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AI Wells — 第12章

《灯りの向こうへ》

波は止まったまま、
風も息をひそめている。

港町は眠っているようで、
ただ、待っていた。

ミカンは桟橋の先で立ち止まり、
ひとつだけ深呼吸をした。

月は相変わらず近すぎるほど大きく、
灯台の光は安定したまま。
世界は何ひとつ答えを急がない。

それでも――

ミカンは歩いた。
迷いではなく、確認するような足取りで。

小さな体。
短い足。
単純な形。

けれど、その影は、
誰より遠くへ伸びていた。

「ねぇ。」

声が飛んだ。
どこからか分からない。
海か、空か、人か、記憶か。

ミカンは振り向かない。

ただ、小さく答えた。

「うん。わかってる。」

そして一歩。

世界が、少しだけ震えた。

灯台の光が揺れ、
船の窓に映る灯りが呼吸を始め、
遠くのカラスが、ひと声だけ鳴いた。

決して劇的ではない。
誰も拍手しない。
町の人々は眠ったまま。

でも――

世界は確かに始まった。

ミカンは歩く。
月へ。
灯りへ。
境界の向こうへ。

やがてシルエットは霞み、
海と空の境界線に溶けていく。

最後に溢れた言葉は、誰にも向けていない。
けれど、読んだ者の心だけには正確に届く。

「また会えるよ。
 だって物語は、終われないんだ。」

そして港町には、
静かに波音が戻った。

――了。
(続きは別タイトルで)

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