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AD/HDは「落ち着きがない」だけではない― 注意と衝動の構造 ―神経発達症について(第3回/全7回)

前回ASDの話をしたので、今回はAD/HD。

注意欠如多動症。

昔は「注意欠陥多動性障害」と呼ばれていた。

そしてかなり昔は、

・不注意
・多動
・衝動性

この3つが揃っていないといけない、という扱いに近かった。

今は違う。

現在は

・混在型
・不注意優勢型
・多動/衝動優勢型

のように整理されている。

つまり、「落ち着きがない子」だけがAD/HDではない。

静かだけれど抜けが多いタイプもいる。
目立たないけれど衝動的なタイプもいる。



診断の枠組み

診断はASDと同じくDSM-5-TRを用いる。

全文は載せない。

著作権の問題もあるし、
ここに条文をずらっと並べても、きっと誰も最後まで読まない。

なので、構造だけを整理する。

大枠は、

・年齢に比べて明らかに持続していること
・複数の場面で見られること
・生活に支障が出ていること

そのうえで、特性は大きく3つの軸で整理される。


不注意の例

例えば、

・話を聞いているようで、細かい指示が抜け落ちる
・課題や作業を最後までやりきれず、途中で別のことに移る
・宿題や持ち物をよく忘れる
・物をよくなくす(筆箱、プリント、上履きなど)
・途中まではできているのに、最後の確認でミスをする
・黒板を書き写している途中で、どこまで書いたかわからなくなる
・遊びや作業に集中していても、周囲の音や出来事で気がそれやすい

これは単なる「だらしなさ」とは違う。

注意を持続させる機能の偏りである。


多動の例

・じっと座っていることが苦痛で、体が動いてしまう
・椅子に座っていても、足を揺らしたり体を動かしてしまう
・静かにする場面でも、体を動かしたり話したりしてしまう
・順番を待つ場面で落ち着いていられない
・授業中でも立ち上がってしまうことがある
・遊んでいるときも、次々と別の遊びに移っていく
・「静かにして」と言われても、体の動きを止めるのが難しい

「落ち着きがない」という言葉だけでは片付けられない。

身体のブレーキの弱さと考えると理解しやすい。


衝動性の例

・順番を待てず、思ったことをすぐ口に出す
・質問が終わる前に答えてしまう
・先の結果を考える前に行動してしまう
・思いついたことをすぐにやってしまう
・人の会話に割り込んでしまう
・危ないとわかっていても勢いで行動してしまう
・友達の遊びに突然入り込んでしまう

「考えてから動く」が難しい。

ブレーキよりアクセルが先に入る状態である。


もちろん、こうした行動はどの子にもある。
特に小さい子、そして男の子では、まあまあよく見られる。

だから、診断にまで至るかどうかは難しいとことがある。

その場だけの印象で決めるのではなく、
時間をかけて、変化があるのかどうかを見ていくことも大事である。

例えば5.6歳など、ある程度いくら男の子だろうと落ち着いてくる年齢で、これらが一定数当てはまり、しかも生活機能に影響している場合に診断になる。

やはりここでも、

「傾向がある」ことと
「診断になる」ことは違う。

今回は診断論を引っ張りすぎないが、
枠組みとしてはこういう構造だ。


AD/HDの特性の捉え方

よく使われる比喩はこれだ。

アクセルが強く、ブレーキが遅れる脳。

やりたいと思ったら体が動く。
注意が次々と別の刺激に引っ張られる。

怠けではない。

やる気の問題でもない。

制御機能の特性。

そしてこれもスペクトラム。

程度の問題であり、
環境との相互作用で困りごとが強くなる。


環境調整はやはり重要

ASDと同じ。

AD/HDも環境が整えば困りごとは減る。

・やることを視覚化する
・作業を細かく区切る
・刺激を減らす
・成功体験を積ませる

特性を消すのではなく、
困りにくい形に整える。

ここは基本。


薬という選択肢

AD/HDには治療薬があり、
状況によっては重要な役割を果たすことがある。

小児で使われる薬としては、例えば

・メチルフェニデート
・アトモキセチン
・グアンファシン
・リスデキサンフェタミン

作用機序(薬がどういう仕組みで効くのか)はそれぞれ違う。
日本では年齢・適応が決まっていて、専門医と相談しながら使う。

魔法ではない。

でも、合う人にははっきり効く。

生活が回り始める子もいる。

だからこそ、

「薬は怖い」か「薬で全部解決」か、
どちらにも振れすぎない方がいい。

特に、怖いという親御さんは多い。
やはり、脳に直接作用をするから…
と言われることはたくさんある。

しかし、効果のある子にはとても効果がある。
飲んでみないと正直わからないが、怖がって飲まなくて、実はとても効果があるって人には実にもったいない。

そんな時は、こう考えてみてほしい。

目が悪かったとしたら、メガネをかける。
足が折れていて歩きづらかったら松葉杖、車椅子を使う。
遠くに行きたければ、車や電車を使う。

ここに抵抗がある人がいるだろうか?

感覚としては、それくらいで考えて欲しい。
生活のため、便利な道具。

その子が本来持っている力を出しやすくするための道具である。

試してみて効かなかったら辞めればいい。

怖い気持ちももちろんわかる。
だからこそ、処方する医師としっかり話し合って、でも頭から否定はしないで、選択肢として考えて欲しい。


成人AD/HDについて

ここは正直に。

自分は小児科医で、
成人のAD/HDは普段診ていない。

診断の流れや処方の実情については詳しくない。

なのでこのシリーズでは、
子どもの話を中心にする。

知らないことは知らないと言っておく。


鉄や亜鉛の話

鉄欠乏がある場合、補充で改善する可能性がある、
という研究はある。

亜鉛も同様だ。

ただし。

「劇的に改善する」と言い切れる段階かと言われると、
そこはまだ慎重に見るべきだと思っている。

採血で明らかな欠乏があれば、
補充を検討するのは自然。

でも、

サプリで集中力が劇的改善、
という表現を見ると、

少し誇大ではないかと感じることもある。

飲むことを否定はしない。

ただ、

「よくなればいいな」くらいの気持ちで。

できれば医師と相談しながら。

このテーマだけで1本書けそうなので、
どこかで改めて触れるかもしれない。


AD/HDもまた、白黒ではない

落ち着きがない子、ではない。
だらしない人、でもない。

制御の特性。

そして環境との相互作用。

診断はゴールではない。

困りごとを減らすための道具。

そこに尽きる。

次回はLD。
学習障害と呼ばれるもの。
「勉強が苦手」とは、同じ意味ではない。


おまけ

これはどちらかというと医療者向けだが、すごく勉強になった。家族が読むにはちょっと難しいかも。興味がある医師の方はぜひ。

網羅的に書いてあって、内容もいいんだけど、ちょっと文字多い。
けど家族が読むにはおすすめ。


神経発達症シリーズ

第1回 神経発達症とは何か
第2回 ASDとは何か
第3回 AD/HDとは何か
第4回 LDとは何か
第5回 知的発達症とは何か
第6回 病院の役割は何か
第7回 発達障害は白黒ではない(まとめ


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