやく何かが前に動いたような気がした。
その翌年、また数字は下がった。
毎年ほんの少しずつ、着実に。
結果が積み重なるほど、
気持ちも前向きになっていった。
いつの間にか「やらなきゃ」じゃなくて、
「続けたい」に変わっていた。
今ではコレステロール値は正常に戻った。
身体が軽くなっただけじゃなくて、
心も軽くなった気がする。
改善した数字を見るたび、
あの頃の自分に少しだけ優しくできる。
健康を考えることになったきっかけは、
大きな病気でも衝撃的な診断でもなかった。
ただの「高い数字」と「小さな焦り」。
けれど、その小さなきっかけが、
確かに人生を前向きな方向へ押してくれた。
もう無茶をしなくてもいいし、
強がらなくてもいい。
数字が下がるたびに、
私は私に戻っていった。
