ASDは白か黒かだけではない ― “スペクトラム”の意味 ―神経発達症について(第2回/全7回)
前回は、神経発達症は「個人の欠陥」ではなく、「特性と環境の相互作用」で困りごとが生まれる、という話をした。
今回はASD。
自閉スペクトラム症。
昔は「自閉症」や「アスペルガー症候群」などと呼ばれていた。
現在はそれらをまとめて
[自閉スペクトラム症(ASD)]として整理している。
アスペルガー症候群と呼ばれていたものも、今はこのスペクトラムの中に含まれる。

“スペクトラム”とは何か
スペクトラムとは、連続体という意味だ。
白か黒かのように、はっきりと線が引かれているわけではない。
濃淡がある。
0か100かではなく、グラデーション。
例えば、
・明らかに困りごとが強く、支援が必要な人
・特性はあるが、環境が合えば問題なく生活できている人
・少し傾向がある程度の人
が地続きで並んでいる。
だからこそ、
「みんな少しはあるよね」
という言葉が出てくる。
それも間違いではない。
でも。
医療が見るのは、
“あるかどうか”ではなく
“困っているかどうか”。
ここで線を引く。
つまり、診断は“人を分類するため”ではなく、“困りごとを整理するため”にある。
この考え方は、ASDに限らない。
神経発達症全体に共通する視点でもある。
AD/HDも、LDも、知的発達症も、
白黒ではなく、連続性の中にある。
この「スペクトラム」という概念については、シリーズのどこかで改めてもう少し掘り下げたいと思っている。
今回はまず、ASDに当てはめて整理する。
ASDの特性
ASDの特性は、大きく分けると2つの軸がある。
① 社会的コミュニケーションの特性
② 限定的・反復的な行動や興味
例えば、
① 社会的コミュニケーションの特性
・空気を読むのが難しい
・言葉の裏を察するのが苦手
・比喩や冗談が伝わりにくい
・会話のキャッチボールが続きにくい
・一人の時間や一人の世界の方が落ち着く
例えば、
相手が遠回しに「今日はこの辺で」と言っても、本当に終わりたいという意味だと気づきにくかったりする。
冗談や皮肉をそのまま受け取ってしまうこともある。
会話でも、相手の話に合わせて話題を広げるより、自分が興味のある話を続けてしまうことがある。
また、集団の中で自然に雑談をするより、一人で好きなことに集中している時間の方が落ち着く人も多い。
② 限定的・反復的な行動や興味
・特定の分野に強い興味を持つ
・同じ話題について長く話し続ける
・強いこだわりがある
・日課や手順が決まっていて、それが変わると強い不安を感じる
・予定変更が極端に苦手
例えば、
電車、恐竜、ゲーム、歴史など、特定の分野について非常に詳しくなることがある。その話題になると何時間でも話せる、ということも珍しくない。
また、朝の準備や帰宅後のルーティンなどが決まっていて、それが崩れると強い不安や混乱が出ることがある。
予定変更が苦手で、突然の変更にうまく対応できず、パニックのような状態になることもある。
感覚の偏り
そして、よく話題になるのが感覚の偏りだ。
これは②の項目の一つとして挙げられている特性で、感覚の感じ方に偏りがあることがある。
例えば、
・蛍光灯の音が耐えられない
・服のタグがチクチクして着られない
・人混みのざわざわで頭が真っ白になる
・特定の匂いで吐き気がする
こうした感覚過敏がある人もいれば、
・怪我をしても痛みに気づきにくい
・強い刺激をあまり感じない
といった感覚の鈍さ(鈍麻)が見られることもある。
これは「わがまま」でも「気にしすぎ」でもない。
神経の情報処理の特性。
ただし。
感覚過敏がある=ASD、ではない。
特性は重なり合う。
多くの場合、困っているのは本人(家族)の努力不足ではなく、環境とのミスマッチだ。
だからこそ整理が必要になる。
診断はどうやってつけるのか
現在の診断は、DSM-5-TRという国際的な診断基準に基づいて行う。
平たく言うと、国際的に使われている“ここまでの症状があれば診断しましょう”というルールブックだ。これは今後AD/HDの記事、LDの記事にも出てくるので覚えておいてほしい。テストに出すよ。
全文をここに載せることはしない。著作権の問題もあるし、条文をそのまま並べても本質は伝わらない。
大まかに言えば、
①社会的コミュニケーションの持続的な特性
②限定的・反復的な行動や興味
③発達早期から存在していること
④生活機能に明確な影響が出ていること
上で説明した①、②がいくつかあり、③、④を満たすかどうかを総合的に判断する。
そして、その基準に当てはまるものを「診断」とする。
ここは曖昧にしない。
検査だけでは診断しない
心理検査や質問紙で「それっぽい結果」が出たから診断、というものではない。
補助的な検査はたくさんある。
・質問紙
・発達検査
・知能検査
・観察尺度
どれも参考にはなる。
でも、それ単体で診断が決まるわけではない。
あくまで診断基準に照らし、
発達歴や現在の生活への影響を含めて総合的に判断する。
これが原則だ。
もちろん、診察の場面では検査を中心に説明を受けたと感じる人もいるかもしれない。
伝え方は医師それぞれだ。
ただ、大前提としては、診断基準を踏まえたうえで総合的に判断している。
ここでは、その一般的な枠組みの話をしていると思ってほしい。
性格との違い
「一人が好き」「こだわりが強い」「空気を読まない」
これだけなら性格でも説明できる。
違いは、生活への影響。
学校で孤立している。
職場でトラブルが絶えない。
日常生活が回らない。
そこまでいくと、医療の出番になる。
特性そのものではなく、困りごとの強さで線を引く。
診断はゴールではない
ASDは医学診断名だ。
でも、治す、とはちょっと違う。
脳の発達の特性。
診断はラベルではなく、支援につなぐための道具だ。
合理的配慮を受けやすくするため。
本人が自分を理解するため。
困りごとを整理するため。
それ以上でもそれ以下でもない。
困っているなら整える。
困っていないなら、無理に医療に乗せる必要はない。
自分はそのくらいの距離で見ている。
次回
次回はAD/HD。
ASDと混ざりやすいが、構造はかなり違う。
そこを分解していく。
おまけ
古いけど、勉強の入門編としておすすめ
神経発達症シリーズ
第1回 神経発達症とは何か
第2回 ASDとは何か
第3回 AD/HDとは何か
第4回 LDとは何か
第5回 知的発達症とは何か
第6回 病院の役割は何か
第7回 発達障害は白黒ではない(まとめ
