AI同士で仮想ユーザーインタビューを20人分やらせてみた — 個人開発を始める前にやるべきだった検証の話
こんにちは。ミセリクの橋本です。
普段は会社員としてUX/UIデザイナーをしていますが、副業でまちづくりプラットフォーム『ミセリク』を開発・運営しています。
今回は、AIエージェント同士に「インタビュアー役」と「インタビュイー役」を演じさせて、仮想のユーザーインタビューを20人分実施した話です。
やってみた結果、事業の弱点が改めて言語化され、次に注力すべきことへの確信が持てました。
一方、これはあくまで予行演習であって、本物のユーザーの声の代わりにはならないので、そのあたりの割り切りも含めて書きます。
なぜ仮想ユーザーインタビューをしたのか
いま私は、あるビジネスコンテストへの応募に向けて、事業計画書をブラッシュアップしています。
市場規模を試算し、価格戦略を組み立て、収支計画を書くといった作業を進める中で、ある不安が頭をもたげてきました。
そもそも住民や出店希望者や不動産屋さんにとって、ミセリクは本当に価値があるんだろうか?
サービス公開から7ヶ月。
登録ユーザーは50人を超え、多くの方に興味を持っていただき、応援もしてもらえています。
しかし、「ここにこんなお店がほしいという声を地図に集める」というコンセプトそのものを、体系立てて検証したことは一度もなかったのです。
本来なら、実際のユーザー候補に直接インタビューすべきです。
ただ、副業の限られた時間でアポを取って話を聞くのは難しく、コンテストの締切も迫っています。
そこで、AIエージェント同士でインタビューをさせ、一般的な示唆(インサイト)だけでも先に得ておくことにしました。
私はUXデザイナーとして実ユーザーへのインタビュー経験があるので、そのノウハウをAIに移植すれば、予行演習としては機能するはずだという読みがありました。
どうやったか — バイアスとの戦い
AIにインタビューをさせる場合、開発者に都合のよい答えが返ってくるリスクがあります。
そこで、実インタビューの設計セオリーをそのまま持ち込みました。
情報隔離:インタビュイーには事業計画や仮説は一切見せない
性格の多様化:各セグメントのインタビュイーを異なる性格に振り分ける
行動ベースの質問:「今どうやっていますか?」といった過去の行動を聞く
誘導質問の禁止:「便利だと思いませんか?」のような質問は禁止
忖度の禁止:無関心な返事も話の脱線も「分からない」も許容する
後ろの4つは、それぞれの役のAIへの指示として書き込めば足ります。
一方、最初の情報隔離だけは指示で守らせても意味がありません。
AIに「知らないふりをして答えて」と頼むようなものだからです。
そこで、AIエージェントの役割を3つに分け、渡す情報そのものを断ちました。
メインエージェント:インタビュアー役とインタビュイー役の2体を起動し、全員分の対話が終わった後にログを回収してまとめて分析する
インタビュアー役:質問表と仮説を持ってインタビュイー役と直接対話し、聞き出した内容と所見をメインエージェントに持ち帰る
インタビュイー役:ペルソナカードと質問文だけを受け取り、指定された人物像になりきって答える
仮説を知っているのはメインエージェントとインタビュアー役だけで、問いに答えるインタビュイー役はそれを知りません。
開発者に都合のよい回答が紛れ込む余地を、運用ルールではなく仕組みとして潰しています。
また、この一連の流れ(仮説立案 → 質問表の作成 → インタビュー実施 → 分析)は、それぞれ再利用可能なスキルファイルとして整備したので、次回仮想インタビューする際も同じ品質で実行することができます。
誰に聞いたか — 4セグメント20人
インタビュイーは、ミセリクのステークホルダー構成に合わせて4セグメント✕5人=20人を設計しました。
各セグメントのペルソナをベースに、性格・ITリテラシー・金銭感覚などの変数を振って多様化させています。
住民:データを提供してくれるミッションの主役
ベビーカーで入れるカフェがなくて困っている34歳の子育て主婦
「どうせ何をやっても変わらない」が口癖の72歳年金生活者
地元に興味がない28歳の単身会社員
ガラケーからスマホに変えたばかりの商店街の青果店の奥さん
東京から移住してきた26歳のリモートワーカー
出店検討者:物件を探して出店したい人たち
貯金800万円でカフェ開業を夢見る慎重な会社員
広告屋とコンサルは信用しない2号店検討中のラーメン店主
キッチンカーから実店舗化したいクレープ屋さん
地方移住してパン屋の物件を6ヶ月探し続けている夫婦
5年前に雑貨カフェを2年で閉めた再挑戦者
不動産事業者・物件オーナー:物件を貸したい・活かしたい人たち
レインズと紙の台帳だけで35年やってきた老舗仲介店主
店を閉めて8年になる商店街の高齢オーナー
父の会社を継いだIT積極派の2代目
管理物件600戸を抱えて空き店舗の優先度が低い管理会社の課長
空き家再生NPOを兼務する熱心な宅建士
展開チャネル:住民の声を事業者に届けるために欠かせない協力者たち
前例主義の壁に挟まれた政令市の商工担当
地域おこし協力隊OBの町役場空き家担当
組合員の平均年齢65歳超という商店街の理事長
役員3人で即決できる団地商店街の若手役員
回覧板を握る慎重な自治会長
何が確認できたか — 5つのインサイト
20人分の対話ログを分析した結果、事前に立てた10個の仮説の多くは支持されました。
正直に言えば、その多くはインタビューしなくても分かっていたことです。
それでも、感覚でしかなかったものに具体的な言葉と裏付けがつきました。
特に重要だと思ったインサイトを5つ紹介します。
1. すべては「鶏と卵」問題に行き着く
出店検討者と不動産事業者は、10人中9人が同じ懸念を口にしました。
自分の見てるエリアにちゃんと投稿が集まっていること。空っぽの地図に1,000円は払えない。
地方都市で住民が何百件も書き込むとは思えない。数件で出店を決める博打はできない。
すべては対象エリアに投稿が集まっていることが前提。
事業者は、地図がリクエストで埋まるまで動きません。
では、その地図を住民が埋めてくれるかというと、こちらも難しい。
性格を前向きに振ったはずの子育て主婦ですら、「最初は見るだけ」と答えました。
ママ友が何人か使って「便利だよ」と言っていたら、投稿してみるかも。友達次第。
書きたくないのではなく、名前も知らない個人が作ったサービスに、最初の一人として書き込むのが怖い。
身近な誰かが使っていれば続く、ということです。
つまり両側とも「他の誰かが先に動いたら」と言っていて、最初のひと転がしが必要になります。
では、誰が最初に転がすのか。
実績も知名度もない私が直接住民や事業者に呼びかけても、登録や投稿をしてもらうのは高いハードルがあります。
だからこそ私は、まず特定の地域に地盤と人脈を持つ人に声を掛けて実証実験に協力してもらい、彼らの信頼を伝って住民や事業者へ広げてもらおうとしています。
実際、仮想インタビューで「自分が投稿を撒いてもいい」と言ってくれたのも、まちづくりに関わる宅建士や移住者でした。
2. お金を払う対象は「閲覧」ではなく「接触と通知」
見るだけなら無料でたまに見る、お金は出さない。
これは、閲覧は無料にするという当初の設計判断を裏付ける反応でした。
では何にならお金を払ってもらえるのか。
住民に直接「どのくらいの頻度で来ます?いくらまで出せます?」と聞けるなら、それこそ欲しかったもの。
通知と、住民に直接質問できる機能にこそお金を払いたい。要望を眺めるだけの機能にお金は出さない。
「この声は本物か」を確かめる接触機能と、動きを逃さない通知。
ここに支払い意思が宿っていました。
3. 声の信憑性への根深い不信
「ほしい」と言う人と実際に金を払って通う人は別の生き物。「素敵!また来ます!」と言って二度と来なかった人が山ほどいた。
ネットで「ここにラーメン屋ほしい」は誰でもタダで書ける。ふわっとした願望でなく、実際にお金を払って通う気があるかを知りたい。
耳が痛い指摘ですが、これは実店舗を経営した人(を演じたAI)にしか語れないリアリティです。
リクエスト件数だけでなく、投稿者の訪問意志等が見える設計が必要なようです。
4. 「集めて終わり」への警戒
一番ハッとさせられたのは、団地商店街の役員の言葉でした。
手間の負担と住民の期待を裏切る不安、どちらが協力しない決定打になるかを深掘りしたときの回答です。
住民との距離が近い分、「あのとき声を聞いてくれたのに結局何も変わらなかったね」と言われるのが一番怖い。近い関係は、期待を裏切ったときのダメージも大きい。
一方、住民の側からはこんな声がありました。
ピンを刺したところに店ができたら一番乗りで行きたい。完成だけでなく途中経過も知りたい。
声を集めるだけで終わらせず、実際の出店につながる道筋を見せることが、投稿を続けてもらうためにも、地域の協力を得るためにも欠かせない、ということが見えてきました。
5. 行政・自治会の協力条件は、機能ではなくプロダクトの設計制約
政令市の商工担当役は、協力できる条件を具体的に挙げてきました。
エリア単位の表示に限定すること
ポジティブな要望に限定すること
既存店や個人の特定を弾くこと
削除の責任主体が明確なこと。
この4点が守られるなら協力可能、個別物件の無同意の名指しは越えられない線だと。
これらは機能要望ではなく、最初から設計に組み込むべき制約です。
幸いミセリクは匿名投稿を可能にしており、投稿ガイドラインや通報機能等でネガティブ投稿を排除する設計を最初から採っていたので、方向性が正しかったことの確認にもなりました。
AIインタビューの限界
ここまで読んで「AIの回答に意味あるの?」と思われたかもしれません。
その感覚はもっともだと思います。
AIペルソナの回答は、学習データに基づくもっともらしい平均に寄ります。
実在ユーザーの意外性、非合理な行動、そして何より実際にお金を払ってもらえるかどうかは再現できません。
そのため、この結果は事業計画書やコンテスト応募書類のエビデンスとしては使いません。
位置づけはあくまで、実インタビューの予行演習と今後の開発方針立案の参考情報です。
ネクストアクション
今回のインタビューで得られたインサイトから、エリアやカテゴリやキーワードを指定して新着投稿通知を受け取れる機能を開発し、今回リリースしました。

この機能によって、出店検討者の「自分が狙っているエリアのリクエストや募集物件を知りたい」、住民の「自分のほしいお店の出店計画を知りたい」、不動産事業者の「自分の担当エリアの出店計画やリクエストを知りたい」といったニーズに応えることができるようになりました。
また、今後は以下の機能の開発にも着手する予定です。
リクエスト投稿時にユーザーが属性(在住・在勤等)を選択する機能
出店計画のステータス(検討中→準備中→出店済)が変わった際に住民に通知する機能
事業者から住民へのダイレクトメッセージ機能
反省
この検証は、本来ミセリクの開発に着手する前にやるべきでした。
スタートアップ企業向けのマネジメント手法を解説した、エリック・リース著『リーン・スタートアップ』では、「作る前に顧客の課題を検証する」という考え方が語られています。
私はそれを知識としては知っていながら、作りたいという情熱に突き動かされて、先にプロダクトを作ってしまいました。
今回のインタビューで出てきた論点の多くは、開発前に同じことをやっていれば、機能の優先順位をもっと早く正しく置けていたはずです。
これから個人開発を始める方には、開発前にAI仮想インタビューをやることをおすすめします。
自分のビジネスアイデアの妥当性を簡易的に検証するにはコスパの良い手段だと思います。
おわりに
私の夢の実現には、皆さんの協力が欠かせません。
もし「面白そうだな」「応援してみようかな」と思っていただけたら、以下の形で関わっていただけると本当に嬉しいです。
地域おこし協力隊・自治体関係者の皆様へ
空き家対策や賑わい創出の現場で、ミセリクを実験的に使ってみませんか?
「住民の声」というデータを武器に、地主さんへの説得やテナント誘致をサポートさせていただきます。
不動産事業者・出店検討者の皆様へ
「決まらない物件」や「出店場所探し」に、ミセリクのデータを活用してください。
現在、無料モニターを募集中です。
住民の皆様へ
無料・匿名で利用できますので、あなたの街の「ほしい!」を教えてください。
その1つのピンが、街を動かすきっかけになります。
応援してくださる皆様へ
この記事のシェアや「スキ」が、個人の限界を超えるための大きな力になります。
また、もしお知り合いに不動産屋さんやお店を開きたい人がいたら、「こんなサービスがあるよ」と声をかけていただけると有難いです。
これからもミセリクをよろしくお願いいたします!
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