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Yom Kippur(ヨム・キップール:贖罪日)の法理と構造 2回目:「Yoma」 1章3節~5節における家畜規定の詳細とサドカイ派対抗の法理的背景

*本稿は「ヨム・キップール(Yom Kippur:贖罪日)」の祭儀構造を、旧約聖書(トーラ)レビ記16章と、その実効的解釈を規定する口伝律法ミシュナ「Yoma(ヨマ)」篇の原典に基づき解明するシリーズ2回目。

 今回は、1章3節から5節を扱い、当日の供え物(雄牛・雄羊・小羊)の厳密な頭数算定(tamidおよびmussafの定義)を詳述。更に大祭司の聖別を維持するための生理的制限や、至聖所内での奉仕を巡るサドカイ派との教理的対立、そしてアヴティナスの部屋で行われる誓約の儀式が持つ法理的必然性を、一次資料の専門的視座から解説する。


前回の振り返り


 前回は、聖所の空間構造、7日間の大祭司の隔離、隔離期間の大祭司によるtamid奉仕、サンヘドリンのラビたちによる教育・指導について扱った。以下、それぞれの項目について要点を振り返る。

【1】聖所の空間構造と贖罪日の定義

 新約聖書の『ヘブライ人への手紙』9章を端緒に、聖所(燭台やパンの机がある場所)と至聖所(契約の箱が置かれた場所)の構造が触れられた。

 祭司は毎日、聖所に入って奉仕を行うが、至聖所には大祭司のみが年に一度、ヨム・キップールの日にだけ入ることが許される。

【2】大祭司の7日間の隔離

 ミシュナ「Yoma」によれば、ヨム・キップールの7日前から大祭司は自宅を離れ、神殿敷地内の北側にある「公の部屋(材木の部屋)」に隔離される。

 最大の理由は、月経の汚れ(niddah:ニッダー)に触れた妻との接触による祭儀的な汚れを避け、聖別を維持することである。

 大祭司が不適格(汚れるなど)になった場合に備え、代わりの祭司も確保されている。

【3】実務訓練と優先権

 隔離期間中、大祭司はヨム・キップール当日の奉仕に習熟するため、日毎の献げ物(tamid:タミッド)などの奉仕を自ら行う。

 通常、大祭司にはこれらの奉仕を他の祭司に任せる権限があるが、この期間はヨム・キップール当日のための準備として義務的に行う。

【4】サンヘドリンによる教育

 最高法院(サンヘドリン)から派遣されたラビたちが、大祭司に対して奉仕内容を朗読・指導する。

 これには、ハスモネア朝期に大祭司職が売買の対象となり、資質や知識の乏しい大祭司が存在したという当時の残念な社会情勢も影響している。

 このように、ヨム・キップールの祭儀は、レビ記の記述を口伝律法(ミシュナ)が実効的に解釈・補完することで、その厳格な構造が維持されていた。

 以上の内容に不安な方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉Yom Kippur(ヨム・キップール:贖罪日)の法理と構造 1回目:ミシュナ「Yoma(ヨマ)」1章1節~3節に見る大祭司の隔離と聖別規定

https://note.com/mishnah/n/n5188d60d1205

ヨム・キップール前日の儀礼:東の門(ニカノールの門)における供え物の検分


 今回はその続きである。ミシュナ「Yoma」1章3節の続きから引用する。

 ヨム・キップール前日の朝、彼らは大祭司を東の門に立たせ、その前に牛、雄羊、小羊を引いてくる。大祭司が翌日もそれらをよく見分け、奉仕において誤ることのないように。

(Yoma 1:3)

 神殿の敷地は西の奥が聖所と至聖所になっている。東の門はその再反対側に位置する。当日の祭儀の流れをシミュレーションする必要上、この「東の門」はニカノールの門と思われる。ただし異説もある。

ニカノールの門

 連れて来られるのは牛、雄羊、小羊である。その数と構成が複雑である。順番に解説する。

 まず雄牛であるが、レビ記16章3節以降において、聖所と至聖所で血が振りかけられるいけにえとして1頭用いる。

 また、mussafとしても別に1頭用いる。mussaf(ムーサフ)とは 安息日と祭日に献げられる追加のいけにえのことである。mussafについては小羊のところで少し復習する。

 次のように書かれている。

 7第七の月の十日には聖なる集会を開く。あなたたちは苦行をし、いかなる仕事もしてはならない。 8また若い雄牛一頭、雄羊一匹、一歳の羊七匹を焼き尽くす献げ物として主にささげて宥めの香りとする。それらは無傷のものでなければならない。

(民29:7~8)

 そこで、ヨム・キップール当日には、雄牛は2頭用いることになる。

 次に雄羊であるが、焼き尽くす献げ物として2匹(レビ16:3、5)、上記mussafの焼き尽くす献げ物として1匹用いるので、合計3匹である。

 最後に小羊であるが、小羊はtamidとmussafのものと思われる。ここで両者を簡単にまとめておく。

①tamid

 毎日の日毎の焼き尽くす献げ物のいけにえのこと。

 無傷の一歳の羊二匹を、日ごとの焼き尽くす献げ物として、毎日、朝夕に一匹ずつ、ささげなさい。

(民28:3~4)

 この「羊」は小羊である。tamidで2匹用いる。

②mussaf(ムーサフ)

 安息日と祭日に献げられる追加のいけにえのこと。上記引用箇所を再掲する。

 7第七の月の十日には聖なる集会を開く。あなたたちは苦行をし、いかなる仕事もしてはならない。 8また若い雄牛一頭、雄羊一匹、一歳の羊七匹を焼き尽くす献げ物として主にささげて宥めの香りとする。それらは無傷のものでなければならない。

(民29:7~8)

 mussafの小羊は7匹用いる。従って、ヨム・キップール当日、小羊は全部で9匹用いることになる。

祭儀用家畜の法理的算定:tamid(常時捧げ物)とmussaf(追加の捧げ物)の内訳


 まとめると、前日にニカノールの門で大祭司が確認するいけにえの数は、以下のようになる。

【1】雄牛2頭(贖罪の献げ物とmussafの焼き尽くす献げ物)

【2】雄羊2匹(レビ記16章3節、5節の焼き尽くす献げ物)

【3】小羊9匹(tamidの焼き尽くす献げ物とmussafの焼き尽くす献げ物)

 大祭司はそれらを注意深く確認し、供え物の順序や、翌日執り行う儀式のイメージをしたものと思われる。引用の通り「大祭司が翌日もそれらをよく見分け、奉仕において誤ることのないように」(Yoma 1:3)と書かれている。

 ここで注意すべきは、ヨム・キップールの祭儀では雄山羊も使われるが、それは連れて来られないという事である。

 雄山羊はレビ記16章15節以下で書かれている通り、イスラエルの民全体の贖罪の献げ物に用いられる。

 連れて来られない理由は、大祭司はこれを正視することが耐え難いことであるからと言われている。

 雄牛も贖罪の献げ物であるが、それは大祭司とその一族の為のものである。

 次節に進む。

大祭司の聖別維持:「Yoma」1章4節における生理的汚れの予防規定

 7日間の間、大祭司は普段通りに飲み食いするのを妨げられない。しかしヨム・キップールの前日の夜にかけて、彼らは大祭司に多くを食べさせない。眠気に襲われないようにする為である。

(Yoma 1:4)

 「7日間の間、大祭司は普段通りに飲み食いするのを妨げられない」。これは本文の通りで、難しいところは無い。

 しかしヨム・キップールの日の夜(私たちの感覚では前日の夜)では「多くを食べさせない。眠気に襲われないようにする為である」とあるように制限がかかる。この理由は単純で、寝ている間に射精してしまったら、彼が汚れてしまうからである。

 この汚れはmikvehで清めても、次の日没までは完全に清くならない。それを予防する為に徹夜するのである。

 トーラには次のように書かれている。

 もし人に、精の漏出があったならば、全身を水に浸して洗う。その人は夕方まで汚れている。

(レビ15:16)

 大祭司にとって、朝からの祭儀に入る前に、ヨム・キップールの過酷な1日が始まっていることになる。

 次節に進む。

アヴティナスの部屋における誓約:至聖所献香とサドカイ派的解釈の排除

 法廷のラビたちは大祭司を祭司たちの部屋に隔離する。彼らは大祭司をアヴティナスの部屋の上階に連れて行く。注意を促し、大祭司のもとを去る。
 彼らは彼に言う。「主人である大祭司よ、わたしたちは最高法院の遣いであり、あなたはわたしたちの遣いです。わたしたちはあなたに、この神殿にお住まいの方にかけて誓って下さるようにお願いします。わたしたちがあなたにお告げした内容を何も変えないという事を。」
 彼は顔を背け、泣く。彼らも顔を背け、泣く。

(Yoma 1:5)

 最初の文「法廷のラビたちは大祭司を祭司たちの部屋に隔離する」は、いつの事を言っているのか議論されているが、一応夜であろうとされている。

 「アヴティナスの部屋の上階」については、まず場所を確認する。以下の所である。

アヴティナスの部屋

 言葉で言うと、アヴティナスの部屋は「水の門」の隣(?)の部屋である。それは「アヴティナスの部屋の上階」と呼ばれている通り、2階部分になると思われる。

 名前については、アヴティナスの一家は神殿で用いる香を作る役割を担っていた。この部屋で調合していたものである。

 香料の作り方については、出エジプト記30章34節以下に記されている。気になる方はそちらを確認して欲しい。この香は私的に作ったり、あるいは合法的に作られたものでも、私的に用いてはならない。

 7日間朗読し、奉仕について教えていたサンヘドリンの長老たちは大祭司をそこへ連れて行く。そこには年配の祭司たちが彼を待っていて、ヨム・キップール当日の献香の奉仕について教える。

 従って冒頭の「祭司たちの部屋」と「アヴティナスの部屋」とは同じ場所を指していると思われる。「祭司たちの部屋」と呼ばれる場所の一部がアヴティナスの部屋という一般の解説を見たが、その真偽は確かではない。

 ともあれヨム・キップールの祭儀で最も困難な部分は、至聖所の中の献香である。年配の祭司たちがそれについて丁寧に教える。

祭司たちの悲哀:異端回避の誓約が孕む宗教的緊張


 それから、上に掲載したことを大祭司に言い、誓うように求める。

 「主人である大祭司よ・・・(中略)・・・わたしたちはあなたに、この神殿にお住まいの方にかけて誓って下さるようにお願いします。わたしたちがあなたにお告げした内容を何も変えないという事を」

(再掲 Yoma 1:5)

 この誓いを求める理由は、サドカイ派がヨム・キップールの祭儀について、口伝と異なることを教えている為である。サンヘドリンの長老たちは、モーセ以来の口伝律法に従うことを、大祭司に求めているのである。

 特に至聖所は大祭司以外誰も入ることが出来ない。従って大祭司が律法に従っているかどうか、確認する術が無いのである。

 「彼は顔を背け、泣く。彼らも顔を背け、泣く」とは、大祭司が異端を疑われていることを嘆き、長老たちは疑うことを嘆いていることを言っている。

 今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉ 【シリーズ目次】ミシュナ『Yoma』法理研究

https://note.com/mishnah/n/n7222129b891f


 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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